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ビューティー・オーク  ~ オークになった美容外科医、世界を変える ~  作者: 香坂 蓮
ちょっ! マジ、自分違うんっすよ! 不審者じゃないッス! ……誘拐犯っ!? 違いますからっ!
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~ 第四話  再会……いや、変質者じゃないッスよ? ~  

途中のトイレについてのお話……ゴメンなさい。反省してます。後悔はしてません。


では、どうぞ!

 少しずつ少しずつ、人間が集落へと近づいてくる。おかげで俺たちは行動範囲を狭めなければならず、狩りや採集すらままならなくなりつつある。


 いよいよ、武器を取るべき時が近づいてきたのかもしれない。


 このままではジリ貧、集落まで辿りつかれるのも時間の問題だ。それだけはあってはいけない。子供や年寄り、戦えないのはオークも人間も一緒だ。まぁ、オークの場合子供はあっという間に戦えるようになるんだけどな。


 過酷な森の中、天寿を全うする直前まで生きてきて、最後の最後に集落ごと滅ぼされるなんてことがあってはならない。あまりにも悲しいじゃねぇか.


 戦いの得意なオークが少数で、森の中にある人間の拠点を攻める。全滅させるか追い返すか、それしか手はない。夜の森ならば、チャンスは十分にあるだろう。人間時代に比べて圧倒的に夜目が利くようになった俺が言ってるんだ、間違いない。

 

 集落全体に、ピリピリとした空気が流れる。緊張感に、お腹が痛くなりそうだ。


 今までも、命の危険にさらされたことなど何回もあった。というか、森の中でオークとして生きるということは、常に死の危険と隣り合わせだ。


 だけど、ここまでの緊張感は初めてだ。相手は人間……負ければ、殺されるだけで済むかどうか。


 以前に、人間に殺されてしまったオークのことを思い出す。そのオークは、首を刈り取られてしまっていた。森の中に転がる、首から上の無い遺体……まるで親の仇かのように傷つけられた上半身。あれは今でも瞼に焼き付いてやがる。


 ……ダメだ。マジで腹が痛い。


 トイレに行こう。まぁ、そんな洒落たモノは無いから、集落から離れたところにやりにいくだけなんだけどな。

 

 ……気分が暗くなりそうなので、ここでアルト先生のワンポイントレッスンだ!


 今日は、オークのウ○コ事情について。


 大雑把なことで有名なオークだが、ウ○コの処理については、割りとしっかりしてるんだ。

 

 流れとしては、まず集落から離れた場所に移動する。今みたいに腹が痛い時はマジで辛い。そして、ウ○こをする。出た後は、土の中に埋める。葉っぱでお尻を拭く。という流れだ。


 そう……なんとオークは、お尻をちゃんと拭くんだよ。しかも、香りが強めの葉っぱを使って!


 よく考えてみ? オークって、顔が豚じゃん? 鼻……デカいじゃん? 臭い、気になるじゃん?


 ってなわけで、オークは割と清潔にしてるんだよ。集落の側にある水場で、身体を拭いたりもするしな。


 大きな声では言えないけど、アルミンの包茎手術の際に思ったより臭いが大丈夫だったのも、日ごろの清潔の成果だ。……まぁ、臭かったけどな。


 集落から離れた俺は、周りを見渡して腰巻を下ろす。人間も他の動物もいないっぽいので、今がトイレチャンスだ。


 ふぅ……間に合った。


 トイレシステムが無いとはいえ、垂れ流しはかっこわるいからな。なにせ俺はイケメンオーク、マナーにはしっかりとした男でありたい。


 トイレを済ませ、お尻もしっかりと拭いた俺は、ふと周りを見渡す。なんとなくだけど、声が聞こえた気がしたんだよな。ちなみにウ○コは既に土の下……いい肥料になってくれ。


 今いる場所は、森と人間の街との間くらいといったところか。もう少し行けば、人間が森の中に作った拠点が見えてくるだろう。


 警戒をしつつ、声の方へと歩みを進める。武装系の人間だった場合はさっさと逃げる気満々だ。


――……まっ!


 ん? なんとなく、女の子の声っぽい気がする。


――……ますっ!大賢者様っ!


 大賢者様?


 はて……この森に、そんなファンタジー丸出しのお方がいらっしゃるのかい? だとすれば大賢者様、どうかこの哀れなオークに人間の文字を教えてください。


――大賢者様っ!お願いします!助けてくださいっ!


――もう帰りましょうっ! これ以上は危険です! 魔獣が現れたらどうするんですかっ!?


 魔獣……もしかして、オークも魔獣に入る? 俺たち、魔法使えないぜ?動物扱いじゃないの?


 まぁそれはさておき……なんとなく聞いたことがある声だな。助けを求めてるほうが。


 ってか、聞こえた声は二つとも女の子のモノで、他の声は聞こえない。森の中だぜ? 危ないだろーに。


 足音が鳴らないように、こっそりゆっくりと忍びよる俺。……女の子に忍び寄るオークって、絵的に不味いよな。俺、無実だぞ?


「だって……私のことは助けてくれたんです。きっと……きっとリリー様のことも助けてくださるはずなんです!」


「メアリー……貴女の気持ちはとても嬉しいです。ですが、貴女が魔獣に襲われたら、私はとても悲しいです。私の顔なんかより、貴女の命の方が大事に決まっているじゃないですか」


 なんか、深刻そうだな。


 ってか……メアリー?


 メアリーちゃんじゃん!? おぉ、懐かしい! 元気してるのかな! ちゃんと人里に帰れてたのかな?


 ん? 誰よその女ってか?


 おいおい、俺はイケメンだぜ? そりゃあ言い寄って来る女の子の一人や二人……はい、すいません。ちゃんと説明します。


 あの子の名前はメアリー。


 メアリー……なんだっけ? ファミリーネームを聞いてなかった気がする。……俺としたことがっ!


 まぁいい。とにかくメアリーちゃんだ!


 彼女はある日、俺がクマの代わり出会った、赤ずきんちゃんみたいな女の子だ。どうも自分の顔に悩んでいたらしく、そこで俺は初めてスキルを使うことになった。


 要は、アルトに生まれ変わってから初めての患者さんだな。

 

 しかし、また何か悩んでるみたいだな。思春期のお嬢様だ。悩むのは仕方ない。恋バナとかしたい年頃なんだろう。


 だけど、悩む度に森に入るのはよくないぜ?ここには俺みたいな紳士な奴しかいないわけじゃない。狼だっているんだぜ? ……リアルなやつがな。


 耳を澄ませて、メアリーちゃんともう一人との会話を盗み聞きする。趣味は悪いが、状況把握のためだ。変質者って訴えないでね?


「……私はっ! 顔が醜いことの辛さを知っています。女の子にとって顔は、命と同じくらいに大事なものです! だからっ……リリー様の顔も治って欲しい!」


「メアリー……」


「大賢者様は、ただのブスだった、ブスであることに逃げていた私ですら助けてくれました。だったら、何も悪いことをしてないリリー様を助けてくれないはずがないんです」


 ……おや?


 なんとなく、背筋がゾワッとしたぞ?


「きっと、騎士様や魔法使い様がいっぱいで、警戒しているだけです! 大賢者様はオークの姿だから……見つかったら殺されると思っているだけなんです!」


 オークの姿をした大賢者。ブスであることに逃げていたメアリーちゃんと助けた。


 ……俺だよね? 大賢者?


 マジで!? 俺ってばいつのまに、大賢者に昇格してたの?


 イケメンオークの大賢者とか、すげぇモテそう! ……どこの層からモテるんだ?


「メアリー……貴女の気持ちはとても嬉しいです。ですが、大賢者様が現れてくださらないということは、私の顔は治すべきではないということなのでしょう。これは、私への罰なのです」


 さらに少し、二人に近づいてみる。


 一人は間違いなくメアリーちゃん。そしてもう一人は……顔に包帯を巻いているっぽい。


「……罰?」


「はい。私はきっと、アレクシアお姉さまの心を深く傷つけてしまったのでしょう。これは、その罰なのです」


「そんなこと……そんなことっ!」


「私は、この顔の傷を甘んじて受け入れます。この痛みが、私の罪なのです」


 全く状況が分からん。


 ただ、包帯の女の子が顔に傷を負ったことは分かった。そしてそれを、無理をして受け入れようとしていることも。女の子が、そんな辛そうな声を出すもんじゃねぇよ。


 顔の傷が自分への罰?


 そんなことがあってたまるか。辛い傷跡なんか、消しちまえばいい。傷跡が消えても、心に残った傷跡が自分を反省させてくれるんだからな。傷跡を残すのは、その傷跡に誇りや思い出が刻まれている時だけでいいだろ。


 俺は、ゆっくりとその巨体を一歩、前へと踏み出す。


 か弱い少女二人組よ! 今、大賢者が参りますからねっ!


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