第4話
テレーゼにとっての価値のあることを見つめる回です
フォルクマン公爵家に嫁いでから四ヶ月。
夕食時にソラマメのポタージュがついていて、嬉しくなる。
先月、実は好物なのだと打ち明けてから、何度か作ってくれる。
我が子爵家は平民に近い食生活だったので、お肉や魚よりも野菜が多い食事に慣れている。
マクシミリアン様と食卓はともにすることがないとしても、別メニューを用意してもらうのは気が引けて、同じものを少量用意してもらっていた。
食事に不満はなかったのだけれど、レオさんとニクラスさんからこれまで頑張ってきたご褒美を用意してくれると聞いて、思わず野菜を頼んでしまったのよね。
果物が出る頻度が高いので、全く不満はなかったのだけれど、たまには食べたいと思ってしまった。
「では、全ての食事をテレーゼ様のためだけに作ると遠慮して食べなくなってしまうかも知れませんので、仕入れが出来た日に一品増やすというのはどうですか?」
レオさんからの提案に、思わず乗り出す。
「厨房の負担が大きく増えないのであれば、ぜひ!」
「好き嫌いを言わず、食べてくださるのも嬉しいでしょうけれど、シェフとしては好物を美味しそうに食べてもらえるのも、喜びになりますよ」
「それなら、お願いします」
ビアンカさんから使用人側の気持ちを教えてもらえる。
「ご実家特有の味付けなどはありますか?」
「あ、ポタージュは私が作っていました」
「・・・ほう?」
一瞬、笑みが深くなった気がするレオさんに、子爵家は使用人の数が少ないため、それぞれ業務を兼務していたことを伝える。
使用人はそれぞれ、家令、庭師兼護衛、御者兼厩番、料理人兼家の半分の掃除担当、家のもう半分の掃除担当兼洗濯係、妹の侍女兼他の家族のご機嫌伺い係だ。
最後の部分でレオさんとニクラスさんの眉毛が上がったけれど、話を進める。
「私は実家で家令から領地の管理を学んでいましたが、他の人達もそれぞれ業務が重なる時があるので、料理や掃除、洗濯など一通りこなせます。それと、緊急時に対応出来るように短距離であれば鐙をつけずに馬に乗ることも可能ですよ」
実家での生活は半分平民に近かったので、今ここで結婚がなくなって、帰る家がないとしても、働き口だけ確保出来ればどこででも暮らしていけると思う。
「なるほど、・・・必要に駆られて、と」
「ここでの生活では、どの分野にも達人の方がいらっしゃるので不要な技術だと思いますが・・・」
「そうですね、もしテレーゼ様が料理や・・・掃除、洗濯などを久しぶりにやりたいというときにはご相談ください。禁止してしまって、貴方様の心が弱ってしまう方が大変です」
「ありがとうございます!」
レオさんが肯定してくれて、後ろでビアンカさんも頷いてくれている。
レーナとレーネは、さっそく何か料理を作るか相談し始めて、ビアンカさんから鋭い視線を貰っている。
「ただ、緊急的に馬に乗ることは他の者に任せてください」
ニクラスさんは伏し目がちに注意してくれたので、しっかりと頷く。
以前は子爵家令嬢だったけれど、ここでは公爵家の一員として、言動には責任を伴うと学んだ。
怪我をすることは家の名前に傷をつけることだと、シャルロッテ様も話されていたのを思い出す。
「私のことを受け入れてくれて、ありがとうございます」
そんな会話をしたことを思い出しながら、ポタージュスープを完食する。
幸せな気分で夕食を終えて、執務室代わりの客室で勉強を再開する。
フォルクマン公爵家の領地の状況を知るにつれ、実際に見てみたいと感じるようになり、ニクラスさんとレオさんに相談してみる。
この四ヶ月、勉強することが多すぎて手一杯な上、ドレスやアクセサリーなどの買い物はお店側が来てくれるため、わざわざ外に出掛ける用事はなかった。
二階に住まわれているマクシミリアン様のお部屋から、見えない範囲での散歩も広大な敷地の公爵家では可能だったので、敷地外に出る必要はなく、運動不足にもならなかったくらいで。
「視察ということですね?テレーゼ様は、どのような事を知りたいのでしょう」
一言目で不要だと断られなかったことに安堵し、レオさんを納得させなければ視察に行けないと、気合いを入れ直して返答する。
「私は実家で書類の仕分けを手伝いながら、時折自分でも現地を見に行って、住民の話を聞いていたのです。許可が出るのであれば、ここでも同じように視察に行って、話を聞きたいと思っています」
「・・・なるほど。初めての視察で不備があってはいけませんので、場所や視察したいことの要点を絞っておきましょう。今後は何度でも視察に行けますので、ご安心ください」
レオさんを説得することが出来たので、ニクラスさんにも同じように説得し、近いうちに視察することになった。
「市場と街道沿いの商店街!領民の方々の食生活とか、活気を知る機会になりますね」
「もうすぐ冬の祭りですので、皆が活気づいています。物流も様々なものが流れてきますので、初めての視察には良いのではないかと」
「楽しみです。・・・あの、使用人の皆さんに何かお土産を買っても良いものでしょうか?」
「・・・えっと・・・」
私からの質問にレオさんが目を瞬く。
質問の意図が分からないという表情に、慌てて説明を加える。
「夫人としての予算がどのくらいか分からないのですが、もし当日使って良い予算があれば、いつも協力してくださる皆さんに冬の贈り物をしたいなと考えまして・・・昔も視察のときに領地のお店で買い物をしていたんです」
小さく頷いたビアンカさんが答えてくれる。
「もちろん構いませんよ。使用人一同喜ぶと思います」
「レーネとレーナにも買ってくれますか?」
「はい。レーネもレーナもビアンカさんも一緒に選んでもらえると嬉しいです。レオさんやニクラスさんたちがどんなものを喜ぶかも教えてください」
一緒に視察にいって短時間でも良いので一緒に買い物が出来たら嬉しいと、笑顔になる。
目を丸くしたレオさんが、なぜか右手を挙げる
「あの・・・私たち個人に買い与えるおつもりで?」
「使用人の皆さんにはお菓子の大箱とか、日用品とかを贈ろうと思うのですが、特にお世話になっている皆さんには個別で贈り物がしたいです。絶対使ってほしいとか強制するつもりはないのですが」
「いえ、どんなものでも喜んで頂戴いたします」
ふわりと微笑んでくれたレオさんが、ニクラスさんやビアンカさんと共に、一礼してくれる。
調整することはまだまだ多いけれど、視察当日がますます楽しみになった。
少しずつ本音を出せるようになるテレーゼと、そんな変化が嬉しい皆さん。
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