表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

もぐもぐキューカンバー005

「最初に言っておきます」


唇が重かった。言葉にしてしまうのが、少し怖かった。それでももう、見なかったことには出来なかった。


「これは、多分。皿谷ちゃんの話とは関係ありません」


そう前置きする。訝屋は何も言わない。それでも視線は真っ直ぐこちらを捉えていた。


「これは、見間違えかもしれない、関係が無いかもしれない、気の所為かも知れない。そんな話です。」


語り始める。僕自身が目を逸らしていたこと、そしてあの黒い手の、その正体を。


──────────────────────


僕には、幼なじみがいました。


幼なじみとはいっても2つ上で学年は違いましたけど、家が近所で、親同士が友人で、幼少期はいつも一緒にいた。そんな何処にでもある、よくある話です。


2つ上なのに、お姉さん感なんて全然無くて。いつも同じ目線で真っ向から喧嘩したり、変なとこが譲れなくて、それでも友達じゃなくなることを凄く嫌って、泣きながら謝ってきたり。


山の奥までふたりで探検に行った日がありました。子供二人だけでけもの道を辿っていって。明るいうちは良かったんですけど、暗くなったらもう自分が来た方向すらわかんなくなって。帰れなくなって。


「大丈夫、大丈夫」なんて、無責任に笑いながら歩いてたくせに、日が落ちてきたら急に静かになっちゃって。


僕が先に耐えられなくなって泣いたんです。彼女も泣きたかったはずです。いや、多分涙を溜め込んでいたんだと思います。それでもずっと僕の手を固く握って、進み続けた。


いつも僕の手を強引に引いて、どこかへ連れ出してくれる。僕はどちらかと言えば家で本を読んでいたかったんですが、そんなのお構い無しに。


掛けられた迷惑も沢山ありましたけど、それでも、周りを巻き込むのが上手くて、それでいて、周りを楽しませるのが得意な人でした。


仲が良かったんですよ。少なくともあの時はずっと一緒に居たい、そう思っていましたし、当たり前にその時間が続いてくれるものだと思っていました。


それでも、学年の差っていうのは案外大きくて。年々少しづつ、気づけば殆ど関わらないようになって行って。いつしか全く会わなくなりました。


家は近かったんです。会おうとさえ思えば、いつだって会えたんです。それでも、僕はそうしなかった。


中学生になって。高校生になって。


それぞれ別の友達が出来て、別の生活が出来て。今思えば、理由なんてそれだけだったんでしょう。


いつでも会えると思っていた。

だから今日じゃなくていい。今度でいい。


そんな”今度”を積み重ねているうちに。去年のゴールデンウィークの最終日。僕は、久しぶりに彼女と会いました。


お通夜でした。


この日の事は、まだ鮮明に憶えています。忘れられない、と言った方が正しいかもしれません。


鼻の奥を突く線香の匂い。誰も泣いていませんでした。たぶん泣けなかったんだと思います。あまりに急で、有り得なくて。誰もこれが現実だなんて思えなかったんですよ。


明日になれば、いつもみたいにふらっと現れて「何してんの、早く行こうよ」なんて、何処かに手を引いてくれる。馬鹿げてますよね、でも僕は、そう思わずにはいられなかった。


彼女は、流されたそうです。


去年のゴールデンウィーク。季節外れの台風が直撃して、やっと待ち遠しかった太陽が出た、最終日。


彼女らは五人で川へ遊びに行ったそうです。多少水位は上がっていたものの、勢いもいつも通りへ戻り、何事も無ければ安全に遊べる範囲だった。そう、聞きました。


でも、それは起きてしまった。


突然でした。連日の大雨でぬかるんだ地盤が崩れ、その勢いのまま川を伝い流れてきた。あっという間に飲み込まれてしまったそうです。


棺の中には、別人が居ました。最初に気付いたのは腕でした。あるはずの場所に無かった。次に目でした。閉じているのに、不自然に窪んでいた。それから骨。関節。皮膚。全部が壊れていて。それらを無理矢理、人の形に戻したみたいだった。だから、余計に気持ち悪くて。


知らない顔だった。


だから、泣けなかった。棺の中にいるのは確かに彼女だった、頭では理解したつもりだったんです。それでも、僕には最後まで彼女だとは思えなかった。


本当は一年経った今だって、彼女が亡くなったなんて、信じれてないんですよ。


だから、ちょっとだけ、嬉しかった。勿論怖かったですよ。本当に死ぬかもしれないと思った。それでも。それでも僕は、あぁ、会えたんだって。


そう思ってしまったんです。


河底へ引き込もうと、僕の足を握った。その感触に、妙な既視感があった。まるで昔から知っている誰かに掴まれたみたいに。


そして、見てしまったんです。


とても昔の話です。彼女の誕生日に、ブレスレットを贈ったことがありました。まだ小学生でしたから、そんな高価な物じゃありません、何処にだってあるようなありきたりな、そういう奴です。


似合わないね、なんて笑ってたのに。彼女はずっと外してなかった。


事故にあったあの日も。

そして、今日も。


黒い手の手首には、そのブレスレットが外れないままそこにあったんですよ。


オカルトなんて信じてない。非科学的な事なんて、起こるはずがない。今でもそう思ってます。


でも他に説明がつかなかった。あれが何だったのかと聞かれたら、僕は、もう一つしか答えがないんです。


あの黒い手は。

───彼女でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ