2.古代椎良
「どーすんだ馬鹿椎良! このままじゃ決勝どころか、初戦敗退するかもしれねえじゃねえかっ!!」
頭を抱え、ヒロは言う。
ヒロは、ことイベントに関しては熱い男だ。熱いだけでなく、しっかり段取りもできる。今回の球技大会のチームわけでもそれは如何なく発揮され、実にバランスの良いチームができあがっていた。
バレー部主将で、なにごとにも熱心で、しかし冷静に周囲も見ている。
これだけ聞いていると、さぞモテそうなものなのに、クリスマスを間近に控えた今になっても彼に彼女ができないのは、
「これじゃあ女子に、僕の格好良いところ見せる機会が減っちまうだろ?!」
とまあこんな感じで、女子からモテたい欲求をあけっぴろげにしすぎなところに理由があるんじゃないかと、俺は考えている。
良い奴なんだけどなあ。
どうしてか彼女はできないんだよなあ。
「どうすんだもなにも、こればっかりは仕方ないじゃんか」
ヒロをなだめつつ、言う。
「補習を受けなきゃ、俺が進級できないし」
「仕方なくねえよ。だから僕は何度も言ったんだ、『赤点取ったら殺す』とな」
「いや違うよ。『赤点取ったら罰ゲームだ』って言ってたんだよ」
「へらへら笑ってんじゃねえぞ馬鹿」
「それは――」
それこそ、仕方のない話だ。
俺だって、好きでへらへらと笑うふりをしているんじゃない。
こうすることでしか、人と接することができないんだ。
「なんだよ、反論もできなくなったか」
「いいや、そうじゃないけど……」
いつものように適当に笑って誤魔化して、それよりさ、と話題を逸らすことにする。
「どうして俺の答案用紙を、そんな凝視してんの……?」
その目つきたるや、完全犯罪を目論む犯人のようである。
「……椎良。お前、球技大会に出たいよな」
口元に手を当て、なにやら思案顔のヒロ。
どうやら、対応策を考えてくれているらしかった。
「そりゃあ、まあ。出られるのなら出たいけど」
しかし今となっては無理な話である。
仕方ない。どうしようもない。
そんな感じで、俺は諦めモードに入っていたのだが。
「球技大会に出る為なら、なんだってできるよな?」
「え? うん、まあ、そうだね」
学食無料優先券が懸かっているのだ。
こんな俺でもできることがあるのなら、という気持ちは少なからずある。
「良く言った椎良! よし、ちょっとここで待ってろ。僕が先生達に話をつけてくる」
熱血漢の春告万洋が、そう簡単に諦めるはずがなかった。
「は? え、ちょ、ちょっと」
「お前はそこで待ってろ。お前、いっつも覇気のねえ顔してるけど、心の内は球技大会への熱い情熱で燃え上がってるんだもんな! 僕がそれを先生達に代弁してきてやるからっ!」
すさまじいまでの勢いで捲したて、そのまま教室を出て行こうとしたヒロは、しかし急旋回してこちらに戻り、ポケットから小瓶を取り出した。
「そうそう。これ、約束の罰ゲームな。僕が戻ってくるまでに飲み干しておけよ」
「このタイミングで渡す?!」
「えげつない味で、結構な量あるからな。僕を待っている間、時間をかけて苦しむが良い」
そんな捨て台詞を吐くと、ヒロは全速力で教室を飛び出して行ってしまった。
いつの間にやら、教室は俺一人だけ。クラスメイトは時を移さず、それぞれに自分の向かうべき場所か、帰るべき場所へと足を向けたのだろう。
「……ま、良いか。今日はバイトないし」
時刻は午後四時二十分。
学校のあちこちから聞こえてくる青春の声に耳を澄ましながら、俺はヒロを待つことにした。
先生達と話をつけるとは言っていたけど、具体的になにをするのかが見えてこない。故に、いつ戻ってくるか見当もつかない。
だけど、最終下校時刻になるまでは待っていようと思った。
どうせ、こんな早い時間に家に帰るつもりなんてなかったんだ。ゆっくり待つさ。
「……と、そうだ」
ヒロに押しつけられた小瓶を、改めて確認する。
見た感じは栄養ドリンクっぽいけど、中身はなんだろう。罰ゲームとして渡してきたくらいだから美味しくはないんだろうし、確実に不味いんだろうけど。
しかし飲まないという選択肢は、この場合はなかった。
それくらいの義理は、俺にだってあるのだ。
小さく深呼吸をした後、覚悟を決めて一気に飲み干した。
「――まっず!」
感想や評価等、お気軽にどうぞ!




