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水城市限定都市伝説について  作者: 四十九院紙縞
第二話 噂をすれば影が刺す

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17.墨子

「それで、タコ」

「なんだ?」

「……」

 おかしい。これは憶屠に対する嫌がらせのはずなのに、私のほうがダメージを受けている気がする。いや、ここで負けてはいけない。この良心の呵責は、スクラヴの摂取量を少なくしたわたしの所為にして、私は話を進めることにした。

「他にはなにか、九十九から指示は受けているの?」

「いいや。『お膳立てはここまでだ、あとはお前らで上手くやれ』だそうだ」

 九十九らしい台詞だ。

「そう。それなら……そうね」

 もう一度、手元の写真に目をやる。

 破壊し尽くされた体育館倉庫。

 不自然に抉れたコンクリート。

 九十九や憶屠の思惑にそのまま乗るのはなんだか癪だけれど、今回は犯人も真犯人も、黒崎高校の人間と見て問題ないだろう。そうじゃなきゃ、せっかく手にした魔法の薬を使ってまで体育館倉庫を破壊させる理由がない。いや、そもそも体育館倉庫を破壊して欲しいなんて願い自体、わけがわからないのだけれど。その辺りは、犯人と真犯人に話を聞くより他はない。

「柊学園から黒崎高校まで、どのくらいかかるのかしら」

「バスを使って、十五分くらいだな」

「案外近いのね」

「言っても市内だからな」

「そうだったわね。それなら憶屠、放課後――」

「タコ」

「……タコ。放課後で良いから、黒崎高校に潜入して、情報を集めてきてもらえるかしら」

「了解だ。しかし、放課後で良いのか?」

「貴女だって授業があるでしょう? そこを蔑ろにしろとは言わないわよ」

「サボるというのも憧れだったから、ボクは別に構わな――」

 学生の本分を見失ったような発言をしかけた憶屠に、私は無言で圧力をかけた。さすがにそこまで許容はできない。

 憶屠は一瞬だけ顔を引きつらせた後、

「――くない。そうだな、勉強は、大切だ」

 と、わかりやすく怯えながら言うのだった。

「そうでしょう? 勉強を蔑ろにして、痛い目見るのは自分なんだから」

「都市伝説になるような人が、何故そんな真面目なことを……」

「なにか言ったかしら」

「なんでもない、なんでもないぞ!? しかし、ひとつ進言したいことがあるのですよ墨子サマ」

「落ち着きなさいよ憶屠、キャラがぶれまくってるわ。睨んだことは謝るから」

「わ、ボクは怖がってなど――」

「私に、なにか言いたいことがあるんじゃなかったかしら」

「む。そ、そうだった。あのな、黒崎のほうは冬休みに入るまで、みっちり授業が入っているらしいのだが、一方で、ボクのところは明日から午前上がりになるのだ」

 進学校で私立の黒崎と違って、公立の柊はまったりだからな。

 そんな注釈をつけつつ、憶屠は言う。

「だから、昼過ぎくらいからは、黒崎に潜入できると思うぞ」

「それ、嘘じゃないでしょうね」

「本当だ! こんなところで嘘はつかない」

「それなら良いわ。それじゃあ、特に注意して調べて欲しい事柄は――」

 そうして、憶屠に調べてきてもらいたい項目をいくつか挙げていく。

 ふむふむと頷きながらメモを取る憶屠に、私は念押しで言う。

「あくまで情報収集だけよ。下手に接触を図ろうとしないように。貴女がしっかり仕事をしてくれれば、それ以降は私が対処するわ。良いわね、タコ」

「わかった」

 余程さっきの圧が効いたのか、憶屠は大人しく頷く。……わたしに戻ったら、罪悪感で押し潰される気がした。

 小さくため息をついてから、気を紛らわす為に店内の壁時計に目をやると、二十三時半過ぎを示していた。

「作戦会議はこれで終わり。未成年は帰りなさい」

 いくら九十九の紹介でここに来ているとはいえ、あまり夜遅くに帰すわけにもいかない。『叶え人』の件に関与するのを認めた以上、最低限の安全は確保してあげなければ。

「もうそんな時間か。じゃあ、なにか情報を得たら、またここに来るぞ」

「そうして頂戴。水無瀬、勘定お願い」

 相槌を打ちつつ、シザーバックから財布を取り出す。

「はいよー」

「あ、ボクも」

 慌てて鞄に手を突っ込んだ憶屠に、

「良いわよ、憶屠」

と、制止をかけた。

「え、でも」

「私のぶんを払うついでよ」

 水無瀬から明細を受け取り、請求額ぴったりに支払った。

「や、闇子さんに奢ってもらった……! これは明日、学校で――」

「自慢して良いわけないでしょ」

 ジュース一杯を奢っただけで感動し過ぎだ。

「うう……。あれ? というか、墨子サンももう帰るのか?」

 出しっぱなしになっていた黒崎の制服を仕舞いながら、憶屠は言った。

「帰るというか、これから市内を見回りに行くの。ここで晩酌をしているだけじゃ、叶え人は見つけられないもの。それで――」

 財布を仕舞いながら、言う。

「これから私は、この時間帯に外を徘徊する未成年を徹底的に取り締まる警察とは絶対に遭遇しない道を通って柊の辺りまで行くつもりなんだけれど、タコはどうする?」

「一緒に行く!」

「そう。じゃあ早く支度なさい」

「合点承知の助!」

 ぐっと親指を立てると、憶屠は慌てて身支度を整え始めた。

「墨子ちゃん、やっさしー」

「うるさい水無瀬」

 十二月十一日。

 今日も、深津桜介に繋がる情報は見つからなかった。

 その代わり、新たな叶え人の情報を得る。

 黒崎高校の体育館倉庫を破壊した、男子高校生。

 真犯人の狙いはなんだったのか、これで願いは成就したのか。

 そんなことを考えながら歩く夜道は、しかし今日は憶屠が隣を歩く所為で騒がしい。

 誰かと歩く夜は久しぶりだと、そう思った。


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