↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水城市限定都市伝説について  作者: 四十九院紙縞
第二話 噂をすれば影が刺す

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/37

5.伊神澄子

「――っ」

 咄嗟に、近くにあった試験管を一本掴み、井東さんにぶつけました。

 わたしが井東さんに殺されてしまうくらいなら、いっそのこと、わたしが井東さんを殺してしまえば。

 そうすれば、井東さんに罪がかかることはありません。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――!」

 謝罪の言葉を繰り返しながら、わたしは手当たり次第に試験管を投げつけました。

 井東さんに当たったそれらは、その衝撃で割れ、ガラス片が散らばります。たちまちのうちに、井東さんもわたしも傷だらけになりました。その傷口に、試験管に入っていた液体が沁みてきて、じんじんと痛み出します。しかしそれでも、双方動きが止まることはありませんでした。

 と。

「ぐっ……、う、がぁ……っ」

 突然、井東さんが呻き声を上げたのです。

 試験官が急所に当たったのではありません。

 ガラス片が刺さったわけでもありません。

 それでも井東さんは、確かになにかしらのダメージを負った表情をしていました。

 頭を抱えてわたしから離れた井東さんは、とても苦しそうに顔を歪めています。

「こ、コロさナい? コロせころサナイ、だめダころしちゃこロせだめだころせ――」

 見れば、井東さんの瞳の色は赤から青、そして緑へと変色していました。

 赤い色の瞳というのは、元々は先天性白皮症――アルビノのヒトが持つ瞳の色です。大量の色素欠如によって、血の色がそのまま瞳の色となるのです。

 一般的な日本人である井東さんの瞳の色は、ブラウン。

 つまり井東さんの瞳が赤くなったのは、桜介さんが造ったあの薬――スクラヴに原因があると考えるのが妥当です。

 しかし今、井東さんの瞳のメラニン色素は、徐々に元の状態に戻ろうとしています。それは薬の効果が薄れてきているという、なによりの証拠に思えました。

 なにがきっかけとなったのでしょう。

 井東さんから距離を取りながら、考えます。

 わたしの声で、我に返った?

 あの一瞬の動きの鈍りは、わたしの見間違いではなかった?

 いいえ、そんな浮ついた期待が原因のはずありません。試作段階であるらしいとはいえ、桜介さんは井東さんに薬を注入し、わたしを殺すよう命令したのです。わたしの声如きで効果の鈍る薬で、桜介さんが満足するわけがありません。

 そうなると、残る可能性はひとつ。

 それは、作業台の上にあった試験管――その中身です。

 無我夢中で投げた試験管。

 その中には、水色とも緑色ともとれる液体が入っていました。

 投げつけた試験官は井東さんに当たって、周囲にガラス片を撒き散らしました。その破片で、わたしも井東さんも軽く皮膚を切っています。その傷口から試験管の中身が沁みて、若干ながらも、それが効果を発揮したのではないでしょうか。

 であれば、これはスクラヴに対するワクチン足り得るはずです。

「……っ」

 軋む身体を引き摺って、床に転がっていた未使用の注射器を手に取りました。

 慎重に試験管の中身を注射器へと移し、そして。

 わたしは井東さんの腕に、力いっぱい注射器を突き刺しました。

「お願い井東さん、元に戻って……!」

 痛切に、切実に、願います。

 これがワクチンであってほしい、と。

「ぐっ……、や、メろ……!」

 振り払われた手によって、わたしは再び弾き飛ばされます。大きな音を立てて、わたしの身体は再び壁に叩きつけられました。もう、意識を保つのも限界です。

 それでもどうにか飛びそうになる意識を捕まえて、井東さんの状態を確認します。

 果たして、井東さんの瞳の色は戻っているのでしょうか。

「がっ……あ、ぐ……」

 両手で頭を抱え、苦しむ井東さん。

 その、瞳の色は――

「戻っ、た……」

 伊藤さんの瞳の色は、見慣れた茶色に戻っていました。

 あれは間違いなく解毒効果をもたらしたのです。

 良かった。本当に良かった。

 これでようやく、桜介さんの後を追いかけられる。

 今なら、そう遠くへは行ってないだろうから、まだ追いつける。

「桜介、さ……」

 焦る気持ちとはうらはらに、散々ぱら痛めつけられた身体は遂に限界を迎え、床へと倒れ込んでしまいます。

 そしてそのまま、わたしの意識すら、まどろみへと誘っていくのでした。


感想や評価等、お気軽にどうぞ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。