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悪役側の視点で  作者: 黒
第二章 金策編

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45話 迷宮内実習(5)

「勘弁して欲しいなぁおい・・・・・・」


 蛙顔の生物と対峙して十数分。

 いや、十分も経っていないか? 体感としては倍以上の時間を感じてはいるんだが。


 状況としては非常に悪い。

 初撃でリーバーさんが戦線離脱。エステルが治療を行っているが、すぐに動けるようにはならないだろう。意識を保っているかも怪しい。


 そしてアリスは他の生物が二人を襲わないように、そして蛙顔が攻撃た時に対処できるよう傍で待機。時折俺達の援護もしている。


 今はカレンと二人で対峙している訳だが、


「うぉっ?! あっぶなっ!」

「死角からの攻撃に気を付けて! 普通の相手じゃない!」

「嫌ってぐらい実感してるよ!」


 四方八方から飛んで来る水球。

 普通、魔法は術士の傍から発動する。


 理由としては、自分の近くの方が魔力操作がしやすいからだ。

 遠くなる程に魔力操作は難しくなり、魔法の不発や予期せぬ現象が起こったりするらしい。そもそも自分の傍でもまともに魔法が発動できない俺には早い話だ。


 そんな俺を嘲笑うかのように、あの蛙顔は、おそらくだが自身の視覚の中ならどこからでも自由に魔法が発動できるぐらいの魔力操作の精度を持っている。


 加えて、俺達の知らない言語で紡がれる詠唱は短く、距離を詰める隙がない。

『魔法士は距離を潰して本体を叩く』という定石が、詠唱の短さによって破壊されているということだ。


「あんまし――」


 降り注ぐ水球の中、剣で切り開いて強引に前に進む。


「舐めんな!」


 剣の間合い。

 致命傷となり得るであろう場所を狙って剣をふるう。


「ちッ」


 剣は蛙顔の胴に触れた。

 しかし、奴は芯を外すように体を僅かに逸らす。

 ただそれだけで、刃は通らず、粘液のようなもので滑らされた。


(近接に持ち込めても、さっきからこれだ!)


 できればカレンと挟み撃ちできれば有効打になるかもしれないが、どういう訳かカレンへの攻撃の苛烈さは俺とは比べ物にならない。それを捌くだけで手いっぱいになっている様子だ。


 俺は一度星三の生物を討伐した事があるが、正直言って比較にならない。

 なにかしら迷宮内で異常があったのかと疑う程。明らかにこんな場所にいていい強さではないように感じる。


 有効打を与えられないまま、水球で弾きだされて、また距離が広がる。


「皆さん! それはおそらく悪魔でス!」


 治療中のエステルが後方から俺達に向けて声を上げた。


「あくま? なんだそれは?」

「己の欲望に忠実な、人ならざる者。何故ここにいるかは不明ですが、本当に悪魔なのだとすれば、通常の魔法や剣での耐性が非常に高いでス!」

「じゃあどうすればってうぉあぶっ?!」


 攻撃を捌きながら、耳を傾ける。


 あくま? 悪魔か?

 どうやらエステルは相手の正体に心当たりがあるらしい。


 不思議なのは、魔法も物理にも大きな耐性を持っているという厄介な特性なのに、冒険者の中で話を聞いたことがない。非常に希少な相手ってことか?


「光魔法でス! 悪魔の特効となるカレンさんなら倒せまス!」

「っ無茶言うね・・・・・・!」


 成程。

 あれだけカレンに猛攻を仕掛けていたのは、それだけの脅威だと認識されていたということか。あれだけあからさまな対応の違いを見ると、エステルの話も確証が高いものだと感じてくる。


「よしっ、俺が道を作る! ほんでカレンが倒す。これだな!」

「道作れる?」

「俺が攻撃の八割を受け持つから、残りの二割は頼む!」

「分かった」


 カレンの前に移動し、いざ攻撃を捌こうとした瞬間。

 周囲の水球が姿を消した。


 代わりに、蛙顔の周囲に水の槍が生成されていく。

 数は無数。それぞれが渦を巻いて回転しているのが分かる。

 射出された一本を剣で流すも、受けた手が衝撃でジィンと痛みを伴った。


「・・・・・・悪い六:四で頼んます」

「五でもいいよ?」

「・・・・・・六:四で!」


 カレンが締めるための力を残すなら、最低限俺が六割の攻撃を引き受けないと難しいだろう。


「四段階(ダレット)ッ!」


 俺が出せる最大限。

 身体強化魔法の四段階目で肉体を強化する。まだ完全に使いこなせている訳ではないため、数分で解除されてしまうが、その間に道を開く。


 水槍の切先に刃を合わせ、強引に斬る。

 二つに割れた水槍は、形を維持できず、割れた先で崩壊していく。


「きっつぃ!」


 進めている。が、腕の筋肉がさっきから痙攣していて繊細な動きができない。

 残り五メートル。


 もう残り少ない体力を使い切る瞬間をここだと決める。


「すぅっ!」


 呼吸を一息。

 肺一杯に吸い込み、そこから全身の筋肉に力を入れて連撃を繰り出す。

 およそ五秒。敵の全ての攻撃に対処しながら、三メートルの距離を縮めた。


 これ以上は無理と言う瞬間、前面に土魔法の壁がせりあがり、水槍の直撃を更に数秒間防ぐ。蛙顔の意識が俺達に集中しているのを察したアリスの補助だ。内心で盛大に感謝しまくりながら、俺は力尽きるように地面に倒れ伏した。


「やるじゃん」


 軽い激励と共に背後から、カレンが飛び出す。

 彼女の武器は片手剣。しかし、手元を脇の近くに抑え、切先を相手に向けている。それはレイピアのような刺突を連想させた。


「光よ、穿て――【天穿光槍(レイ・ランサ)】」


 気付けば、蛙顔の胸部を貫くように光の光線が剣先から伸びて迷宮の壁にまで届いている。

 魔法が伸びるような瞬間など見えなかった。効果範囲の距離を、文字通りに『気付けば』通っている。

 光魔法が、最速の魔法だと言われる所以を確かに見た。


『ゲェッ、ゲェッ、グォォォッ!!』


 叫び声をあげながら背中から倒れる蛙顔の悪魔。

 胸部を大きく貫かれた状態。明らかな致命傷を見て、安堵に息をつく。

 起き上がれないから、少しカレンに手伝って貰おうと声を掛けた。


「なあカレン、ちょっと手を貸して――」


 のそり、視界の端で立ち上がるのは倒れたはずの悪魔だ。

 途端に空気が凍り付く。もうまともに戦える余力など残っていなかった。


 ゆっくりと視界に姿を合わせると、悪魔はボコボコと体を変形させている。

 高まっていく魔力を肌で感じ取って、それがなにかよからぬ現象であろうことだけは察した。


「逃げるよ!」


 一早く動いたのは隣にいたカレンで、俺を担いでそのまま残りの班員の元に行く。

 エステルとアリスも、事態を把握してリーバーさんを担いで退路に向かおうとしていた。時間は奴の変形が終るまで、それが数分なのか、はたまた数秒なのか。


 刻一刻と迫る危機に、兎に角足を動かさないといけないと全員が理解していた。


 そんな中、退路である道の先から、足音が聞こえる。

 ついで、荒い息遣いが。まさか敵の増援かと全員が身構える中、暗闇から姿を現したのは学園の先生だった。


「ひぃ、ひぃ・・・・・・ふぅ~ 久しぶりに走りました。ちょっと筋肉をつけないと駄目ですかね」

「は、ハーメス先生?!」


 息も絶え絶えで来たのは、錬金術を担当しているハーメス先生だ。


「えっと、五名。数はちゃんと揃っていますね。ヘレン君が気を失っているようですが、ちゃんと息もしていますね」


 班員の数と状態を見て、一息つく先生。


「水晶が割られたので救出に来ましたが、怪我も最小限に抑えられているようで安心しました」

「ちょっ先生! 後ろの、あのっよく分からないのが!」

「ユーリ君落ち着いて下さい。まずは深呼吸ですよ。ほら、吸って~吐いて~」


 先生との温度差が果てしない。

 取り敢えずカレンに担がれている状態だが、指を後方に向けて意思を伝える。


 いつのまにか蛙顔の悪魔の体は先程よりも背丈が上がり、筋肉質なものへと変化していた。

 変身が完了したのだろう。悪魔は魔法を使用する。

 水球とは違って、今度はカレンの攻撃を模倣するかのように、細い水のレーザが横一線するように空間を走った。


 チリン


 なにか鈴の音のような心地よい音色が聞こえた。

 それはハーメス先生の首飾りから。広がった音色は、俺達を切り裂くはずだった水のレーザーに干渉するや、どういう訳かレーザーが霧(・)散(・)す(・)る(・)。


 何度レーザーが飛んで来ようと変わらず、霧散する中で宙に舞う水しぶきが、前に出るハーメス先生の周囲で踊っているようにも見えた。


「よく頑張りましたね。皆さんは休憩していて下さい」


 振り返り、いつも通りの優し気な笑みを向ける先生。

 すぐに悪魔に視線を映しながら、懐から一冊の本を取り出して、開く。


「右腕」


 詠唱とも呼べぬような、その一言。


 紡がれる言葉に呼応して、空間に裂け目が広がる。

 現れたのは、見た事のない金属で錬成されたゴーレムの右腕。大きさは途方もなく、拳だけで家一軒分はあるかもしれない。


 腕は狙いを悪魔に定め、避ける暇も与えずに拳がめり込み、迷宮の壁ごと破壊した。


 先生が本を閉じた後、腕は消え、崩壊した壁の所には原型の留めていないかつて悪魔だったものの残骸だけが残る。

 あれだけ苦戦し、弱点以外には通用しなかった悪魔を、耐性を無視した圧殺がなされていた。




 ニコル・ハーメス

 ――一定範囲における魔法術式の強制崩壊理論を構築した、稀代の天才錬金術師である。


ପ(꒪ˊ꒳ˋ꒪)ଓ

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