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悪役側の視点で  作者: 黒
第二章 金策編

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44話 迷宮内実習(4)

 変異は数秒。

 ローブの男は肉が削がれ、剥き出しの骸骨となる。

 傷のある男は、筋肉が増幅し、更に腕が二本増幅した。一目見て、人を辞めた事が分かる異形。


「これが悪魔の力かっ!」


 実感できる程の能力の向上に二人は笑みを浮かべる。

 玩具を手に入れた子供のように、いっそ無邪気とでも言える我欲で、力を試せる相手へとその矛先を向ける。


 ローブの男の周囲に四角形の障壁が浮かび上がる。

 薄い面がクリスに向き、斬撃のように切り裂かんと地面を音を立てて削りながら迫った。


 速い、が距離が離れていることからその軌跡は読みやすい。

 クリスは当然のようにそれらを避けて見せる。


「っ」


 避けた障壁が消滅せず、そのまま後方から跳ね戻るようにして軌道を変えた。

 二枚の障壁の間を抜けるように、体を捻って直撃を避ける。


 そのまま抜けていくかと思われた障壁が、クリスを挟む形でピタリと動きを止め、障壁の広面同士が一気に近づく。


 あわや圧殺されるかという中で、クリスは持ち前のフットワークと判断力で即座に横脇から抜け出した。


「はっはぁ!」


 抜け出した先には、待ち構えるようにして四つ腕となった傷の男が既に腕を振りかぶっている。

 振り下ろされた拳は、転がり避けたクリスを捉えることはできなかったものの、地面に蜘蛛の巣状の亀裂を産み出す。悪魔の力を得た事で、更に一段上の身体能力を得ていた。


 二人の変位系等を確認し、クリスはより厄介な障壁を操るローブの男を先に仕留めるよう定める。


「動き続けて体力を削ればジリ貧だぞ? いつまで避けれる!」


 とはいえもう一方も無視はできない。

 まともに受ければ内臓に損傷を受けることは確実。可能な限り回避し、杜撰な一撃に対しては拳を打ち合わせ威力を流す。

 常に観察しているのは足と腰の動き。捻りに合わさった一撃はまともに受ければ死ぬだろう。


「四段階(ダレット)」


 身体強化の四段階目。

 男の予測を一瞬越え背後に抜けると、ローブの男目掛け一直線に疾走する。


「ッ?!」


 ローブの男の視点からは、クリスの体が傷の男と僅かに被った直後に疾走してきているため、急な状況の変化に慌てながら障壁でクリスの退路を塞ぐように押し出す。


 予想内。障壁の上辺に足を乗せて、クリスは障壁を足場に飛び出して完全に距離を潰した。

 踏み込み、連動する腰、そして拳を突き出す。


「ちっ」


 短い舌打ち。

 拳と男との間には罅の入った障壁が二層重なっていた。


「チョウシニノリヤガッテ!」


 至近距離から放たれた障壁がクリスを押し出す。

 再び距離が離れたことで、クリスは方針を変える。


「夜のしじまに紛れ、風の隙間に潜め。我が歩みを、世界よ忘れよ――【暗黒の布(テネブレ・ヴェイル)】」


 闇オークションを壊滅させた時に使用した闇魔法。

 クリスの体が二人からは黒いなにかに映る。


 光源の薄い迷宮内ということもあり、非常に視認しずらい。


「小細工だなッ」


 傷の男はそう一蹴し、追撃する。

 元々陰に潜むことの多い立場である彼らは、暗がりに順応して行動することができるようになっていた。


 確かに視認はしずらいが、別に周囲の環境に溶け込んでいる訳ではない。

 ある程度場所が分かっているなら、筋肉の要塞を持っている男なら深く考えずともそのまま近接に持ち込めば済む話だった。


 そして遂に、男の拳が黒い塊を貫く。


「あ?」


 ただ、感触に違和感があった。

 そこには肉を抉った感触も。血の熱も感じなかったからだ。

 答えに至る前に、横合いから脇腹に目掛け攻撃を受け、男は少しよろけながら攻撃に主に顔を向ける。


 その場には、無傷で立つクリスの姿があった。

 目を見開く間に、自身が貫いたものにかけられた影が霧散し、胴を貫かれたローブの男の姿が露わになる。


 視認は少し悪くなるだけで十分だった。


 クリスの目的は、自身の火力の低さを傷の男で補う事。

 接近戦と時折飛来し来る障壁に対処しながら、徐々にローブの男へと近づき、傷の男から見てクリスとローブの男の位置が重なった瞬間に魔法の位置をずらす。

 男の視線を確認しながら、クリスは死角へと移動した。


「俺を利用しやがったなてめぇッ!」


 自身を体よく利用されたことを悟った男は、怒髪天を衝く勢いでクリスに拳を振り下ろし続ける。


(さてどうするか)


 厄介な方を倒したのはいいが、残る一人を倒すのはクリス一人でやらなければならない。

 現在は身体強化の四段階目、相手の男はプラスして強靭な肉体の補助があるため、実質五段階目と言ってもいい。


 純粋な打ち合いでは押し負ける可能性があり、その前に単純に筋肉の装甲を突破して内臓を狙うのも難しい。


「あっ・・・・・・」

「死ね!」


 男の攻撃をステップで避ける途中。クリスの左足首が掴まれる。

 そのまま地面に目掛け、体を掴まれた状態で大振りに振り回される。地面に叩きつけられる間際、頭部を守る訳でもなく冷静に数を数える。


(1、2、3……)


 そのまま叩きつけられたクリスの体から内臓の破裂音と骨の砕ける破砕音が響いた。


 歯車が一つ錆びる。

 クリスの持つアーティファクト、【逆刻の懺悔】が発動した。

 後悔を抱いた時点から五秒前に時間が巻き戻る。


 場面は男に足を掴まれる寸前。

 クリスは身を翻して手をいなし、着地するや、男に対して足払いを仕掛けた。


「くッ?!」


 体勢を崩した男に合わせるように、クリスは身を沈めながら下から上に突き上げるようにアッパーを繰り出す。

 筋肉が肥大し百キロ近くある体が衝撃に浮き上がり、そのまま迷宮の壁の辺りにまで吹き飛ぶ。

 地面を転がりながらすぐに起き上がった男は、追撃の可能性にすぐさま起き上がる。


 そして既に敵は眼前にいた。


 クリスは立ち上がり防御態勢に入った男を、構わず連続で殴り続ける。

 拳におされて壁に背がつく男を連打でもって壁に縫い付け、反撃の隙を与えない。


(ぐっ! 耐えるだけでいい。この連撃を数分も続けられる訳がない!)


 全力に近い威力の殴打。

 時間の経過で威力とフォームが落ちるのは確実で、その瞬間に形成は逆転できると男は踏んだ。


「五段階(ヘー)」

「は?」


 拳の威力が、更に増幅する。

 防御する腕の骨が軋みを上げ、板挟みになった体の内臓に衝撃を与え始めた。


 男はクリスの全力を分かっていたつもりだった。

 幾ら実戦慣れしているとは学生。他の怪物的な同世代とも想像して、その範疇は越えないものと思い込んでいた。


「一度響いた痛みを、終わりなき喝采へ」


【暗黒の布】の時も同様であったが、クリスの詠唱は彼らの知識にはない。

 故に、その先の魔法現象も分からないために様子見の時間が必要となる。


 しかし、こうして壁に縫い付けられている現状では様子見などできるはずもない。

 おそらく数秒後に自身へと向けられる、現象の分からない魔法の存在に、男は焦りを浮かべて歯を食いしばる。


「こんな、ところでぇ・・・・・・ぐがッ!」


 腕の力が入らず、いつの間にか力なく垂れ下がっていた。

 鬱血して腫れ上がっている腕が再生するまでに数秒。しかし、その間に詠唱は完了する。


「同じ嘆きを、同じ傷みを、幕が下りるその時まで――【再響(アンコール)】」

「ぐがぁッ?!」


 男の胸部へと全力の一撃を叩き込む。

 肋骨を破壊し、口から吐血して白目をむく男から。ゆっくりと拳を引き抜くと、クリスは踵を返して背を向ける。


 男はまだ死んでいない。

 瀕死ではあるものの、悪魔の耐久性と再生能力で徐々に意識を取り戻していく。

 ぼやけた視界に映るクリスの背を追いかけるように体を前に倒そうとした時、逆に男の体は壁に埋まるように衝撃が走った。


「な、に・・・・・・がっ?」


 そして、クリスの最後の一撃を受けた場所に魔力が停滞していることに気付く。


「待――」


 三度目の衝撃。

 男の上半身は完全に壁にめり込み、心臓を破壊された男はそのまま絶命した。


 闇魔法【再響】。

 放った攻撃の衝撃を繰り返す魔法である。


 クリスは身を整えながら懐中時計で時間を確認する。


「・・・・・・大ってことでなんとか誤魔化せるか?」


 その後、手早く男達の懐から有用な物を抜き取るや、早足に班の元へと戻っていった。


多対一なら、まあフレンドリーファイヤーを狙えたら狙いますよね。Σ(・ω・ノ)ノ!

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