36話 会議
交流戦後、運営を行っていた教師陣が集まって会議を始める。
会議室の一室、三回生から六回生の教師。学年ごとの主任と、運営の協力で学年から一人ずつの、計八名が集まっていた。
クリスや主人公のいる三回生からは、主任のユリナ・ドレーゼと運営協力で入ったハーメスが参加している。
「六回生は例年通りですね。今季のスケジュールは予定通りの進行でよいでしょう」
進行は六回生の主任であるゼルぺダスが担っており、場に慣れている彼の手腕によって、つつがなく議題は進行する。
可もなく不可もなく、上級生の実力は例年通り。
とはいえ、魔法士として並という意味ではない。学園生の実力は折り紙付きだ。『例年通り』の意味するところは、学園の名声を保てるラインを意味する。
「卒業後の進路を加味した課題を各々に課します。一週間後、各個人に関しての監督資料を回収しますので、お忘れなきようお願いします」
参加した教員は、自身が監督を務めた場所で、戦闘を行った生徒達に関しての見解を記した資料を、進行しながら全てまとめている。
これをもとに、学年単位、ないしは個人への課題を課す時の参考資料の一つとしている。
「五回生は少々魔法の操作精度に難あり、ですな」
「オルタナ先生が実習で枠を取り過ぎているのです。先生に看過された生徒が、何故か筋トレに傾倒するのはどうにかして下さい!」
「いやいや失敬っ。運動と魔法のどちらも必要だとは伝えているのですがね。どうやら私のパーフェクトボディに魅了されてしまったようで。はっはっは!」
「笑い事ではありませんよ! この間なんか、植物を愛でるのが趣味だという生徒(甘いフェイス)が、彫りの濃いマッスルボディになっちゃってましたよ!」
五回生の主任であるオルタナは、ハンドルバーの髭を撫でつけながら、嬉し気に胸筋をぴくぴくと動かす。
同じく五回生を担当しているミューランは、密かに目の保養にしていた生徒が、オルタナの指導でガチムチに改造されてしまったことを嘆いていた。力仕事でもしようものならすぐに倒れてしまいそうな美少年が、気付けば戦闘民族のような姿に変化していたのを見た当初は、教師としての表情を保てず、つうっっと静かに涙を零したあの日を彼女はトラウマとしてこの先も覚え続けるだろう。
「四回生は昨年と比べると試行錯誤が見れた。ただ、自身の強みを活かしきれていない。先達の軌跡を辿るのは間違いないが、もう少しオリジナリティを出して欲しいというのが私の見解だ」
四回生主任、タキエルは、にひるに笑みを浮かべながら発言した。
白衣に身を包んでいる姿は研究者然としているが、百四十代の身長から、少女のようにも見える。徹夜続きの毎日による目の隈と口に運ぶ苦いコーヒーが、少女の見た目と相いれない異質感を醸し出していた。
「とはいえ机上の空論を上げさせる程無駄なことはない。一度迷宮を利用し、実習の頻度を高め・・・・・・すやぁ」
「先生、大丈夫ですか先生?」
「――はっ! おっと、すまないね。実験続きであまり睡眠が取れていなくてね」
喋りながら突然眠りについたタキエルを、隣に座る男性教員が優しく声を掛ける。
彼は学園に来て三年目の比較的新任の教員で、名はオール。元学園生であり、首席で卒業した逸材。
タキエルと同じく四回生を担当しており、なにかと彼女に振り回される苦労人でもあった。
「ふむ。意識がはっきりしているうちに地雷原処理だけはしておくのはどうだろう? 毎年初参加組に関しては荒れるが、今年はとびきりのようだし?」
やはり最も議題に上がるのは最高学年である六回生と、交流戦の初めて参加する三回生になる。
六回生に関しては、ゼルぺダスの徹底した指導によって既に方針が確立されている状況。
問題は三回生だった。
「そうですねぇ。全体で見れば、やはりまだ未熟な部分が目立つかしらぁ? でも、向上心は皆高いから、あまり過剰なサポートは悪影響になりそうなのよねぇ」
おっとりとした雰囲気を醸し出す妙齢の女性は、三回生の主任であるユリナだ。
目下の泣きほくろ、長い黒髪を背の辺りでまとめた、どこか色気のある姿は『楽園』プレイヤーの中でも人気が高かった。
タキエルは、ユリナの豊満な胸と自身の胸部装甲を少し比べて死んだ魚のような瞳になった後、気になった三回生の生徒を思い出す。
「フィッツジェラルド家の長女は面白い魔法を使っていたね。操作していた水が、氷に変化していた」
「あれは水の状態を操っていましたねぇ。非常に興味深い魔法でしたぁ。可能であれば話を伺いたいところですが、公爵家の秘匿魔法と言われない事をまず祈らなければなりませんねぇ」
学生が新魔法を作る事は、稀ではあるが皆無ではない。
ただ、レオナの魔法は、液体操作という今までの水魔法の枠組みを超えたもの。
水と氷とでは、温度、硬度とまるで異なることから、再現される魔法の事象もまるで異なるものになる。
平静を装ってはいるものの、多くの者がレオナの新魔法の話を聞きたがっており、それはここにいる教員たちも例外ではない。魔法に人生を捧げた彼らには尚更の話かもしれない。
「素晴らしい身体強化魔法を使っている生徒もいましたな。中でも平民の生徒が突出していたのには驚きました。是非とも私とマッスル道を歩む同士にしたい逸材だった」
「また犠牲者を増やそうとしないで下さい! 私も三回生は注視していましたが、全体的にレベルが高いですね。流石は王族がいる世代といったところでしょうか」
平民に手を出そうと画策するオルタナを制しながら、ミューランも自身の見解を述べた。
三回生には、第二王子と第三王女がいる。
貴族の慣習と言えるかは怪しいところだが、王族が産まれる年に自分たちの子供も作る事が多い。
気に入られれば王族との繋がりができ、万が一にも婚姻関係なれば家門の力が一気に補強されるからだ。
そのため、現三回生の受験倍率は他の学年よりも高く、合格者は軒並み高い能力がある。
絶対的なレベルの高さはそれらが要因だろうというのが、ミューランの口ぶりから察せられる彼女の意見だ。
「三回生に関しては、より詳細を詰めた課題が必要になりそうですね」
ゼルぺダスも実感していることで、予定の修正を組み立てる。
このまま詳細を話したいところだが、進行の彼もまた、気になる生徒がいた。つい最近、関わるようになった問題児。
「時に皆さんは、クリス・ローウェンに関してはどのように感じましたか?」
投げかけられた問に、一度会議が静まる。
いつもは即座に出る意見も、初見であれば言葉を発するにも思考が必要だった。
「一つ疑問なのですが、ハーメス先生は彼の魔力操作の腕を知っていましたか?」
「いえいえ! 以前も魔法の腕は悪くはありませんでした。ただ、大技ばかりを使うのであのような技術を用いることはなく、私も初めてみました」
クリスが出たのは五回生との一戦と六回生との一戦。
前者は『消滅』で一方的な展開になった。
二回戦目は、クリスの前情報が出ているため上級生はその対応で接近戦に切り替えて動く者もいた。
ただ、二回戦目ではクリスは自陣の全滅を待たずに相手の魔法を消滅させた。
クリスのチームになっていた四回生は、ただ慎重に魔法を放つだけだったが、それだけでも相手にとっては脅威になる。
四人中三名の四回生が倒されるものの、最終的にクリスは魔力操作のみで勝利した。
「なにやら大層な問題児らしいじゃないか? 有難い私の講義中に生徒達が噂していたよ。彼らには額にチョークを突き刺してやった」
「確かにクリス君は多くの問題を起こす生徒ですが、停学明けからは真面目に・・・・・・いえ、比較的真面目に授業を受けています」
キエルが聞いたであろう噂だけではかなり偏った意見になるだろうと、すかさずハーメスが補足する。
できればもう少し擁護してあげたいというのが担任としての心情ではあるものの、時折上の空になったり交流戦もさぼろうとしていたクリスを思い返すと、多少擁護の言葉もまごついた。
「おやおや、わざわざ肩を持とうとするなんて君は少し優し過ぎるんじゃないか? 悪ガキなんて、一発ぶちのめしてやって身の程を弁えさせるぐらいが丁度いいのさ」
「タキエル先生はもう少し優しく接してあげてもいいと思うわぁ? ふふっ、生徒達も子供じゃないんだから、対話でもきっとわかってくれるわぁ」
「・・・・・・ちッ、どうやら胸に栄養が多いと心も広くなるらしい」
「「?」」
三回生の教員二人の胸部装甲をねめつけながら、小声で毒づくタキエル。隣では聞こえない振りをしてオールはそっと顔を背け、話の流れも修正しようとする。
「確かに彼は非常に繊細な魔力操作をしていました。しかし、幸いなことに学園では同じような事例の生徒の記録もあります。彼の方針に関してはそちらを参考にしませんか?」
「それが無難でしょうな。もし身体強化系の指導が必要でしたら、私も手を貸せるかと」
「ありがとうございますぅ。三回生に関しては、あとは臨機応変に対応していきましょう。ハーメス先生もなにかあれば相談して下さいねぇ?」
「分かりました。ありがとうございます」
教員は慌てる様子なくそれぞれ方針を固めていく。
この余裕は、彼ら自身が同様のことを容易にできるが故のもの。
ただ、彼らも全てを掌握できている訳ではない。
『楽園』でのある事件が、すぐそばまで迫っていた。
どこかで人物紹介まとめがないと、こんがらがりそうですね・・・・・・




