嵐と津波と偉大なるドラゴン
海を守るために、風を守るために、ジェスとグレイス、ベルタとハイドは決断をします。
【夜 環礁 砂浜】
霧が立ちこめる砂浜
車座にたき火を囲むジェス、グレイスそしてベルタ
ベルタ:「憎かったの・・・」
ジェス:「誰が憎かったんだ?あのすべての闇ってやつか?」
ベルタは、ゆっくりと首を横に振って否定した。
ベルタ:「私たち人間・・・」
押し黙るグレイスとジェス
ベルタ:「海を汚すことしか能がない私たち人間・・・」
◆回想シーン(第三部26部参照)
海に向かって吠えるベルタ
ベルタ(オフ):「私は海を人の手から遠ざけたかった」
潮だまりに浮かぶゴミ、白い腹を見せて死んでいる小魚たち
ベルタ(オフ):「汚れた人の手から。人の手が届かない所へ海を遠ざけたかった。
青い海を守りたかった。私の意志が海に伝わり、人は海から遠ざけられるはずだった」
◆回想シーン終わり
グレイス:「そうすれば海とひとつになれると思ったわけ?」
頷くベルタ
ベルタ:「私の願い通りになった。濃い霧が晴れると、そこは人と海が関わりを持たない世界だった。人はひたすら海を恐れていた」
ジェス:「そんな世界にはならなかったぞ。俺たちはお前の船でここまで来られたわけだし」
ベルタ:「霧の向こうにあったのは私たちの世界の海じゃなかったのよ。そこは人ではない竜が海を司る世界」
グレイス:「ドラゴン?」
ジェス:「って、昔話に出てくるあのドラゴン?」
◆挿入映像
大海原をうねる巨大な体躯の水竜
ベルタ(オフ):「そう。その世界では竜が海を司っていたの」
グレイス(オフ):「ねえベルタ。さっきから、その世界とか私たちの世界って言っているけど、私たちの世界の他にどんな世界があるの?」
◆挿入映像 終わり
ベルタ:「人が司る前、海は竜のものだった。竜が海を司る世界。私たち人の世の前の世界」
ジェス:「人の世の前の世界?」
ベルタ:「ハイドの声が教えてくれたの。ここは人の世が訪れる前の世界・・・」
立ち上がるベルタ
ベルタ:「戻らなきゃ」
グレイス:「戻るってどこへ?」
ベルタ:「私たちの世界よ。人の世の世界。霧の向こうに戻らなきゃ。海が守れなくなる」
ジェス:「海が?」
ベルタ:「私が守らなかったら、私がいなかったら、誰が海を守るの?私が守らなきゃ。戻らないと」
声:「そうだ、帰るぞベルタ」
ベリッシモ号の舳先からハイドの声がする
続いてバシャバシャと波音が近づいてくる
霧を背にしてハイドが近づいてくる
グレイス:「ハ、ハイド・・・」
ジェス:「お前・・・」
ハイドに近づくジェス
波音はやがて駆け足になる
ジェス:「テメー、今までどこに行ってやがった!」
ハイドに殴りかかるジェス
そのまま倒れ込むジェスとハイド
ハイド:「久しぶりにこれはキツイな」
ジェス:「お前、お前・・・」
ハイドの胸ぐらを掴むジェス
ジェス:「どんなに会いたかったか・・・」
怒りながら涙目になるジェス
グレイス:「ハイド、やっぱり生きていたのね」
ベルタ:「ハイド・・・」
ハイドの首に暑苦しく抱きつくベルタ
それ以上言葉が出ない再会
ハイド:「老けたなジェス」
やや呆れるジェス
ジェス:「久しぶりの第一声がそれか?そういうお前はなんで年を取ってないんだ?俺たちより5つは年上のハズだから、そうとうオッサンだぜ」
ハイド:「話は後だ。とにかく帰るぞ」
ジェス:「帰る?」
ハイド:「俺たちが出会った、あの砂浜さ」
【環礁入り口】
環礁を出るベリッシモ号
外海は大時化で、上空には雷雲が立ちこめて、竜のごとく稲妻が走っている
時折雷光の中をペガサスらしいシルエットが見える
ベリッシモ号の会場近くに空から降ってきた何かが落ちる
巨大な水柱が甲板のベルタたちを洗う
ジェス:「何が起きてんだよ、ハイド!」
ハイド:「星の騎士団が戦っているんだ」
グレイス:「誰と?」
ハイド:「俺たちの前の司るものさ」
ジェス:「それでこんな騒ぎかよ!」
ベリッシモ号の舳先の海が小山のように盛り上がり、長大な体躯の竜をはき出す
幾重にもベリッシモ号の船体に巻き付く竜の体
ジェス:「なんだこりゃ?」
ハイド:「俺たちの前の司る者」
ベルタ:「そうドラゴン」
ドラゴンが首をもたげ、ジェス達に話し出す
ドラゴン:「命が定まった者たちよ。世代が変わるのは宿命として受け入れよう。だが、司る者になる力があるか、試させてもらおう」
ドラゴンが一喝すると、猛烈な突風がベリッシモ号に襲いかかる
ジェス:「おもしれえ!」
例の構えを取るジェス
グレイスも同じように例の構えを取る
ジェス:「試せるものなら、試してみろ」
夫婦で突風を巻き起こすジェス
ドラゴンが巻き起こす突風と、風の夫婦が作り出す突風が正面でぶつかり、きっ抗している
走り出すベルタとハイド
そのまま荒れ狂う海の中へつっこむ
波にもまれるベルタとハイド
天地左右すべてが青い世界の中で、人が排出したものが汚点のように漂っている
ハイド:「確かに、人は海を汚し放題に汚してきた」
ベルタとハイドの周りに、汚点が集まる
ベルタ:「人の過ちを正すことができるのは、人しかいない」
ドラゴン(オフ):「お前達、命が定まった者達に、人の過ちを正すことができるのか?
一瞬の命しか持たないお前達人間に、永遠の時を持つ海を守る事ができるのか?」
ベルタ:「できる!」
波の中で波にもまれて歌うベルタ
ベルタ:「私たち人間は、次のそのまた次の世代まで、青い海を伝え続ける」
読了ありがとうございました。
今後もごひいきによろしくお願いします。