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太陽が昇らない国の物語(仮) 第三部  作者: 岸田龍庵
風と水の回顧録(かいころく)
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行ってしまった流水の聖者と、待ち続けた流水の聖女

ジェスとグレイス、ベルタとハイドの青春の最後のページです。

【夕暮れ 浜辺】


黄金に輝く波打ち際

波に洗われる、半分砂浜に埋まっているサファイヤのアンクレット

アンクレットを拾い上げる白いベルタの手

祈るように海を見つめるベルタ



グレイス(オフ):「何日も何日も待ったわね」

ジェス(オフ):「でもヤツは帰ってこなかった。帰ってきたのは、あのアンクレットだけだったな」

アンクレットを左足につけるベルタ

グレイス(オフ):「あの時、無理にでもベルタを連れて帰るべきだったわね」




【港町ポート・オブ・エリア 桟橋(さんばし)】


桟橋に立つ青いドレスのベルタ

左の足首にはサファイアのアンクレットがある

向かい合うジェスとグレイス

ジェス:「お前は風の民だろう?帰ろうぜ、お前の親父だってわかってくれるよ。ちょっとした家出だって」

首を横に振る代わりに静かに微笑するベルタ

ベルタ:「私は、守ると誓ったの。青い海を、あの人が好きだったお会い海を。あの人が帰ってくるまで守り続けるって誓ったの・・・」

ジェス:「あいつが出たっきり何日経っていると思うんだ?」

ベルタ:「あの人はいるわ」

グレイス:「どこに?」

無言で海を見つめるベルタ

自然とジェスとグレイスに背を向ける格好になる



ベルタ:「いつまでも青い海が続く限り、あの人は生き続けているわ。あの人は海よ。どこまでも続く青い海・・・」

グレイス:「ベルタ」

ベルタ:「内気な風の民のベルタはもういないわ。いるのはいつまでも青い海を守ると誓った流水の聖女よ」


◆17年前の回想シーン終わり






【環礁の中 砂浜】


ジェス:「青い海を守る・・・か」

グレイス:「それだけがあの子を支えてきたのよ」

ジェス:「そのベルタはいない・・・」

グレイス:「あの子の部下が言っていることは本当かもね。海に飲み込まれたって」

ジェス:「どういうことだよ?」

グレイス:「あの子にとってハイドは海そのものよ。ベルタはいつか海と一緒になりたかったんでしょうね。

 大好きなハイドが守ってきた青い海に。

 そうすれば海が干上がらない限り、ベルタはハイドと一緒にいられるもの」

ジェス:「ハイドもベルタも居なくなったら誰が海を守るんだ?」



少し考え込むグレイス

グレイス:「私たち、なのかもね」

ジェス:「オレたち・・・」

グレイス:「そう、私たち。誰かが守るとかじゃなくてみんなで守るの。海だけじゃなくて風も大地もよ。確かに司る者はいるけど、みんなで守っていくのかもよ」

ジェス :「みんなでか・・・」

たき火がぱちりと音を立てる




【夜 環礁 砂浜】


たき火を囲んで寝入るジェスとグレイス

たき火に忍び寄る濃い霧

弾かれたように目を覚ますジェスとグレイス

ジェス:「何だこりゃ?」

グレイス:「霧・・・?」

すっかり霧に埋まってしまっている環礁

濃霧を割って青地に白の星を染め抜いたベリッシモ号が現れる

ジェス:「なんでハイドの船が?」

グレイス:「ベルタの船はどこへ行ったの?」



物言わないベリッシモ号

バシャバシャと波音が近づいてくる

黒い足が近づいてくる

お姫様だっこされている意識のないベルタ

ベルタを抱っこしているのはベルタの顔をした『すべての闇』



ジェス:「オメーは?」

すべての闇は攻撃を仕掛けるわけでもなく、ジェスにベルタを渡す

グレイス:「ベルタ?」

意識はないが、血色も良く全身が濡れているが生きているベルタ

グレイス:「助けてくれたの?」

ベルタの顔をしたすべての闇が頷く



ジェス:「なぜオメーがベルタを助ける?オメーは俺たちの歩みを止めるんじゃなかったのか?」

すべての闇:「この者は海と一緒になりたがっていた」

グレイス:「やっぱり」

すべての闇:「海と同化しようと、海に呑まれることを望んでいた。人であることを捨てて。だが、今はその時ではない」

ジェス:「その時?」

すべての闇「そうだ。時が沸騰(ふっとう)していないからだ」

グレイス:「沸騰?海が沸き立つってこと?」

ジェス:「相変わらずオメーの言っていることはわからねえが、今はベルタを助けてくれた礼を言った方が良いみたいだな」

すべての闇:「助ける?私はこの者を助けたのではない。

 この者がまだ世界に必要だから戻しただけだ」

グレイス:「必要?」

ジェス:「戻した?」

すべての闇:「案ずるな。私はお前達でもあり、お前達は私でもあるのだ。今はひとつになる時ではないということだ」

謎の言葉を残して、来たときと同じ波間を歩いて去っていくすべての闇

ジェス:「なんだ、あいつ?」

しばらく呆然(ぼうぜん)としているジェスとグレイス

ジェス:「ひとつになるってどういうことだ?」



咳き込むベルタ

グレイス:「ベルタ、ベルタ、大丈夫?」

ベルタ:「う、うん」

セクシーに目を覚ますベルタ

グレイス:「良かったベルタ」

妹を抱きしめる姉

ベルタ:「姉さん、ジェス?」

我に返るベルタ

ベルタ:「ハイド、ハイドは?」

珍しく取り乱すベルタ

グレイス:「ハイドに会ったの?」

こっくりと頷くベルタ

ジェス:「聞かせてくれるな、妹よ」

読了ありがとうございました。


今後もごひいきによろしくお願いします。

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