海だけの問題じゃない
ミランたちを助けた船長ハイドの登場が、物語を動かしていきます
【夜 風のキャンプ】
ベルタの前に立ちはだかるジェスとグレイス
ベルタ:「どいてよ兄さん、姉さん」
ジェス:「今回ばかりはダメだ」
ベルタ:「私は私の船に戻るのよ。自分の家に帰るのに、どうして邪魔をされるの。久々に故郷でのんびりできたわ」
ジェス:「そりゃ、あんだけ寝ていれば、そうだろうよ」
ベルタ:「だから帰るの」
ジェス:「今はダメだ。お前、絶対にハイドの船を探しにいくだろ」
答えないベルタ
ジェス:「いいか、これはデマだ、いたずらだ、お前の部下の見間違いだ。
そんなデマに目くじら立てて帰ることねえだろう。もうちょっとゆっくりしていけ。寝てばっかりじゃつまらんだろう」
やはり答えないベルタ
ジェス:「オレが調べて来てやるから、とにかく今はここにいてくれ。
な、妹よ、セクシーな妹よ」
ベルタ:「兄さんに船操れるの?」
ジェス:「バカにすんな、元はオレとハイドでー」
言ってから口をふさぐジェス
無言のベルタ
【港町ポート・オブ・エリア 桟橋】
停泊中のベリッシモ号
ハイドと向かい合っているミランとフレイ
ミラン:「船長、なにからなにまでありがとう」
ハイド:「オレはお前達を乗せただけだぜ」
ミラン:「そうかもしれないけど・・・」
茫然自失のフレイ
ハイド:「なんだなんだ、ぼんやりしやがって!お前がしっかりしないで、この先誰がお姫様を守っていくんだ、しっかりしねえか!」
まったく反応がないフレイ
ミラン:「ちょっと疲れただけだと思うわ」
ハイド:「まあ、時間が解決するってこともあるからな」
ミラン:「船長はどうするの?」
ハイド:「オレか?オレは船乗りだぜ。海に帰るのさ」
【丘陵 放牧地帯】
おびただしい羊の群
警戒するようにうろうろしている牧羊犬
それらの傍らでぼんやりしているジェス
◆回想 昨晩の様子
ベルタと向き合うジェス
ベルタ:「そこをどいてよ兄さん」
ジェス:「今は、大切な妹を海に帰すわけにゃいかねえな。どうしても海に帰るっていうんなら、オレをどかして行け」
ベルタ:「じゃあ、そうさせてもらうわ」
ムチで宙を切るベルタ
ジェス:「マジかよ」
ベルタ:「マジよ」
ベルタとジェス、対峙したまま微動だにしない
猛烈な突風がジェスとベルタの間に割って入る
グレイス:「いい加減にしなさい!2人とも」
仁王立ちのグレイス
泣き出すジェスの長男
そっぽを向くと、海の方に向かって歩き出すベルタ
ジェス:「ベルタ」
義理の兄に背を向けたまま足が止まるベルタ
ジェス:「いいかベルタ。港でどんな噂やデマがあったかしらねえが、ハイドはなあ」
ベルタ:「そうよ、ハイドは死んだのよ」
背中で言うベルタ
そしてジェスとグレイスの方に向き直る
ベルタ:「今から17年前にね。あの人は海に、沖に出たまま帰ってこなかった。
ハイドは死んだのよ。だから私が流水の聖女になったのよ。
海を守ることが、青い海を守ることが私の使命、流水の聖女の使命よ」
歩いて去っていくベルタ
ベルタの後を追う船乗り
部下の声:「族長、族長!」
ジェス:「うん、なんだ、どうした?」
部下:「羊の様子がおかしいんです」
ジェス:「羊が?」
倒れて痙攣する羊
座り込んで口から泡を吹いている羊
口蹄疫のようによれよれとしか歩けない羊
ジェス:「なんだこりゃ?」
部下:「こんなの見たことありません」
ジェス:「急にか?」
部下:「午後からですね。風向きが南西に変わってからですよ、オレもちょっと体中が痒いんです」
首筋を見せるジェスの部下
うっすらとではあるが、湿疹のようなものが見える
風の匂いをかぎ取るジェス
ジェス:「潮の匂い・・・?この時期にか?」
【風のキャンプ】
ジェス:「そーれ、それ、急げ急げ」
羊たちをせかしてキャンプに戻るジェス
なにやら人がジェスのテントに群がっていて騒がしい様子が遠目に見える
ジェス:「なんだ、騒がしいな」
キャンプからは子供の泣き声が多く聞こえてくる
グレイス:「ジェス・・・」
ジェス:「どうした?」
テントの奥で長男が寝かされている
見ると顔中が湿疹に覆われている
ジェス:「これは?」
グレイス:「外で遊ばせていたら、急に痛がって・・・羊の脂を塗ってやったら痛がりはしなくなったけど、腫れがひかなくて」
ジェス:「午後からか?」
グレイス:「潮風に変わってから・・・」
ジェス:「潮風・・・・風?」
【夜 風のキャンプ】
ランプを囲むジェス、グレイス夫妻
ジェス:「ベルタ、ハイド、潮風・・・・」
その三つを繰り返しているジェス
グレイス:「ジェス、もうよしなよ」
ジェス:「あ、ああ。うん」
グレイス:「へんな偶然が重なっただけでしょ。あの子の湿疹だってすぐに引くから」
すぐに答えないジェス
ジェス:「ただの偶然だと思うか?風が毒を運んできたんだぜ」
グレイス:「偶然じゃないっていうの?」
ジェス:「そんなのここに居るだけじゃわからねえ」
グレイス:「そんなの、やめてよあんた。もう昔じゃないんだよ。あんた、子供のことなんにも考えてないの?」
ジェス:「こいつらのことマジメに考えているから言ってるんだ。こんな風にこいつらを曝しておけるか?毒の風に?」
今度はグレイスが黙った
ジェス:「かといって、昔みてえに、俺たちだけの都合で風を動かすようなことは、あまりしたくねえ。
なにかがおかしい。潮風といいベルタにハイド。海でおかしな事が起きている。それを風が教えてくれたんだ」
グレイス:「じゃあ、ベルタに任せれば・・・」
ジェス:「水の、海だけの問題じゃねえ。俺たち風と海はお互いが影響し合っている。
風がおかしくなる前に、なんとかするのが、こいつら子供達の親の役目だ」
すやすやと寝息を立てるジェスの子供達
読了ありがとうございました。
今後もごひいきによろしくお願いします。




