母親と言う恋人【25】
直後、俺は焦った顔になって、見張り役の兵士へと視線を移した。
単純に卒倒しているだけなので、キリの叫び声で意識が回復してしまう危険性があったからだ。
思った俺は、ビビった顔のまま兵士の方を見る……起きる気配はない。
良かった……こんな所で起きたら、また痛い目を見て貰うしかない。
俺も、あんまり本意じゃないんだよ!
コイツら兵士は単に自分の仕事してるだけなんだからさ?
それなのに、二回も気絶する様な勢いでしばかれたら、たまったモンじゃないと思うんだよ!
……ま、ここで起きたら、当然の様にしばくがな!
どちらにせよ……意識が回復しなくて良かった。
俺は安堵のまま、ホッと胸を撫で下ろす。
「……と、言う訳で……母さん。俺はあなたの恋人にはなれない……恋人になんかなってしまった日には、本来の旦那と添い遂げる事で生まれて来る筈の俺が『生まれない』からな?」
「……っ!」
安心した俺は、苦笑混じりになった状態でキリへと答える。
フリーズしていた顔が、更に強く大きく強張っているのが分かった。
しばらくして……。
「それは流石に嘘……だよね? 私がイリの母親? そんなの……信じられる訳がないじゃない!」
……ああ、そう来たか。
再びキリの『信じたくない病』が発症してしまった。
まぁ、気持ちは分かるぞ? うん。
立場が逆だったら、間違いなく俺だって信じたくない。
分かり易く、一例を挙げてみよう。
例えば、ちょっとしたキッカケから恋人になった彼女が居たとしよう。
その彼女は、自分にとって初恋の相手で、とてつもなく自分好みの良い子だったと仮定する。
そんな彼女がいきなり別れ文句を口にして来た!
当然、困惑するよな?
いきなり、なんの脈絡もなく『別れましょう』と来たら、誰だって驚きもするし、狼狽すると思う。
そうなれば、理由を聞きたいと思うよな?
普通に考えれば……せめて、理由だけでも教えて? と、こうなるに決まっている。
そこで、彼女に言われた台詞が……こうだ。
アナタは、私の父親だからです!
……ポカーンってなると思うし、信じろと言われても無理がある。
……くそ、面倒な事になったな。
し、仕方ない……奥の手を使おうか。
正直に言うのなら、この手だけは使いたくなかったんだが……今回に限って言うのなら、そうも言ってはいられない。
ついでに言うと、少し方便と言うか……真実ではありながらも、若干の曲折と言うか……歪曲も含まれている……いるんだけど、今回は意図的に目を瞑る事にして置こうか!
そこまで考え、自分なりに覚悟を決めるかの様な表情を作りだした後、
「……じゃあ、これは信じてくれるかな?」
俺は、笑みのまま答えた。
厳密に言うのなら『俺』ではなく『私』になっていたのだが。
「………」
再び絶句のキリ。
そりゃ、そうだろう。
さっきの一例に当てはめるのなら……これまで自分好みの可愛い女の子だと思っていた相手が、実は男だった!……って言うのと同じ様なシチュエーションが発生しているのだから。
「実は、これ……未来になると可能になる、特殊な魔法なんだ。本来の私は女……つまり、私はお母さんの娘なんだよねぇ……はは」
「そ、そんな……事が、ある……の?」
キリはショックで昏倒しそうな勢いだった。
「その姿って……あれだよね? 公爵の屋敷に忍び込んだ時に助けてくれたり、迎賓館の地下に乱入して来た時に出て来た、天使だよね?……今は、戦乙女みたいな格好をしているけどさ……?」
顔を蒼白にし……ショックが強すぎて、過呼吸になりそうな勢いのまま口を動かして行くキリ。
この言葉に、私はコクンとゆっくり頷きを返し……ん? 待て? 戦乙女だと?
「……んなっ!」
キリに言われて気付いた!
女の姿に変わった瞬間……服まで自動的に大きく変わっていた!
しかも……なんだよ? この格好?
キリじゃないけど、これじゃ……マジで女騎士の様な格好じゃないか!
強いて言うのなら、背中にマントがなかった。
騎士と言えば、やっぱり背中にマントが着いている事が多いからな?
しかし、マントがないと言う事以外は、まんま女騎士のそれだ。
完全に身体を鋼鉄の様な物で覆う訳ではなく、肌を露出させている部分もあるのだが……恐らく、ここは魔導防壁を使用しているのと、身体を動かし易くする為の工夫から来ているのだろう。
実際に、軽く腕を振ってみると、全く違和感なく動かす事が出来る。
そして、一番は軽量化を図っているのではないだろうか?
完全防備のプレート・アーマにしてしまうと、その重量もかなりの物になる為、装着者の動きを抑制してしまう。
……ま、背中に翼を生やせば、フル・アーマーでも全然問題ないんだが。
しかし、実際に装着して分かったのだが、鎧を着ている事に気付けなかったぐらいに軽い。
下手をすると、この鎧その物に、装着者の能力を上昇させる補助魔法が付与されているかも知れない。
実際の所は分からないが……ほぼ、間違いなくそうだろうと、私は確信していた。




