母親と言う恋人【24】
これは、飽くまでも俺の予測なんだが……二日間の冷却期間があったせいで、色々とゆっくりと考える時間があったんじゃないのかと思う。
そして……その冷却期間を兼ねた事で、
「私さ……思ったの。イリの言ってる事を全く信用していなかったんだな……って。自分の事を先に考えていたんだ……って。本当は、もっと真剣に聞かないといけなかったのに」
俺の事を考えてくれる時間もあったんじゃないかな?……と思える。
そうな?
俺も、もしかしたら仕事の事に専念する……する事の出来る時間がなかったのなら、キリの事を色々と考えていたんじゃないのかなぁ……。
小人ウルズなりの気遣いだったのか? はたまた、単純に予定調和に沿った結果、偶然そうなってしまったのか?……そこは分からないが、俺はキリの事をそこまで意識せずに居られる環境があったからこそ、心がそこまで重くならずに済んだのかも知れない。
けれど、キリはその限りではなかったと言う事だろう。
むしろ……喫茶店で別れた時よりも、色々と切実な感情が溢れ出ている様な感じだった。
………くそ。
本当、嫌になる。
こんなにも可愛い女の子が、自分を求めていると言うのに。
顔が可愛いと言うのも去る事ながら、根本的に性格も俺好みと言えるだけの愛しさを持つ女の子が、全力で自分の気持ちをぶつけていると言うのに。
それでも……俺は、キリの気持ちに応える事が出来ない。
本当……切ないよ。
正直、泣いて良いか?
やたら女々しい感情が、俺の中に生まれて来ては、無駄に俺の心を刺激する。
ここで泣けたらなぁ……本当に楽だと思う。
みっともないと笑われても……やっぱり、それが俺の中にある本音だった。
けれど……そんな無様な態度をみせる訳には行かない。
最後ぐらい、格好付けさせて欲しいしなぁ……はは。
そこまで考えた俺は、キリをギュッ……っと抱き締めたまま、ゆっくりと口を開いた。
「俺の言葉を信じてくれたのなら……もう、分かるだろう? 俺はこの時代の人間じゃない。遠く未来からやって来た、未来人だ……まぁ、遠いと言っても、三十年程度ではあるんだけどな?」
「……うん、そこは信じる。最初は嘘をついているとばかり思っていたけど……そこからイリが居なくなって……ずっと、もう会う事が出来ないって思えた時……分かった。私はイリの言った事を、少しも信じていなかった……だから、信じる」
「そうか……ありがとうな? それなら、もう他に言う事なんてないんだけど……それが、キリの彼氏になってやれない理由の一つだ。本当に生きる時代は、ここじゃない……だけどな? 実は、まだキリの恋人になる事が出来ない理由があったりもするんだよ」
「……まだ、あるの?」
俺の言葉に、キリは驚きの声を飛ばして来る。
きっと、俺が未来人だと言う時点で、既にお腹一杯なんだろう。
率直に言うのなら、それで納得してくれたら……俺も、ここまでの事を話すまでには至らなかったんじゃないのかなぁ……とは思うんだが。
けれど、今のキリは……きっと、俺が未来人だと言う理由だけでは納得しくれないんじゃないのかなぁ……と、なんとなく思ったんだ。
ポイントは三十年後の未来……と言う所だ。
これが、過去であった場合なら、どんなに頑張っても過去に行く事は出来ないが……未来であった場合は、普通に三十年待てば未来が訪れる。
常識の上で行けば、三十年も待ってしまえば……キリは幾つだよ? って話しになってしまうんだが……実は、ここにも『対応策』があるんだよなぁ……これが。
この世界には、時魔法と言う反則紛いな魔法が存在する。
発動させると、対象となった者ないし物の経過時間を逆転させる事が出来ると言う……ハチャメチャな魔法だ。
この魔法を発動させる事が可能になれば、元来不可逆的な肉体の時間を逆転させてしまう事が可能になってしまう。
すると、どうだろう?
三十年後のキリは、今と同じ姿を保つ事が可能になってしまうのだ!
……まぁ、密かに時魔法と言うのは難易度が強烈に高く、そんじゃそこらの魔導師には天地がひっくり返っても出来ない様な代物なんだけどな?
けれど、ゼロではない。
……死ぬ気なって頑張れば、キリ本人の習得だって可能だろう。
その証拠に、息子である俺も使える魔法だしな?
母親のキリだって、頑張れば使える様になるだろう。
……よって、三十年の垣根と言うのは、時魔法と三十年後の未来が解決してしまう。
……そう。
ただ単純に、時間だけが問題であったのなら……なのだが。
しかし、俺とキリとの間にある問題は、時間だけではない。
むしろ、時間だけであるのなら、そこまで大きな問題でもないんだ。
次に答えた、俺の問題から比べたら……の、話しなんだが。
「俺の母親は……キリ・ジウムって言うのさ」
「…………」
……あ、固まった。
どうやら、かなりショックだったらしい。
ただ、ここは俺の予測も混じっている。
なんと言っても『キリ・ジウムさん』には会っていないからだ。
飽くまでも、マグネ・ジウムと言う旦那と結婚した結果、イリ・ジウム……つまり、俺が生まれると言う結末を知っているからこそ、口にする事が出来た台詞だったりもする。
「……そ、それって……ぐ、偶然? なの……かなぁ? わ、私の名前と同じ人って事はないよね? セカンド・ネームは違うし」
キリは身体をフルフルと震わせながらも、俺に声を吐き出して来た。
明らかな動揺からして、確実にキリは分かっている。
俺の言いたい事を……だ。
「もしそうであれば……俺だって、こんな話しをしなかったと思う……つまり、そう言う事だ……母さん」
「母さん?……い、いや……ちょっと待って? 本当に待って欲しいよ? だって、私……未婚だし……そ、その、子供を作る様な行為とか……し、した事もないし!」
「だから言ったろう? 俺は未来人なんだ……って。これからそうなるんだよ?」
「え?……えぇぇぇっっっ!」
キリは思い切り混乱した状態で、遮二無二驚きの声を上げてしまった。




