母親と言う恋人【23】
ニイガ王家の魔導防壁に関しての詳しい情報は、俺も良く分かっていない部分がある。
普通の賞金稼ぎは、ニイガ王家の城に用事が出来る事なんぞ皆無に等しい上に、ニイガ城に関しての防衛システムは国のトップ・シークレットでもあるからな?
何なら、ニイガ王宮で仕事をしている連中だって、正確には知らないんじゃないだろうか?
ともかく、それだけしっかりとした情報が入って来ない……まさにブラック・ボックスの宝庫でもある。
そんなニイガ城の魔導防壁ではあるのだが……一箇所だけ、確実に防衛システムを静かに抜ける事が可能な場所が存在する。
ニイガ城の門だ。
基本的に深夜は閉まっている事が多く、門その物を通過する事は難しいのだが……門の近くにある勝手口の様な部分であるのならば、話しは大きく変わって来る。
門を見張る番兵が、ニイガ城の敷地内から門の外側へとやって来る時に使っている、小さなドアがあるんだが……ここが、唯一の抜け道と述べても良い。
当然、このドアには鍵が掛かっているのだが……門を見張る番兵が鍵を持っていれば、それで問題はない。
潜伏スキルで背後に近付き……後は眠って貰おう。
門を見張っているのは……二人か。
心の中で呟きつつ……俺は、見張りに近付いて、背後から殴ってみせる。
ドコォッ!
「はがっ!」
思い切り不意を付かれたであろう見張りは、悲鳴にも似た声を吐き出しながらも地面に倒れた。
「……? おい、どうしたんだよグオン?……ぐおわっ!」
その数十秒後……俺は、もう一人の見張りも背後から殴り倒して……そのまま昏倒させた。
許せ……今は非常事態なんだ。
一応、後で治療魔法ぐらいはしてやるから。
二人の見張りが気を失っているのを確認した俺は、腰に付いてあった鍵を手に取った。
見る限り、この他には鍵らしい物を持っていない。
恐らく、これが門の近くにある勝手口の様なドアの鍵なんだろう。
……違ったら、もう一回探す。
「……イリッッ!」
取り敢えず、これが鍵なんだろうと考え、勝手口のドアへと向かおうとした……その時、予想だにしない声が転がって来る。
この瞬間……俺の思考がフリーズした。
この声は……間違いない。
「……キリ、か?」
ポカンとした顔になって言う。
きっと、今の俺は途方もなく間抜けな物になっていたであろう。
地味に格好悪いったらない。
近くに鏡がなくて良かった……と、地味にどうでも良い事を考えつつ、声を吐き出していた俺の返事は……言葉ではなく態度で返って来た。
衝動的……かつ、刹那的に……キリは俺の胸元に飛び込んで来たんだ。
もはや、甘えたい盛りの幼女の様に、キリは俺の胸元にやって来ては……子猫と見間違う勢いで頬を擦り寄せて来た。
「はぁうぅぅ……イリだぁ……ほ、本当にいた……ふぇぇっ……っ!」
そして、いきなり泣いて来やがったっ!
な、何だよ、この展開わぁっ⁉︎
俺は、予想外かつ、恐ろしいまでの急展開を前に、頭がついて行けなくなってしまった。
……って言うか? だ?
「な、なんで、キリがこんな所に?」
余りにも意味不明と言うか……一番良く分からない部分を、キリに尋ねてみせる。
「……私も良く分からない……分からないけど、昨日の夜に小人の様な女の子が、私に『ここに来れば、イリに逢えるよ?』って、教えてくれたの」
……へぇ〜。
そいつは、何処の小人かねぇ?
ちょいと、その小人と話しをしたくて仕方ないのだが?
どう言う理屈なのかは知らないが……どうやら、夢の中では小人ウルズの姿を見る事が出来るらしい。
マァサさんや俺……あ、後は賞金稼ぎ組合のジーさんとかの様に、小人ウルズを見る事が出来る人間ではなかったとしても、意思の疎通は可能だったと言う訳だ。
……尤も、それが夢の世界となれば、普通は『変な夢』で終わる様な話しではあるんだけどな?
しかしながら、キリは夢の中に出て来たのだろう、小人ウルズの言葉を信じて、こんな所まで来てしまったのだろう。
小人ウルズは何がしたいのやら……?
恐らく、俺が困る姿でも拝んで、楽しんでいるんじゃないだろうか?
……ふと、俺の中に負の感情が大きく膨らんでいた頃、
「やっぱり……私……イリと離れるのなんて……無理! 二日もイリと離れて分かった……寂しいの……不安なの……近くにいてくれないと、悲しくなるの!」
激情そのままに、俺へと叫ぶキリの姿があった。
………。
……参った。
どうして、こんなにも男心を大きく激しく揺すぶってくれる様な台詞をナチュラルに吐き出してくれちゃうんだろうね? 俺の母親はっ⁉︎




