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母親と言う恋人【22】

『いや、イリさんよ? 普通に考えよう? いくら距離があるからと言っても、ナガオとニイガはそこまで離れてないよ? 特になんの障害物もない空を時速百キロ程度で移動する事が出来たのなら、普通に一時間も掛からないで着くよ? 何なら三十分も掛からないんじゃないのかな?』


「いや、だけど……本当に時間がないんだろ?」


『それはそうだけど……三十分でも問題はないと言うか、私としてはその程度の時間を掛けてくれた方が、有難ありがたい訳で』


 ……それも、予定調和なんだろうか?

 本当に、妙な所で、変な制約みたいな物が出て来るな……。


『それに、多分もう少しぐらいなら早く飛べると思う……時速百キロなら、その倍程度かな? 下手すると三倍程度までなら出せるかも?』


「……は?」


 どうしてそうなる?……ん? いや、待て?


「もしかして、さっき俺に掛けた魔法みたいな奴か?」


『実はそう。さっき、私が魔力を使って光の様な物を出して、それをイリに向けて放射したよね? 実は、魔力上昇の効果もあるんだよ』


 ……ほうほう。

 魔力上昇の効果『も』あるんだな?


 つまり、別の効果もある訳で……。


 他にどんな効果があるのか気になった俺だが……その効果を聞く事はなかった。

 どうせ問い掛けてもはぐらかされるだけだろうし。

 聞いたら、無駄にモチベーションを削がれる様な、トンデモ効果だったりする可能性も否定出来ないからな!

 俺は、俺の精神に優しい選択肢を取った。


 ともかく、それは嬉しい誤算だ。


 時速が三倍となれば……箒運輪の魔女が乗っている箒と同じ程度のスピードが出ると言う事だ。


 余談になるが、箒運輪と言うのは……値段が無駄に高い物の、指定された荷物を何処よりもスピーディーに届ける運送屋だ。

 基本的に魔女がスタッフをしており『運輪』とか言う名前のクセに、車輪を全く使っていないと言う……社名からしておかしな運送屋ではあるが、早さと着実性だけを取れば世界屈指の運送屋と言える。


 俺的には、結構愛用したい運送屋なのだが……嫁のキイロが運賃をケチる傾向にある為、最近ではあんまり利用していない。


 ……って! また脱線してるなっ!

 だから、急いでるんだよ、俺!

 本気で、俺は馬鹿なんじゃないのかっ⁉︎


 ………。


 と、ともかく!


 俺は、男の状態で空を飛んだ。


 そこから高度を上げ……グングンとスピードも上げて行く。


 ……おお! マジだ!


 女の時と比較したらドン亀と表現しても過言ではない速度ではあったが、男の俺が出したスピードでは自己最高速を余裕でぶっちぎっていた。


 何だか良く分からないが……これはスゲー!

 この速度なら……十分……いや、五分程度でニイガに着くぞ!


 まるで、自分が飛竜にでもなった様な気持ちになっていた俺は、そのまま気分良く高速滑空を続けていると……あっという間にニイガの街が見えて来る。


「……ふむ、なるほど?」


 ニイガの街にやって来た辺りで……俺は気付いた。

 ニイガ城から、不穏なエナジーが発生している事に。


 エナジー量からして……コイツがラスダットで間違いないだろう。

  

「ハンッ……コイツは都合が良い」


 滑空を続けながら、俺はニッ! と口元を緩める。

 探す手間が省けて結構な話だ!……そう、思わずにはいられなかった。


 エナジー量は、以前に会った時よりも一回り程度大きくなっていやがるな?

 そう考えるのなら、奴が捨て台詞の様に言っていた台詞も理解出来る。


 確かに、完全体とやらは、それなりのパワーアップを果たしているな?……と。


 しかし、悪いな?

 この俺は、お前と同程度のエナジーを持つ連中を相手に、命懸けの喧嘩をしまくっている、プロの喧嘩屋なんだよ!


 賞金稼ぎ……とか言う、何だか地味に格好付けた名前で呼んではいるが……所詮は悪党の喧嘩なのさ。

 

 ……そう。


 狩られる方も……狩る方もな!


「クッソ雑魚エナジーしかないってのに、デカイつらしやがるぜ……まぁ、良い! この俺が、テメェの鼻っ柱を叩き折ってやろうじゃねーか!」


 大した実力もないのに、さも自分は最強だとのぼせ上がる……天狗の鼻っ柱をな!


 ニイガの街が見えて間もなく、俺はニイガ城の前までやって来る。

 このまま王宮に入ろうとも思ったが……空から滑空魔法グリードで入るのは、余り得策ではない。


 ニイガ城の周囲に空から侵入しようとすると、強烈な魔導防壁に弾かれる。

 まぁ……ニイガの最高権力が集まった、特殊な建物がニイガ城には集まっているからな?

 魔導大国ニイガだけに、その魔導防壁はかなりの堅牢さを誇っているんだ。


 女の時であれば簡単に防壁を突破する事だって可能ではあるのだが……ここもまた、問題がある。


 強引に力で防壁を突破すると言う事は、侵入者と勘違いされてしまう。

 実際に、ニイガ王国へと許可を取っている訳でもないから……ある意味で、侵入者扱いされても仕方のない部分があるのだが……その結果、無駄にニイガ城の兵士に警戒される、と言う寸法だ。


 あるいは、攻撃されてしまう可能性だってある。


 ……つまるに? ここは静かに入る事が、とても大事になる訳だ。

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