母親と言う恋人【17】
「……あ、あのぅ……私、お邪魔だったかしら?」
そこから、オドオドした顔になってゴトーさんは答えた。
……やべ。
普通に良い人じゃないかよ……。
ゴトーさんは悪くない。
受付嬢として、自分の持ち場にいただけだ。
強いて言うのなら、俺が勝手に口を滑らせそうな状態になっていただけであって……ゴトーさんに非などあろう筈がない。
しかし、そんな状態であっても、ゴトーさんはまるで自分が悪かったかの様な態度で、申し訳なさそうにオズオズと上目遣いのまま口を開いていた。
……くっ!
どうやら……俺は、やはり、生まれて来た時代を間違えて来てしまった様だぜ……っ!
「こんなに可愛いのに……性格も良いのに……どうして……三十年後には……くぅ……」
俺は心の底から悔しい気持ちで一杯になっていた。
「あの……三十年後が、どうかしました?」
「……へ?」
直後、小首を傾げながらも俺へと尋ねて来るゴトーさん!
はぐわ! し、しまったぁぁぁっっ!
ど、どどど……どうするっ⁉︎
い、いや、待て? 待つのだ、イリよ!
今のゴトーさんは、三十年後の事なんて知らない!
なんなら、俺が未来人だと言う事だって知らないんだ!
ここは、努めて冷静に……しっかりと平常心を保って、声を吐き出すんだ、俺!
「な、なんでもごじゃいません!」
………。
……噛んだ。
やべ、メチャクチャ格好悪いっっ!
「……良くわかりませんけど、今度時間があったら一緒に食事でもどうですか? ちょっと話したい事が出来ました」
ぐわぁぁっ!
目に影を落として言うゴトーさん!
やばい……なんつーか、彼女の闇部分を垣間見ているかの様な?……そんな気分で一杯だ!
なんて事だ……一見すると、淑やかさが溢れ出ている美人のおねーさんにしか見えないゴトーさんが……やっぱり、俺が知っているあのクッソババアとなる、その片鱗を既にこの時代には持っていたとは……っ!
くぅ……もしかしたら、ここで俺が色々と説き伏せれば……ゴトーさんが、あんなクッソババアになっていないかも知れない!
そ、そうだ……そうなれば、三十年後のゴトーさんは……ゴトーさんは。
心のキレーなババアになっている!
「って、どの道ババアじゃねーかぁぁぁっっ!」
俺は吠えた!
近くにいたゴトーさんが、ビクゥッ! ってなる勢いで吠えた!
そこから、ちょっとだけ距離を置くゴトーさんがいた。
きっと、俺をキモい男と認定したのだろう!
密かに、そう思われる様な事をしていたから、否定出来なかった!
果たして、
「ごめんなさい……やっぱり、食事の話はナシと言う事で」
ちょっとだけ顔を青くしていたゴトーさんは、及び腰になって俺へと声を吐き出していた。
……なんだろう?
特段、恋愛感情があった訳でもなんでもなかったけど……物凄い虚無感で一杯になってしまう俺がいたのだが?
「ほっほっほっ! そろそろ、本題の話をしても良いかの〜?」
そこからワンテンポ置いた所で、ジーさんが俺へと声を向ける。
同時に、奥の通路へと指を差してみせる。
俺の記憶通りであるのなら、その先にあるのは組合長室だ。
この建物が、俺の記憶と全て合致している所を加味するのであれば、間違いなくそこに組合長室があるんだろう。
「……分かった。話しを聞こうか」
俺は軽く相づちを打つ。
……つーか、このジーさんが組合長なんだな?
そう言えばゴトーさんも、このジーさんの事を『組合長』って呼んでた気がするなぁ……?
すると……俺も『ジーさん』ってのは止めて置いた方が良いんだろうか?
「なぁ、ジーさんよ? アンタが組合長なら……俺も、ボスと呼んだ方が良いか?」
「はぁ? 何を言っとる。イリ君が所属しておる組合は『ここではない』じゃろ? それなら、別にワシは上司と言う訳じゃない。ワシもイリ君が部下だとも思ってない。それなら別に『ジーさん』で構わんじゃろ?」
……ふぅ〜む。
このジーさん、結構フランクだな。
気に入ったぜ!
「そうか……なら、ジーさんで通させて貰おう」
「ほうじゃな? うんうん、それで良い。ワシも孫が出来たみたいで嬉しくもある」
……俺の爺さん気取りだったのかよ?
いや、まぁ……だけど、マグネの父親が俺のジーさんであるのなら、こっちのほーがまだマシか。
母方のジーさんは、義父ながらも良い父親だったらしいが……結局、この時代ですら他界している。
極論からして、俺が知っているのは父方のみとなるのだが……胸糞が悪くなるから、これ以上の事は考えない様にして置こう。
それよりも……だ?
「それじゃあ、組合長室に行こうか?」
気を取り直す形で、俺はジーさんへと答えた。
ジーさんはゆっくりと頷く。
こうして、俺はジーさんの職場にあたるのだろう組合長室へと招かれて行った。




