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母親と言う恋人【12】

「気になって来てみれば……イリ君! キミは、何処までキリちゃんを小馬鹿にすれば気が済むんだい?……キミにも事情があったかも知れない? それはそれで、事と次第によってはキリちゃんだって納得出来た話しだったかも知れない? 知れないと言うのに……どうして、キミはその様なハッキリと分かる嘘をついたんだ!」


 カウンター席から吹き飛び、床に倒れたイリに向かって、マグネは怒り心頭状態のまま叫んだ。


 間もなく、周囲がざわめく。

 マグネがいきなりイリを殴り、カウンターで吹き飛んでいた一連の状態を見て、他の客が驚いてこちらを注視し始めて来たからだ。


 そんな姿を見て、イリは『ああ、お騒がせして、すいません! すぐ、外に出ますんで!』なんて感じで頭をソッコーで下げてから、素早くお家計を済ませて外に出た。


 他方のマグネも……一つ間違えると衛兵を呼ばれる騒ぎになってしまうと言う事実に気付いて、周囲の人達に向かって『お騒がせして、誠に申し訳ありませんでした!』………と、思いきり律儀に頭を下げていた。

 その甲斐あってか? 喫茶店の店主も『まぁ、悪気はなかった事は認めるけど、今度からはやらないでね?』って感じの小言だけで、その場はどうにか収集を取り繕う。


 結果……半ば追い出される形で外に出てしまったイリは、


「……オイ、色男? お前、トミィさんはどうした? 彼女ほったらかして、こんな所に来るとか……どんな覗き趣味してんだよ?」


 苦々しい顔になってマグネへと悪態を吐いた。


 内心では、少しばかり焦っている。

 自分が未来人である事は、可能な限り話したいとは思わなかったからだ。


 率直に言うのなら、キリにだって言いたいとは思わない。

 極論からして、信じて貰えなかったので、言うだけ無駄な話しになってしまったのだが。


 更に言うのなら、


「トミィさんは、偶然用事が出来て、こっちには来られなかったんだ……でも、良かったよ。こんな情景を妹想いのトミィさんが見たら、絶対に発狂している……イリ君、本当にキミってヤツは……やって良い事と悪い事の区別も出来ないのか? キリさんはキミの事を本気で好きになってたんだぞ?」


 どうやら、マグネも信用していない模様だ。


 今の今まで気付く事が出来なかったが……恐らく、近くの席でさりげなくイリとキリの会話を聞いていた筈だ。


 その上で行くのなら……やはり、マグネもイリが未来人であると言う事実を全く信用していない。

 むしろ、架空の嫁がいると言う事を、さも本当に現実として実在する人物であるかの様な言い回しで述べた挙句『俺は未来に所帯を持っているから、お前とは付き合えない』とか言う、精神疾患でも患っているんじゃないのかな? と言いたくなる様な別れ文句まで言っている様に感じたのだろう。


 イリが未来人であると言う事の証明が一切出来ない以上……こう思われても仕方ない話しだった。


 そして、その事実にもっと早く気付くべきだったかも知れない……と、イリは少し反省してみせる。


 それらを総合的に考えた上で、イリは答えた。


「俺が本当の事を言っていないと言う証明もないのに、どうしてそんな口が聞ける? ええ? 父上様よ?」


「……はぁ?」


「だから、これが俺なりの答えであり、証明だ……良いか? 俺の名前はイリ・ジウムだ? どうしてこの名前か分かるか? いいや、今のお前なら分からないだろう……つまり、そう言う事だ」


 そこまで答えたイリは、ゆっくりと歩き出した。


「……待て、イリ君! まだ話しは終わってないぞ!」


 間もなく、マグネは歩き出すイリを追い掛ける形で小走りに近付いたが、


「……答えはそこだ。それ以上の話しはねぇよ」


 イリは思いきりマグネを睨み付けた。


「……っ!」


 マグネの背筋に、今まで感じた事のない悪寒が突き抜ける。


 まるで、蛇に睨まれた蛙であったかの様な?

 そんな……本能から来る恐怖の様な物を感じた。


 結果……何もする事も出来ず……突発的にやって来た本能からの恐怖に、思わず立ち尽くしてしまう。


 同時に気付いた。


 この男は……何者だ?


 単なる武器屋のスタッフ……自分と一緒に働いている、住み込みの新人。


 マグネが知っている全てが、これだ。


 だが、この瞬間、マグネは確信した。


 この男は……そんなチンケな所でまとまっている様な人間ではない……と。


「イリ君……キミは一体……?」


「ああ? キリとの話しを盗み聞きしてたんじゃないのか? 俺は、ニイガ王家の没落を食い止める為に、未来からやって来た未来人……それ以上の言葉なんぞ持ち合わせてねーんだ!」


 おののきながらも、辛うじて口にしたマグネの問いに、イリは面倒臭そうな口調で答えた。


 この時のイリは地味にやさぐれていた。

 どうでも良い……そうとさえ思っていた。


 ついでに言うのなら『未来人』と述べても、信用さえしてくれないだろう……そうと踏んでの台詞でもあった。

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