兄弟たちの記憶
シュヴァッツ・シュラーフミッテルの王、ベルンハルト・カスパー・エーレンフリートは公明正大な人だった。
いや、正しくは人ではないらしいけれど。
ここでの生活に慣れるために手っ取り早いのは、他人と関わることだと父は言う。
思えば今まで関わったことのある人は、母と父と森の外から来る人数人、あとは行商人がたまにってくらいだった。
それではいけないと、私の家族になる人たちを紹介された。
「クラウディアとは結局一緒になれなかったが、彼女を正妃として迎えるつもりだった。長らく空いた正妃の座がやっと埋まると思っていたら、家臣からは反対されるし、クラウディア自身がこちらの世界に耐えられないし散々だった。
だからね、家臣たちから妾だけは大量に押し付けられている。そのうち子供が出来たのは二人だけだったが。」
そんな前置きとともに父が呼んだ二人は、とても見目麗しい男女だった。
「左の怖い顔した男がルートヴィヒ、銀狼族の族長の娘が母だ。私に似た顔をそんなにしかめないで欲しいがな。
右のまあ…育ちすぎてる女がゾフィ。羊みたいな角があるが、あれは悪魔族の証でね。サキュバスやインキュバスの類いだ。」
なんというか…正直な人なのだ、お父様は。
たしかにルートヴィヒお兄さまはお父様そっくりで、その獣の耳がなければちょっと若くしたお父様だった。顔はものすごいしかめっ面で、私を良く思っていないのが解る。
一方のゾフィお姉さまは、多分なんと表現しようか迷ったのであろう豊満すぎる胸に、細くくびれた腰をもち、紅い唇が魅惑的な女性だった。興味津々、といった感じでこちらをみている。
お父様にうながされて、昔お母さまに教わったやり方で挨拶をする。
「はじめてお目にかかります、お兄さま、お姉さま。
魔女クラウディア・オティーリエの娘、レーナ・マルゴット・エーレンフリートと申します。」
エーレンフリートは父の子であることを示すために、使えと言われていた。
エーレンフリートを名乗ったことで、お兄さまの眉間にさらに皺がよった気がした。
「私を兄と呼びますか、レーナ様。変わったお方だ。」
「ルーイ!」
侮蔑を込めたような声が耳に届いて、直後にお父様の咎める声が聞こえた。
「気軽にルーイとお呼びくださいレーナ様。
私は妾の子、あなたは正妃の娘なのです。第一王子といえど、あなたに立場は劣ります。」
それにしてもこの人は、王の前でこんなに明け透けな態度をとって大丈夫なんだろうか、とその時は本気で心配した。
あとからきいた話では、この時点で二人とも既に王位継承権を破棄していたらしい。
お父様は名前だけでもとお母さまを正妃としたそうだ。
「お兄さまったら、本当に照れちゃって。
レーナ様、申し訳ございません。兄は少々コミュニケーション能力に問題がありますの。レーナ様があまりに美少女なうえに、お兄さまなんて呼ばれたから喜んでるんですわ。表情にださないようにさらに顔をしかめてるんですのよ。素直じゃないんだから。」
……ゾフィお姉さまは更に上をいく方だったようです。
お姉さまが口を開くたびにお兄さまの眉間の皺が増えていって、最終的にはこれでもかってくらいになっていた。
この二人は昔からこんな感じだったようで、今でもゾフィお姉さまは時々こうしてお兄さまをからかう。時と場所を選ばない人だから怖い。
「それにしても、レーナ様にお姉さまって呼ばれるなんて…わたくし感激ですわ!
昔から可愛い妹が欲しくてたまりませんでしたの!こんな無口で無愛想な男の兄弟なんかじゃなくて、可愛くてうぶな妹が!」
恍惚とした顔のゾフィお姉さまは本当に怖かった。
異性よりも同性である女性の方が好きらしく、恋愛感情とまではいかないものの、「男は食べ物だから愛でる対象ではない」という独自の考えを持っていらっしゃる。
なんだろう。淫魔ならではというか。
言い方は悪いが、とにかく変な人たちだと思った。
個性は強いけれど、お父様の庇護下にあるかぎりは友好的だろう、と思った。
今考えると、とんでもなく簡単には人を信じていたと思う。
お姉さまの言ったように、お兄さまはちょっと厳しいけれど思いやりある方だったし、お姉さま自身もとても可愛がってくださった。
良い家族に恵まれて、私は果報者だ。




