7.
3日が過ぎ、王妃様と謁見の為、登城いたしました。
本日は、どちらでお会いしていただけるのでしょうか。
馬車寄せに到着しますと、下女1人と護衛騎士1人が待っておりました。
扉が開き、手を差し伸べてくれたのは下女の方でした。
「……ありがとう」
軽く手を乗せ、力が入らないように気を付けませんとね。
「エリザベート様、私は王妃様の下女のクラリス・シュミットです。シュミット男爵家の次女です。体は鍛えておりますので、体重をかけても大丈夫です」
あら、シュミット男爵家の方ですか。でしたら、家族全員お強いですわね。屈強な武術に長けた家門ですもの。
「ありがとう。甘えさせていただくわ」
とは言え、念のため完全に体重は乗せず。でも、女性だと少しふらつく位に。
でも、びくともしませんわね。
「ふふ。お気遣いいただき、ありがとうございます」
クラリスはこっそりとそんなことを耳打ちしてまいりました。
なかなか、できる方のようですわ。
「こちらの護衛は弟のダーニエルです。以後、お見知りおきを」
クラリスとダーニエルはそう言って膝をついて挨拶をしてまいりました。
そう……。これから長い付き合いになる、ということね。
2人は、どういった人たちでしょう……。
しっかりと見極めなければなりませんわ。
「エリザベート様、本日は温室へ向かいます」
温室、ね。庭を通らなくてもいいということね。
「わかりました。侍女のヤスミンも一緒にいいでしょうか」
これからのことなので、ヤスミンも話を聞いて欲しい。でも、ヤスミンは平民です。断られるでしょうか。
ちらりとクラリスの顔を見ます。
「勿論でございます。王妃様からも事前に了承いただきました」
わたくしは、後ろに控えているヤスミンに目配せをいたしました。
ヤスミンも心得たとばかり首肯いたしております。
本日のヤスミンはとてもしおらしいですわね。
わたくしたちはクラリス達の後について行き、王妃様専用の温室に向かいました。
扉を開けてもらい、中へと進みます。
「エリザベート、よく来てくれましたね」
カトリーン様は本日も春の陽だまりのような笑顔を向けてくださいます。
「至高なる国母のカトリーン様にご挨拶申し上げます。エリザベート・オーエンツォが参りました」
本日も、丁寧にカーテシーをして挨拶いたします。
「エリザベート、次回からは堅苦しい挨拶は辞めてね」
少し困ったお顔でそのようなことを申されます。が、そう言う訳にもいきませんわ。
「かしこまりました。王妃様のご意志のままに」
一応は了承の言葉を述べますけど。
「今日は、あの女はいませんからね。気遣い無用です」
パメーラ様は、おられないのですね。願ったりですわ。
「それで、今日はどうしたのかしら」
カトリーン様の笑顔が、すん……と消えていかれました。
「フランクリン様との、婚約の件です」
わたくしは、席に座っていいと言われておりませんので、立ったまま謁見の要件を告げました。
真っすぐに、カトリーン様の目を見て。
カトリーン様は、わたくしの目をずっとそらさずに見ております。
何も言葉がなく、時間が流れていきます。
隣ではクラリス様が音もなくお茶の用意をしておられます。
流石ですわね。
クラリス様が茶器をテーブルに乗せた後、おもむろに王妃様が口を開きました。
「エリザベート、座ってちょうだい。話しは長くなりますから」
カトリーン様のお顔からは、完全に笑顔が消えてしまいました。
クラリス様入れてくださったお茶からは、あの甘い香りは致しておりません。
その代わり、最近嗅ぎ慣れてまいりました独特な香りが微かにいたします。
わたくしは、ほんの少しだけ、口角が上がってしまいました。
「はい。失礼いたします」
ヤスミンに椅子を引いてもらい、ゆっくりと腰かけました。
そして、もう1度カトリーン様の目を見つめます。
今度は同じ目線の高さで――
さて……、王妃様。
わたくしと向き合っていただきますわよ。




