6.
王妃様へ謁見の願いを届け、3日後にお時間をいただけることになりました。
それまでの間、どういたしましょうか……。
謁見まで時間がありますので、少しそわそわしてしまい部屋をうろついておりますと、ヤスミンが薬草茶を入れてくれました。落ち着きがなく淑女として恥ずかしいと思い、バルコニーでゆっくりと香りを楽しんでおります。
「……臭い、わね」
Chamäleonpflanze(カメレオン草)と言われるもので、東方では“ドクダミ草”という名前だそうです。とても、いい香りだとは言えませんわ。
「デトックスにいいのだそうです」
ヤスミンは、得意げに出っ張りのない胸を張って言っております。
「……味は嫌いではないわ。この薬草は手に入れるのは難しかったのではないの
?」
市井のことを今までよく知りませんでしたので、この機会にいろいろと聞いてみることにいたします。
「これですか?その辺に自生していますよ。とても強いので、荒れ地でもよく見かけます」
なんと!ヤスミンが指さす我が家の敷地の端にもあるようです!
「あら、意外にかわいい白い花を咲かせるのね」
葉はハートの形で可愛らしいですが、色は深緑で毒々しい色合いです。
その中に白い可憐な花らしきものが見えております。
「お嬢様、それは苞葉と言いまして、葉の一種です。花はその上の小さな粒粒です。花弁などが無いので花には見えませんがね」
あの白い部分は、花ではないのですね……。花が粒粒……。遠目で見ていてよかったですわ……。
「……」
「お嬢様は、集合体が苦手ですから、見ない方がいいと思います」
ヤスミン、そう言うことはもっと早くに言うべきではないでしょうか。
それにしても、なぜそのようなことを知っているのでしょう。
メイドの仲間が教えてくれたのでしょうか。
こんなに詳しく……。
この薬草茶を飲んでいると、ふと昔のことを思い出しました。
4人で遊んでいるとき、フィーが野草のことを話しておりました。
『この花、かわいいね!姉さま見て!』
ルーイスが紫色の変わった形の花を摘もうと手を伸ばしました。
『ルーイス!触っては駄目だ!それ、猛毒だから!』
フィーが急いでルーイスの体を後ろに引き、なんとか接触せずに済みました。
ルーイスは青ざめた顔をした後、怖くなり大泣きをしております。
『Eisenhutと言って、花も茎も根も、全部が猛毒なんだ。野草には薬にも毒にもなるものがあるから気を付けて』
『アイゼンフートって、鉄の兜?ですか?』
『そうだよ、リズ。花の形が兜に似ているからそう言われているんだよ。東方では“トリカブト”と言うんだ。舞を踊る人の被っている兜に似ているからそんな名前を付けたと言われているみたいだよ』
『そうなのですね。フィーはなんでも知っているのですね』
『あ~。これは、気になっていて本で読んだんだ』
『気になって?草花が?それとも毒が、ですか?』
『そう、だね。リズを守りたいから、少し毒のことを……、ね』
『ありがとう!フィー』
わたくしは、大事にされていると感じ、喜んでフィーに抱き着きました。
カップを持ち上げ、薬草茶に写る自身の顔をぼんやりと見つめます。昔も野草について話しておりましたわね。
あの時、なぜフィーは毒について調べていたのでしょう……。
ゆっくりとカップに口を付け、軽く傾けます。一口、喉をお茶が滑り落ち、わたくしの体へと染みていきます。
先日の毒は、もう体には残っていないといいのですが、念には念を入れてと言います。
しっかりとデトックスすることにいたしましょう。
「ヤスミン、新しい帳面を持ってきてもらえるかしら」
わたくしは、おもむろにお願いをいたしました。
「帳面、ですか?あ、インクとペンもですね」
ヤスミンはよく気が付きます。わたくしのしたいことを汲んでくれます。
暫くした後、ヤスミンが紐でばらけない様に纏めてある紙の束を持ってきてくれました。
実は先ほど、わたくしはもう一つ思い出したことがあるのです。
それは、フィーが言っていたこと。
『リズ、気になったことは、何かに書き留めておくといいよ。リズの中で引っかかること。いつか、役に立つと思うんだ』
なぜ、フィーはそんなことを言ったのでしょうか。
役に立つ?
何に?
なぜ?
よくわかりませんが、後に読み返した際にわかることもあるかもしれません。
わたくしは、手持ち無沙汰にしていた時間を、
“思い出したこと”と“気になること”を書き足すことにいたしました。




