5.
ルーイスという味方を得ましたが、わたくしたちだけでは負け戦となることが目に見えております。
「さて、わたくしたちと共に戦っていただける方々が必要ですわね……」
ヤスミンに新しくお茶を入れてもらい口にします。
やはり、ヤスミンは完璧ですね。カモミールとラベンダーの薬草茶を入れてくれました。
暫くは、紅茶は飲みたくありませんわ。
「姉さま、フィリクス様たちに連絡を取りましょう。きっと、手を貸してくれます」
ルーイス。それはわたくしに都合がよすぎるというものですわ。
婚約も解消してしまったのです。
そんなこと、あり得ないのです。
「フィリクス様に迷惑を掛けられません。わたくしたちの両親は当てにできませんし……」
「両親は、無理だろうね。だったら、お爺様とお婆様を頼りましょう」
そうですね……、祖父母は侯爵家ですしね。国を出ることも1つの手として考えてもいいかもしれません。その際は、外交に長けた祖父に助けてもらいたいところです。
ですが、侯爵という立場の祖父はカトリーン様を裏切ることは致しません。
なので、答えは”否”です。
「ルーイス、それはできませんわ。――カトリーン様に話が筒抜けになってしまいます」
わたくしは、もう一口お茶を飲みながら思考を巡らせました。
国外逃亡はできないでしょう。すぐに追手につかまるとしか思えませんし。
王家を敵に回してでもわたくしの味方になる人なんて……、フィーしか思いつきませんわ。
王命に逆らい続けますと、家族に危害が及ぶでしょうし……。
では、王子と婚姻を結ぶしかない、ということかしらね。
「道は、1つしか残っていませんわね。……王妃様にもう1度、お会いします」
「姉さま!まさか王子と!」
「ええ。仕方ありませんわ。それしか家族を守る手立てが思いつきませんでしたもの」
今は、ですけどね。
わたくしはあえて笑って答えました。
「姉さま……」
泣きそうな顔をしないでちょうだい、ルーイス。
わたくし1人が我慢すればいいだけのことなのです。
これが、わたくしの運命なのでしょう。
暫く姉弟でしんみりと話をしてから自室に戻り、チェストから1つ箱を取り出しました。
カチリと箱を開けますと軽やかな音色が奏でられます。
外国の“オルゴール”というものだそうです。
フィーからいただいた、わたくしの宝物です。
オルゴールの中の、ビロードの台座の上に鎮座する指輪を一撫でしました。
「フィー……。貴方に、会いたいわ」
フィリクス様からいただいた、晴れた空色の“スカイブルートパーズ”の指輪。
そっと持ち上げ、左中指に嵌めます。
昨年、フィーがわたくしに跪き、この指輪と共にプロポーズをしてくださいました。
既に婚約者ですのに、気持ちを伝えたいと言って。
リヒシュ公国では婚約の際は腕輪を送り合います。
わたくしたちも幼いころから腕輪を付けております。
勿論、それで満足しておりましたが、フィーは指輪を捧げてくれました。
自信の瞳の色の石を填めた指輪を――。
「そう言えば、石言葉は“誠実”でしたわね」
皮肉なものです。
誠実だなんて。
わたくしは、しばらく指輪を眺めた後、箱に戻しました。
箱を愛おしくなで、ギュッと胸に抱きしめ、フィーのことを想いました。
十分に抱きしめた後、
箱に錠前をガチャリとかけ
――引き出しの奥に仕舞いました。




