77.
翌日、協定の締結をする運びとなり、厳重な警備が敷かれました。
厳重な警備と申しましても、普通のものではございません。
鼠の1匹も通さない……のではなく、あえて迎え入れ、囲い込むという警備です。
「下女と下男に扮した騎士たちを出入りできる場所に配置し、追い込むルートへの誘導を。誘導先は1か所。皆、心して動け」
ユーリウス宰相が各持ち場の騎士に声を掛けます。
「「「かしこまりました」」」
騎士たちは闘志に燃えた顔をしております。
「亡くなった同志たちの報復を、絶対に果たそう!」
フィーがさらに発破をかけます。
「「「必ずや!」」」
あらあら、闘志を燃やし過ぎですわね。
「皆様、そのようなお顔でしたら、鼠どもに感づかれてしまいますわ。あくまでも下女であり下男ですわ。お忘れないように」
わたくしは、鎮静役に徹します。
「あ……、そうでした」
「思わず憎き奴らだと思うばかりに……」
「逃げられては元も子もありませんね……」
皆、落ち込まなくてよろしくてよ。
「すべての鼠が捕縛されましたら尋問を行い、その後はお好きになさってよいと伺っております。頼りにしております」
皆の顔つきが変わりました。
わたくしの言葉に、皆が自分たちの役割を思い出してくれたと信じておりますわ。
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とうとう締結の場に多くの人を迎え入れました。
他国の重鎮方が集まり、その時を今かと待ち受けております。
そんな中、やはり鼠がやって参りました。
南国の特徴である少し赤褐色のある肌の者が数名。商人風情の成りです。
貴族風の女性も数名。流石に肌はおしろいで隠しているようですわね。
騎士たちも気が付いたようで、それぞれ誘導していっております。
順調な運びですわ。
ですが、わたくしたちの1番の目的の人物が見えません。
どうしたのでしょうか――。
「公国王とエリザベート王妃、門を警備する者からの伝達では、もう王城に入ってくる馬車はないとのことです」
ユーリウス宰相は少し焦りが顔に出ております。
「宰相、水場専用の川に面した入り口は?」
フィーが問います。
「そちらも閉鎖しております。入り口に板を置き、更に重石で蓋をしておりますので侵入は難しいかと」
「……それでしたら、もうすでに会場近くに紛れているのかもしれませんわね」
ここまで警備をしておりますのに、全く姿が見えないものおかしいですわ。
何か、見落としているのでしょうか。
その後もパメーラの姿は見えず、締結は滞りなく終わりました。
「ここに、リヒシュタッド準王国が誕生したことを告げる」
大国王からの宣言があり、会場は大いに沸きました。
とても喜ばしいことです。
準王国となりますと、連合国同盟として納める金額が少し増えますが発言権と関税への干渉が出来ます。
これにより、国の資源が着実に増えてまいります。
わたくしは壇上にいるフィーをじっと見つめました。
公国として長い年月を民からの税金でなんとか賄っておりました。
公国内の経済だけでは公国の予算も厳しく、飢饉や災害に見舞われると立ち行かなくなっておりました。
ですが、入国の際の関税をこちらが権限を持つことで外からの収入が増えるのです。
「これで、民の生活が豊かになりますわ……」
カトリーン様が懸命に守ってこられたこの国を、平和で憂いの少ない国へと導けれる可能性をここに見ました。
「それでは、この締結の祝いの祝杯を」
フィーが声を掛けますと、脇に控えておりました下女たちが銀トレーに杯とワインを携えてきました。
杯はお三方の目の前に置かれ、ワインの入ったピッチャーを持った下女が注いでいきます。
「……」
なんでしょう……。
変な違和感があります。
「エリザベート王妃様。あの下女は公国の人間ではないのですね」
ヤスミンが小声で話しかけてまいりました。
「いいえ、そんな筈はないのです。公国の下女にしているはずですわ」
わたくしはこの会場に配置されております者たちのリストを思い出して言いました。
「え~。そうなんですね……。では、あの下女は粗相してしまったのですね。あのような注ぎ方を公国の者はしませんからね」
「っ!!!」
わたくしは、急ぎ壇上に駆け上がりました。
お三方は杯を持ち上げ、笑みを浮かべながら口にしようとしております。
南国の王は、毒に耐性をお持ちと聞いております。
少しの毒ならおおよそ問題ないでしょう。
大国王とフィーに関しても多少の毒耐性はあるにせよ、そこまでではないはず――。
わたくしは、フィーと大国王の杯を取り上げました。
大国王は驚かれ、次の瞬間訝し気な顔をされました。
ええ……、淑女としては失格ですわね。
フィーも驚いた顔をし、次の瞬間とても辛そうな顔をいたしました。
「リズ。だめだ……」
ええ、淑女らしくなくて、ごめんなさい。
でもね、わたくしは皆を守りたいのですわ。
「貴方、後のことはお任せいたしますわ」
わたくしは、にっこりと笑い、2つの杯のワインを飲み干しました。
そして、脇に置かれたピッチャーを払い落とし、南国王に申し上げました。
「すぐに解毒薬をお飲みくださいな」
南国王も驚かれ、懐に仕舞われておりました小瓶の液体を服用いたしました。
「リズ……」
ふふ……。
よかったですわ。
皆の安全を守れましたし、締結の杯も捨てずに済みました。
わたくしの命で平和を保つことが出来るなら、なんて言うことはございませんわね。
会場に集まった方々に微笑みながらカーテシーを行い、すぐに脇へと戻ります。
皆様の視線から隠れる場所に退いた瞬間、焼けるような喉の痛みと腹痛が沸き起こりました
そして、吐き気に見舞われ、大量に吐血してしまいました。
ごめんなさい。
綺麗なドレスでしたのに、血に染まってしまいましたわ。
本当に、ごめんなさいね。
そう思いながらわたくしは、意識を無くしてしまいました。




