76.
戴冠式の翌日、公国王と大国王と南国の王の会談の場が持たれました。
長いようで短いその会談は、公国にとって大きな恩恵をもたらすものとなりました。
「リズ。急なのだが、明日この公国で3国協定の締結を行う。場を取り仕切ってくれ」
フィーが申し訳なさそうに申します。
「あら、本当に急ですわね。協定の締結、ですか……。かしこまりました。わたくし、すぐに準備に取り掛かりますので御前を失礼いたしますわ」
そう言って執務室を後にいたしました。
無理をさせた当人も、大きなため息をついて執務室を後にしたようです。
後になってユーリウス様から報告を受けることになりました。
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「エリザベート王妃、陛下は夕餉に遅れると連絡がありました」
ユーリウス様は、フィーとフランクリン様が入れ替わる日からずっと陛下と呼んでおります。
「あら、どちらへ行かれたのかしら」
北の棟かしらね。
「それは……、その――」
北の棟ね。
「本日は、お戻りになるのかしらね……」
北の棟なら日を跨ぐことはありません。軽食を用意いたしましょうか。
「いえ……。お戻りは明日になると……」
はぁ……
わたくしは大きなため息をつきました。
新婚なのに、朝帰りですか。
いいご身分ですこと。
これは、浮気かしら?
ええ、浮気ですわよね。
協定の締結の準備に追われておるわたくしを放って。
そちらがその気ならこちらだって――。
「……もうよろしくてよ。お下がりになって。フューゲル侯爵夫人、旦那様は王城にまだおられるかしら?」
ユーリウス様には下がって仕事をしてもらいましょう。
そして、わたくしはわたくしでしたいことをいたします。
「ええ、まだおりますが……」
夫人は少し困惑気味に答えております。
「なら、本日は離宮で気の置けないものだけで晩餐を!ヤスミン!料理長に声を掛けてきなさい!」
楽しい晩餐をいたしますわ!
「かしこまりました!エリザベート王妃様、場所は……」
ヤスミンは解っていながら聞いてきます。
「勿論、離宮の食堂ですわ!」
そうして、離宮の食堂、使用人が使っており大食堂で使用人たちも一緒に宴会をいたしましたの!
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俺は、とある屋敷に招かれた。
「お待ちしておりました。お2人ともお待ちです」
肌の色が少し褐色めいた侍従が案内をする。
「執務が立て込んでいた。申し訳ない」
北の棟で、あの女に話をしていて遅くなった。
「お忙しいですからね、公国王は」
この侍従、嫌みを言ってきやがったな。
「……」
挑発には乗らず、俺はだんまりを決め込んだ。
程なくして、大きな扉の部屋に案内をされた。
扉の向こうでは、大国王と南国王がもうすでに酒を交わし、顔が赤らんでいた。
どれだけのんだんだ、この爺たちは。
「……遅くなりました」
この中で一番の若輩者だし、国の大きさも一番小さい。
しっかりと弁えているから、頭を垂れた。
「待ったぞ!ほら、ここに座れ!」
「本当に待ちくたびれたわい。早くこちらへ来い、フィリクス」
ああ……。バレてますよね。
「……一応、フランクリンとしてこちらに来ておりますが……」
部屋を見渡した。
このことを漏らされると、今はまずい。
公国の基盤が崩れることは、避けたい。
「よいよい!ここにいるものは口が堅い。大国王の側近になる時に契約を交わしておる」
大国の方は問題ないか。
「貴国もか。我が国の従者もな。まあ、今いるのは息子と娘のみだ。心配するな」
……ここに連れてきた侍従は、息子かよ!
「そなたには我が国のものが迷惑をかけた。申し訳ない。そなたらを襲った奴らは我が国のものであろう?死者も出たと聞く……。こちらから詫びのものを送らせてくれ」
南国の王が、頭を下げた。
そして、その子らも頭を下げた。
正直、許せるのもではない。
フランクリンの足の腱を切り、従者の何人かは命を落とした。
俺自身、片目を失ったのだ。
「……」
わかりましたとは、言えなかった。
言うべきではないと思った。
だからと言って、許せないとも言えなかった。
「お主の気持ちもよくわかる。だが、今ここで袂を違えば戦になろう。それこそ、多くに民が命を落とす。ここは大国王の俺の顔を立てて落としどころを決めようではないか」
大国王の声は低く、穏やかだった。
軽くとらえているわけではない。
だけど、戦になれば、公国が潰える未来が見える。
それを大国王も望んでいない。
「それでは、幾つか条件を飲んでいただきたい。」
落としどころを、どこまで飲んでくれるだろうか。
私利私欲ではない。
公国の未来のために、礎を何としても固めたい。
俺は、考え付く条件を話した。
大国王は眉間に皺を寄せた。
南国王も腕を組んで唸りだした。
さぁ、この条件飲んでくれるのか?
「よかろう。若人のその気概、嫌いではないぞ」
南国王は、不敵に笑った。
賭けともいえる条件を了承すると、俺が侍従だと勘違いした第1王子に指示を出し、その場で契約書を交わした。
「これで、貴国は公国ではなく、準王国だ。よいな、大国の王よ」
南国王が問う。
「よかろう、俺も認める」
大国の王が答えた。
明日の締結と共にこのことを伝えることとなる。
歴史が変わる瞬間だ――。




