73.
今後の動きを確認後、ダーニエルに大国へと使いに行ってもらいました。関所には南国の尖鋭たちがまだうろついていることでしょう。大国の宰相へと書簡が渡ったとしても、無事に帰れるかどうかもわかりません。それでも、ダーニエルは無事に帰ってくると疑うことはありません。
「エリザベート、戴冠式はどうするの?」
執務室の隣の小部屋に移動したわたくし達。おもむろに叔父様が問いかけてきます。
「延期にしたいところですが……、そうすると南国からそのことを問われ、摂政に持ち込まれないとも言えません……。隙を見せることが、今は怖いですわ」
「確かに。南国はあのパメーラが繋がっているようだものね。ユーリウス、この機会にフィリクスを王子に入れ替えるべきだわ。フランクリンは筋を切られて、今は歩けないでしょう。フィリクスは眼帯を着けるのだし、髪で顔を少し隠せばなんとかなるでしょう」
「そうだな……。フランクリン様はまだ目が覚めておられないし。ジェシカ、戴冠式の準備も手伝ってやってくれないか。今は人手が足りない」
「叔父様が手伝ってくださるならわたくしも助かります。お願いいたしますわ」
政には多くの手が必要なのですが、今はそれ以外にも人手が必要です。執務もまだ残っておりますので、耳まで仕事に浸かっている(日本語で言う“猫の手も借りたい”)状態ですわ。
フラウ・ジェシカは隣の執務室を扉の隙間から伺っております。
そして、わたくしに向き直り「仕方ないわね」と言って苦笑いを浮かべました。
その顔は、ほんの少し可愛らしく見えました。
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戴冠式までの日々は、それはもういくら時間があっても足りないくらいでした。
フィーは痛みに耐えながらも体を動かし、落ちた筋肉を取り戻そうと懸命に努力しておりました。政務もわたくしでは判断できないものは文字を読み上げて指示をいただきました。
フランクリン様も意識を戻し、お体を見て、医師から状況を伺って、――心を沈ませておりました。
1晩明けると、意を決しご自身からこの機会にフィーと入れ替わることを進言されました。体がもう少しよくなりましたら、神殿に身を寄せたいと大神官様にお願いをされておりました。そのお顔は、どこか憑き物が落ちたかのような晴れた表情をされておりました。
そして、大国に使いに行っておりましたダーニエルが戻って参りました。大国の宰相を携えて。
「ユーリウス、久しいな。此度は何と言ったらいいか……」
応接室に腰かけた大使が口を開きました。
「こちらまで赴いていただき、感謝する。それで、南国とのことは……」
ユーリウス様が前置きを省き問います。
「我らも正直困っている。使いのものが来て少し話を聞いた。気になって調べたら南国商人と繋がっている貴族がいることが判明した。入国はそ奴が手をまわしておったわ。秘密裡に処分した。だが、もう入ってきているものをすべては捕らえられていない。公国にすでに入って潜伏しているかと思われる」
大国の宰相様も行動が早く、できうることをされたようです。ですが、フィーたちを襲った男たちはまだ捕まえておりません。
「……エリザベート様、公国の貴族が匿っているかと。炙り出しますか?」
ユーリウス様がといかけてきました。
「勿論、そうしたいです。ですが、あの方は出てきませんわ。手のものが王城に紛れている可能性もあります。寝首を掻かれないように気を付けねばなりません」
わたくしは同席しているフィーとフランクリン様に視線をやりました。
お2人ともわたくしを見ております。
「ユーリウス宰相、今後のことを話さなければならないかと……」
わたくしは話を振りました。宰相はどうお考えかと。味方になってくれるのかと。
「……宰相閣下。少し込み入った話がある。大国の王に話すかどうかの判断は任せるが……」
ユーリウス様はわたくし達の顔を見ながら話しだしました。
「戴冠式は、日程を延期せずに執り行う。次期公国王は、表向きはフランクリン王子だが、実際はフィリクスがそれを担う」
「ん?表向きはフランクリン王子で?」
言っていることは解っているが、理解は追い付いていないという表情です。
「ああ、濁した言い方ではわかりにくいな。実は、本当の王子はフィリクスなんだ。だが、王子として広く認識があったのはフランクリンなので、フランクリンとしてフィリクスが次期公国王になる」
「……は?公国は血を慮っていただろう?それでいいのか?いや、王子が本当はフィリクスだったから、いいのか――」
なおも理解に苦しむ宰相閣下。
「“取り換え子”という言葉をご存じか?……そう言うことなのだよ。お恥ずかしい話だな」
「……はぁ――。相分かった。陛下には俺が話をする。首謀者は?」
「元妻のパメーラだ」
「はあ……。あの女、ろくでもないな。陛下にも伝えておく」
「頼む。あと、公国に媚薬が多く出回った。貴国も気を付けてくれ。それもパメーラが噛んでいる」
「クソ!最近変な薬が出回り始めたんだ。あの女の手のものがやったのか!俺は一旦帰国する。手配書も作って、各国にばらまくことにする」
そう言って、大国の宰相様はいそいそと帰国されました。
そして、パメーラを捕らえることが出来ないまま、戴冠式の日を迎えることとなりました――。




