69.
リヒシュタッド公国はそれほど大きな領土ではありません。もともと隣接する大国の1領土。公爵家でした。先の大戦での貢献により褒美をいただくことになった当時の公爵様は、公国として独立したいと願ったのが始まりです。怪我をしたお2人を搬送してきてくれるのに半日もかかりませんでした。
「王妃様!到着されました!」
その声と共にあわただしく怪我人が運ばれてきました。
先頭は勿論フィーとフランクリン様です。
「っ!」
わたくしは、言葉が出ませんでした。
お2人の顔色は真っ青で、体をくるんでいる外套に血が滲んでおります。
「王妃様、まずは我々医師で治療いたします。何かあればすぐにお知らせいたしますので、部屋から退出ください」
医師の1人が声を掛けてきました。
「……ええ。お願いするわ」
立ち尽くして何もできないわたくしは、ただただ邪魔なだけでしょう。
素直に退室いたしました。
部屋を退出し、離宮のエントランスに向かいますと、そこにも負傷した人たちが担ぎ込まれ、うめき声がそこかしこから聞こえてきます。
「これで、全員かしら」
近くにいた者に声を掛けました。
「……生存者は、これで全員です――」
「そう……。報告は誰がしてくれますか?」
「書記官が1人軽傷ですので、そのものにさせます。宰相様もご一緒にお願いしたいです」
わたくしは首肯し、すぐに王宮へ使いをやりました。
そして、すぐにやってきたユーリウス宰相と事の経緯を聞くことになりました。
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「最初は、何が起こったのかわからなかったんです」
ぽつりと言葉を落とす書記官は、自身の手をもう1つの手できつく握り締め、目は大きく見開かれております。
「フランクリン様とフィリクス様は中央の馬車に乗っておられ、僕は後方の馬車に乗っていました。ドン!という音と共に、乗っていた馬車が揺れて、気が付いたら乗っていた馬車が横になっていて、外から聞こえてくるのが怒号というんですかね……。護衛の方が何か叫んでいました。それから、金属がぶつかり合うような音が聞こえて……。すぐに立ち上がって王子たちを助けなければと思ったのですが、扉が開かなくて。一緒に乗っていた文官ですか?……声を掛けたのですが返事もなく、体をゆすっても反応がなく、よく見たら馬車の窓のガラスが喉に刺さって息絶えていました……」
書記官は、話しながら自分が見た光景を思い出し、手が震えだしています。
それでも、私たちは話を止めません。
「それで、襲ってきた者たちを見たのか?」
ユーリウス宰相が問います。
「はい。御者との連絡用の小窓から見えました。柄の悪い賊という風貌でしたが……。たぶん異国のものです」
「それは、どうしてそう思った」
「その、肌の色が少し褐色に近かったのと、南国の言葉を話していました」
「南国の?それは、間違いないか?」
「はい。パメーラ様が王宮で南国の商団と話していた時と同じ言葉でした」
「パメーラ……。他には何か覚えていないか?」
「……。あ、2人の首を落とせって、異国語で言っていたと思います――。っ!王子とフィリクス様はご無事でしょうか!!」
「2人は生きている。今治療している」
「っ!!よかった……。王妃様。申し訳ございません!僕がもっと動くことが出来れば。もっと――」
書記官は膝をつき、土下座をして謝罪をしております。
「貴方も、怪我をしているではありませんか。それに、こうやって話が聞けております。これからの対策も立てるというものです」
務めて、ゆっくりと話しました。
怒りが全くないというわけではありませんでした。
随行する人が武に長けている者にしていたらと、今になって思ってしまいます。
とは言え、この者を責めても何も始まりません。
それに――。
「ですが、僕が――」
「いえ、貴方も左手の指を無くしているではありませんか」
そう、指の何本かを切り落とされております。
この者は、軽傷なのです。
賊をこの者が追い払えなかったからと言って、誰も責めることはできません。
わたくしと宰相は立ち上がり、エントランスの端に寄り周りを見渡しました。
多くのものが重症者です。
痛みに苦しむ者はまだよいのかもしれません。
もう、声を上げる力さえなく、息が細いものもおります。
「ユーリウス宰相、調べは?」
わたくしは問いました。
「すでに方々に」
宰相は言葉少なに答えます。
「……。ミヒャエル、お願いできますか?」
後ろにいつの間にか侍っていたミヒャエルにも声を掛けます。
「ああ、お前が願うなら」
ミヒャエルはそう言い、わたくしに目配せをした後、ふっと気配を消してしまいました。
調べは、すぐに集まるでしょう。
ですが、怪我はすぐには治りません。
「ユーリウス様、執務は全てわたくしに回してくださいませ」
「……かしこまりました」
フィーやフランクリン様のことが心配です。
薄情だと言われるかもしれません。
ですが、国を守るのは王妃の務めです。
わたくしは、今できることをいたします。




