68.
オリヴァー公国王とカトリーン王妃が鬼籍に入り、王太子が戴冠するすることが決まりました。喪に服しながら1か月後の式典の準備は多忙を極め、毎日目が回りそうになるほどです。
そして、フランクリン様とフィリクスが入れ替わる時期も考えなくてはなりません。
「さて、いつにする?」
フランクリン様はあれ以降とても穏やかになられました。
「戴冠式前にするのがいいのだろうな……」
フィーは真剣に悩んでいます。
「顔がね、そこまでそっくりというわけではないからね……。どうやって隠す?」
確かに、血が繋がっていませんものね。似ておりませんわ。
「……仮面をつけようと思っている。事故を偽装しないといけないな」
フィーは仮面をつけてフランクリン様として過ごすのね。
事故の偽装、どうするのかしら。
「一番手っ取り早いのは、薬品や熱湯を顔に受けて……という設定。後は馬車の事故というのもあるけど、誰かに事故を見てもらう必要が出てくる。正直リスクしかない」
あら、フランクリン様、まともなことを言っておられるわ。
「熱湯だと、重度の火傷を負うということになるな。火傷は程度にもよるが仮面を着けなくてもいいくらいに回復するだろう。なら、薬品の一択だな」
フィーは設定に齟齬が無いように考えましたわね。流石ですわ。
「ということだ、リズ」
フィーがこちらを向いて言います。
「かしこまりました。わたくしはどうすればよろしいですか?」
わたくし、女優になってみたいと思っておりましたので、今から発声練習をしなくてはなりませんね。
軽く喉の調子を確かめながら聞いてみました。
「……リズは、何もしなくていい。」
「なんですって!わたくしも何かの役を回してくださいませ!頑張りますから!
「…いや、何もしないでくれ。演技がバレる」
「……」
わたくしは、女優にはなれませんでしたわ。
そして、その日は突然やって参りました。
「エリザベート様!大変です!」
王城勤めの下女が慌ててやって参りました。
「どうしたのです?騒がしいですよ」
フューゲル侯爵夫人が下女を窘めました。
夫人はわたくしが王妃としてしっかりと勤めを果たすためにしばらくは残ってくださいました。
「申し訳ございません。ですが、フランクリン王子とフィリクス様が……」
下女は真っ青になっております。
「お2人が、どうされました?」
夫人は、尚も毅然とした態度です。
「視察で伺った土地で、……賊に襲われました」
え?
賊に、襲われたと、言いました?
「な……。お2人は?怪我の具合は!」
夫人が慌てて声を掛けます。
「それが……、酷い怪我をされたとしか、聞いておりません」
嘘、ですわ。
そんな話は聞いておりませんもの。
きっと、何かの間違いですわ……。
そう思う一方、胸騒ぎがいたします。
「……」
わたくしは、何も言葉を発せませんでした。
知っていることと違うと言ってしまいそうですもの。
ひとまず、お2人のご様子を確認せねばなりません。
「すぐに誰かを向かわせていますか?」
下女に問いかけます。
「はい!宰相様が医師と騎士を手配なさり、向かわれています」
そうしますと、わたくしはここで待つのがいいということですわね……。
わたくしは、大きく息を吸い、顔を上げ、大声で叫びました。
「離宮を、怪我をされた方の受け入れ場所にいたします。すぐに人を集めて。湯を沸かし、リネンを集めて。薬師も呼んですぐに処方できるように指示を仰ぎなさい」
本当なら、怪我をすることはないと思います。
ですが、なぜか不安が消えません。
フィー
フランクリン様
ご無事なお姿を、早く見せてくださいな――。




