65.
「姉様、起きないね」
「お疲れだったんだよ。そっとしておいてやれよ」
「え~。じゃあ、ほっといて帰ろうかな」
「ルーイス、あの屋敷に帰るのか?」
「ん~。ちょっと嫌かも……」
「だったら……。家に来たら、いいだろ」
「え~。いいの?一緒のベッドで寝ていい?」
「お、俺は、別にいいけど……」
「ふふ……。ニールってば、顔真っ赤だよ」
枕元で聞かされるこの劇場は、どうしたらいいのかしら。
声の主は弟のルーイスとフィーの弟のニール様、ですわよね。
この会話、いわゆる「いちゃいちゃ」と言われるものではなくて?
えっと……。
ルーイスは、男の子でしたわよね。
既に目が覚めていますが、この状況を察知してしまい、寝たふりをしております。
ルーイスは、ニール様がお好き、なのよね。
ニール様も、ルーイスのことを好いてくれているのよね。
……ええ。
そう言うことも、ありますわね。
フラウ・ジェシカもそうですもの。
わたくしは、いいと思いますわ。
とは言え、ずっと聞かされているわたくしが恥ずかしくて仕方ないのですが。
もう、寝たふりはやめていいでしょうか。
「ふふ……。姉様、寝たふりはもうやめていいよ。もう起きているんでしょう」
あら、隠せておりませんでしたのね。
でしたら、さっさと起きればよかったですわ。
「んん“……。い、今目が覚めたのよ。――それより、ルーイス。顔の火傷は……」
火傷の程度もわかりませんので心配ですわ。
「ああ、火傷はね、痛いよ。でも、軟膏を塗って、痛み止めも飲んだ。冷やすと痛みは軽く感じるんだけど、冷やし過ぎも良くないみたい。たまに氷室の氷を貰って冷やしてるから、なんとか大丈夫かな」
明るく答えるルーイス。
大丈夫ではないでしょうに……。
「無理は、よくありませんわ。今日は離宮に泊っていきなさい」
離宮だと安全ですし。
「ええ~。新婚夫婦の邪魔したくないよ。僕、ニールのところに泊るから」
えっと……。心配なのですが。
火傷をおっていますから、後で熱を出しかねません。
よそ様の屋敷で熱を出すなんて、ご迷惑ですわよ。
「ルーイスは、俺が面倒見ますので」
ニール様、それが心配なのです。
そっと寝かしておいてくださいますか?
……無理ですわね。
「駄目です。今日は、離宮に泊りなさい。それより、なんで起きていますの!」
わたくし達は、笑いました。
本当なら、気持ちが落ちていてるところでしょう。
ですが、ルーイスは笑っております。
「それより、フィーはどうしたのかしら」
いつもなら、側にいてくれますのに。
「あ……。あの女を北の棟に幽閉するって、連れて行ったよ」
「北の棟に……。フランクリン様も一緒なのね」
「ああ、カトリーン王妃様もね」
全員であの女に付き添ったのかしら……。
いえ、違いますわね。
北の棟は、罪人に尋問をするためのところですから、そう言うことですわね……。
「わたくしも、仲間に入れて欲しかったですわ」
わたくし、まだ尋問の仕方を教わっておりませんでしたから、いい練習になりましたのに。
「姉様……、怖いよ。フィー兄様も血なまぐさいことをさせたくないんじゃないかな」
「うん。兄さんは、義姉上にはさせないと思うな」
「あら、そうなの?何事も経験だと思いましたのに」
******
「こいつに水を掛けて、目を覚まさせろ」
俺は、北の棟の世話役に声を掛けた。
「よろしいので?まだ、フランクリン様の伴侶ということになっているのでは」
世話役が、聞いてくる。
変に気が付くというか、頭の切れる奴だ。
「……フランクリン、どうする?」
念のため、聞いてみた。
「俺は、もう俗世を捨てるから、伴侶はいらない」
そうか、わかってくれたんだな。
「だと。いいから、起こせ」
世話役が汚い水をあの女に掛ける。
目が覚めた女は、びっくりして飛び起きた。
そして、汚水の臭いに騒ぐ。
「臭!なにこれ!」
はあ……。本当に口が悪い。
そして、汚い。
顔は腫れあがり、たぶん歯も何本か折れているだろう。
「お前、どういうことか、説明してもらおうか」
女の喚きには答えずに、こちらの質問を投げる。
「それは、こっちのセリフよ!どういうことなのよ!なんであんたが普通に暮らしてるのよ!」
ああ……、やっぱりそうだったんだ。
お前が、元凶だったんだな。
俺は、フランクリンと母上に事情を話すつもりはない。
尋問は俺がすると言って出て行ってもらうことにした。
「最後に、何か言っておくか?」
フランクリンに声を掛ける。
「……いや。もう、どうでもいいよ」
フランクリンは、女の事を見ようとしなかった。
「母上は?」
少し疲れが見えるが、気丈に振る舞っている。
何か、最後に言いたいことがあるかと聞いてみた。
「いいえ。フィリクスに全部任せるわ」
母上も女に一度も視線を送らず、俺に笑いかける。
そして、二人は出ていった。
「さあ……。それでは、聞かせてもらおうか。佐藤彩音――」
俺は、大きなペンチのような器具を持ち上げ、
話しかけた――。
※明日はお休みします。




