61.
目の前で座っているのにふらふらしているフランクリン様を見ておりました。
“デル・ドゥンメ・プリンツ(愚かな王子)”という言葉が似合い過ぎていて、思わずそう呼んでしまいそうになってしまいます。
「フランクリン様、衝撃的なことを聞かされて、困惑されておられると思います。信じがたいことだと、現実から目を逸らしたいと思っておられるでしょう。ですが、真実なのです」
「エリザベート、俺は本当に血を受け継いでいないのか?」
「フランクリン様、霊廟には入られましたでしょうか?お一人で。他の王族を伴わずに」
「……いや、ない。入る時は母上や父上が一緒だった。あ……。一度1人で入ろうとしたが無理だったな……。そうか、そう言うことだったんだな――」
過去の記憶を思い出し、ご自身が王族ではないということを、しっかりとご理解されたようです。
フランクリン様は、ご自身の両の手を見つめ、何かを思われたのでしょう。目に涙を溢れさせ、とめどなくそれを流されておりました。唇をきつく噛みしめ声を押し殺し、白くなるまで手を握りしめながら――。
誰も、何も言えませんでした。下手な慰めは余計に心を傷つけるだけですもの。
カトリーン王妃様はフランクリン様の隣にそっと腰かけ、背中をさすっておられました。長い時間、息子として成長を見守られてきたのです。情の一つも湧きますわ。
どれくらい時間が経ったでしょう。
フランクリン様は目を擦り、顔を上げました。
「俺は、これからどうなる?」
フランクリン様の瞳は揺れております。ですが、何かを恐れている顔つきではございません。
「お前は、どうしたい?」
フィーが問いかけます。
「俺は……。王子ではないからここにはいられない」
「ああ、そうだな」
「他国でやっていけるだろうか……」
「それは、難しいかもしれないな。自分一人で暮らしていけるのか?」
「はは……、難しいだろうな。アイシャは、どうする?」
「あの女は、お前にはついて行かないだろう。こちらでどうするか考える」
「そうか。……アイシャはお姫様になりたくて俺に近づいたらしい。他に好きな奴がいると言っていた。なんだったかな。“推し”って言ってた」
「は?“推し”?誰のことだ?」
「ずっと、好みのタイプは中世的な可愛い男だと言っていた。誰だろう……」
「中世的でかわいい、ですか?ルーイスみたいな?」
「あ、前にルーイスが“尊い”って言ってたな……」
嫌な予感がするのは、わたくしだけでしょうか?
よくわからない言葉が飛び交う会話に、段々と心が冷えてまいりました――。
******
もう!本当にあり得ない!
なんで私が愛妾にならないといけないのよ!
フランクリンが王子だから媚びを売って妃になろうとしたのに。
結婚式もそう。
いろんな儀式に必要なものとか、何でちゃんと教えてくれないのよ。
これも、エリザベートが全部悪いのよ!
私は王子妃になって、ちやほやされたかった。
イケメンたちを侍らせて、“逆ハー”を狙っていたのに!
何もかも上手くいかない。
悪役令嬢のエリザベートはみんなから慕われているし。
イケメンのフィリクスは私に靡かないし。
それに!
推しのルーイス君が私を睨んでくるなんて!
お城から抜け出し、私はルーイス君がいる屋敷へと馬車で向かった。
ルーイス君は剣術が得意じゃないのは知っている。
筋肉もついていないのも知っている。
私はそう言う中世的なルーイス君が昔から好きだったのよ。
窓から外を見ると、目的地にもうすぐ着くのがわかった。
「ふふふ……」
思わず笑っちゃった。
だって、今ならルーイス君を守る人なんて、大したことないモブ達だもの。
私が思い描いていた未来にならないなら、
ルーイス君を手に入れてみせるわ。
どんな手を使ってもね――。




