59.
朝の光が眩しくて、意識がだんだんと浮上してまいりました。
何かしら。
とても暖かくて、安心に包まれております。
すうっと息を吸い込むと、シトラスとほんの少しスパイスの香りがいたします。
「リズ、目が覚めたかい?」
愛しい人の声が聞こえます。
「フィー……。これは夢かしら?」
「夢なのかもしれないね。幸せな夢だ」
ええ……。幸せ過ぎて、このまま目が覚めなければいいのにと思ってしまうことを許してくれるかしら。
なのに、このロマンティックな空気を現実に引き戻す音が鳴ります。
ぐう……。
昨日はほとんど食べておりませんでしたものね。お腹も空きますわ。
でも、このタイミングはあんまりだと、自分のお腹に言いたくなります。
「リズ。お腹空いたよね。何か持ってこさせるよ」
笑いをこらえるフィー。いっそのこと、思いっきり笑ってくれた方がましですわ。
口をとがらせ、頬を膨らませて睨みつけました。
ですのに、お腹を抱えて笑われてしまいました。
「ふふふ」
フィーが、笑っています。
わたくしも、笑いました。
こんなに笑ったのは、いつぶりかしら。
簡単な朝餉を持ってきてくれるのかと思いましたら、熱々のオムレツと焼き立てのスコーン、搾りたてのジュースを持ってきてくれました。
オムレツはとても美味しいです。スコーンもジャムをたっぷりつけて甘いですわ。ディー・トラウベン(ぶどう)とディー・ヒムベーレ(ラズベリー)のジュースも少し酸味があってすっきり致します。
近頃は、美味しいと感じることが多くなり、食事を楽しめるようになってまいりました。美味しいと感じられなくなったのは、気持ちの問題だったのでしょう。
「リズ、美味しいかい?」
「ええ。美味しいですわ」
「よかった。たくさん食べて、体力をつけて。いつ子供が出来てもいいようにね」
フィーがそんなことを言うので、恥ずかしくなってしまいました。
昨晩は、その……、熱い夜でしたから。
途中、記憶が無くなりましたが、目を覚ますと汗のべとつきなどありませんでした。
きっと、フィーがふき取ってくれたのでしょう。
そう思うと、さらに恥ずかしくなり、フィーの顔を見ることが出来ませんわ。
流石にベッドの住人になるわけにも参りませんので、起き上がり身支度を整えてもらおうと思っておりますと、扉をノックする音が聞こえました。
「フィリクス様、エリザベート様、よろしいでしょうか」
ヤスミンの声です。
フィリクスと目を合わせ首肯します。
「ええ。入ってきて」
声を掛けます。
「おはようございます。あの……、フランクリン様が離宮に入れろと外で騒いでおられますが、どうしましょう」
溜息をつきながら話すヤスミン。
一応、まだ王族扱いですものね。どういたしましょう。
「ヤスミン、王妃様には?」
「まだ何も」
「リズ、王妃には言わない方がいい。一応子供として接してきたから情があるだろう。奴に入ってこられても困る」
確かに、この部屋に入ってこられても困りますし……。
「身支度を整えて、二人で会いに行くか」
「そうですわね。フランクリン様が何を騒いでおられるかもわかりませんし」
ひとまずは状況を確認することにいたしましょう。
フィーが用意してくれておりましたドレスを身に纏い、簡単に化粧をしてもらい、急ぎ離宮の入口へ向かいます。
大扉の向こうでは、フランクリン様が癇癪をおこしておられます。
「なんで俺が離宮に入れないんだ!王子だぞ!俺の嫁に会いに来て何がおかしい!早く開けろ!」
なるほど、わたくしに会いに来たというわけですね。ですが、何故会いに来たのでしょうか。
「リズ、俺の後ろについていて」
「わかりましたわ」
そして、大扉を開けさせました。
「エリザベート!我が妻!会いたかったぞ!」
「……」
気持ちの悪い……。
「フランクリン、何しに来た」
「俺の嫁だ。会いに来るのに理由はいらんだろう」
「……」
そう言えば、フランクリン様と婚姻を結んだと思われていますわよね。
「応接室に、お通ししましょう……」
「リズ、いいのか?」
「仕方ありませんもの。話しもしなければなりませんし」
「ああ……。そうなると王妃も呼ぶしかないな……」
そして、わたくしたちはフランクリン様と、事実を話をすることにいたしました。




