57.
陶器を割る儀式を終え、フランクリン王子とアイシャ様の様子を伺いました。
まだ、言い合っております。
「なんで私ばっかり!きちんと説明してくれてもよかったじゃない!」
「説明はさせていた!きちんときかなかったのはアイシャだろ!」
「大事なことだと言ってくれたら、きちんと聞いたわよ!」
「君はいつも話をちゃんと聞いてないじゃないか!もっと、人の話を聞け!」
頭が痛くなる会話ですわ。
まだ、この場にいなくてはならないのかしら……。
「リズ、俺たちはもう下がってもいいかもな」
「フィーもそう思います?参列者も迷惑ですわよね」
「王妃様に後のことをお願いしていいんじゃないかな」
「そこはオリヴァー公国王ではないのですね」
「あ……。あの男は、何にもできないよ」
そう言えば、お姿を拝見しておりません。どちらにおられるのかしら?
首を傾げて考えておりました。
「公国王は、病気で臥せっている。今日は参列できなかったみたいだぞ」
フィーはわたくしの考えていることを読むのが得意ですわね。
「ご病気なのですね。それは大変なのでは?」
「議会もはなから参加していないから、問題ないよ。参列者もわかってるから何も言わないだろ」
確かに、何も言ってきませんわ。もとからいないものとして扱われている感じもありますわね。それに――。
「パメーラさんも、おりませんわ、よね?」
「あ~。あの人、着るドレスなくて来れなかったんじゃない?見え張りだからさ」
「着るものが、ない、のですか?」
「ユーリス父上と離縁が整ったからさ、荷物を実家の伯爵家に送ってやったんだよ。あの伯爵家は皆、金使いが荒くて。ドレスとか装飾品を勝手に売り払ったと思うな」
「それは……、少しおかわいそうですわね」
「いや、これまでリヒタイン家の金を使いまくったから因果応報だよ。勿論、大きな装飾品はこちらで回収しているから安心して」
流石ですわね。抜け目がありませんわ。
そんな話をしておりましたら、大司祭様がこちらに向かってまいりました。
「もう、こんな茶番を見続けるのも飽きたのう。もう帰らんかね?」
茶番と言い切るところが大司祭様らしいですわね。
「私もいい加減離宮に戻りたいわ」
後ろからカトリーン王妃様の声が聞こえてきます。
「王妃様……」
わたくしは先日のことがあり、少し気まずいですわ。少し、目を伏せてしまいました。
「エリザベート、気にしなくていいわ。パメーラがよからぬ噂を流していたのでしょう。ユーリスも押し付けられてかわいそうだったので離縁をすぐに許可しました。ふふふ……ドレスも調達できなかったみたいね」
「母上、方々に声を掛けて、貸すことや売ることを止めたのでしょう?」
「いいじゃない。これまで我慢したのだから。やっと解放されて、せいせいしたわ」
ええ、これでよかったのでしょう。
皆様の顔が晴れやかなので、これまでの苦労がいかほどなのかがうかがえますわ。
そして、終わらなさそうな茶番劇をそのままにして、皆下がろうということにいたしました。
この後、宴会を催すのが通常なのですが、フランクリン王子とアイシャ様のことがありますので後日お触れを出すことになりました。
アイシャ様が愛妾にしかなれませんでしたものね。
お腹の御子がどうなるのか、心配になりますわ。
******
もう、本当に最低!
なんで私が愛妾なのよ!
エリザベートは契約できたというのに!
陶器の儀式のことで揉めていたら、いつの間にか参列者もいなくなり、エリザベートもいなくなっていた。
披露宴もあるからと思って王城に行ったのに、誰もいないし!
「ちょっと!披露宴はどうなっているのよ」
少し向こうにいた使用人を捕まえて聞いてみた。
「宴会は中止となりました。後日、お触れを出すと王妃様が申されておりました」
びくびくしながら話す使用人はとんでもないことを言う。
「はあ?!中止?なんでよ!」
「我々は知りません。王妃様が決められましたので……」
クソ!王妃が勝手なことを!
こうなったら、離宮に突撃だわ!
私は、急いで離宮へと向かった。
「王妃様!どういうことですか!披露宴を中止だなんて」
先触れもなく、ノックもせずに入って行って叫んだ。
だって、ムカついているんだもん。
「……失礼な人ね。ただの愛妾ごときが」
フューゲル侯爵夫人が行く手を阻んで失礼なことを言ってきた。
「あ!愛妾って!きっと何かの間違いです!だから、もう一度婚姻式をしたら……」
「はあ……。二度目はございません。契約とは、そう言うものです。もう覆されません」
何ですって?もう一度やり直しができない?
おかしいわ……。
何もかも、私の知っているストーリーになっていないもの!
「それで、何か御用でも?」
フューゲル侯爵夫人が面倒くさそうに言います。
「あ!披露宴の事よ!なんで中止にしたのよ!」
「できるわけがございません。まともに儀式のことを学ばず、何の用意もされておられないただの愛妾のことを披露目に出すなんて。恥ずかしくてできませんでしょう。頭がお花畑のお嬢様がこの離宮に入ってくるのも困ります。お帰りください」
「なんであんたに言われなくちゃいけないのよ!私は王子の子供を宿しているのよ。もっと敬いなさいよ!」
「はあ……。本当に、御子を宿しておられているのであれば、ですよね。アイシャさん」
公爵夫人の言葉が、刺さる。
私は後ずさってしまった。
「う、うるさいわね!覚えてなさい!」
私はその場から逃げ出した。
だって、バレていそうだったから。
お腹には、子供なんていないってことを。
******
「フューゲル侯爵夫人、矢面に立たせてごめんなさいね」
カトリーン王妃様が声を掛けてまいりました。
「これくらいは何ともございません。王妃様もお疲れでしょう。ゆっくりなさってください」
顔色が優れないので、大きなソファーに横になってもらうように促しました。
「ごめんなさいね。疲れが、出たわね。貴方も大変だったのに、侍女をさせて悪いわね」
「いいえ。私の旦那様の命を救ってくださった王妃様にお仕えさせて欲しいのです。気になされませんよう」
「そう?でも、フラウ・ジェシカが毒を入手してくれて、医師と薬師が解毒薬を調合してくれたから助かったのよ。私は何もしていないわ」
「いいえ。貴方様が声を掛けてくれませんでしたら、旦那様はこの世にはもうおりませんわ。私は、感謝の気持ちを表しただけです」
「律儀な人ね。ありがとう。……言葉に甘えて少し横になるわ」
ふらついておられる王妃様を支え、ソファーへ向かう。
「……」
王妃様は、最近目方が減っておられるのではないだろうか。
背中に触れた時、骨ばっておられるように感じた。
王妃様、本当にお体は問題ないのでしょうか。
私は、心配です。




