53.
とうとう、この日が来てしまいました。
婚姻式です。
フランクリン王子との婚約が解消されることもなく、王子自身が王太子から外れることもなく、アイシャ様が正妃に変更になることもありませんでした。
「……わたくし、婚姻式は嫌なのですが」
「リズ、みんなで決めただろう?この婚姻式で明らかになることがあるんだ。それを確かめることが出来るから、ね」
「そうなのですが……。フランクリン様と、ですのよ」
「大丈夫。手は打ってあるから」
フィーは終始そればかりです。何が起こるのか教えてくださってもいいのに。
朝餉をいただいた後、“家族”みんなで大聖堂へ向かいました。
大聖堂の控室へと向かうと、護衛達が扉の前をしっかりと守ってくださっていました。少し厳重過ぎると思うのは私だけなのでしょうか。
わたくしが姿を現すと護衛達が深く礼をとってくれました。
「しっかりとドレスは守りました」
「女狐は追い払いましたので」
女狐、ですか。若い女狐でしょうか。それとも……。
「女狐は、2匹です」
あら、両方ですか。
お2人とも、懲りませんわね。
「ご苦労様でした。ありがとう」と感謝を伝え、控室に足を踏み入れました。
式で着るドレスを見るのは初めてです。。
そして、わたくしが目にしたドレスは――。
「これは――」
「俺からだよ、リズ」
後ろからフィーが耳元でささやきます。
用意してくれたドレスは、フィーとの婚姻式で着るはずだったものです。
総レースにところどころ真珠を散らしてある、品のあるものです。
「フィー……。これは貴方との婚姻式でしか着たくありませんわ」
「知っているよ。でも、この婚姻式はフランクリンと並ぶだけのものだから。安心して」
フィーの言っていることが、わたくしにはよくわかりません。並ぶだけと言っても婚姻の契約をしますのに。
俯いてしまいましたが、時間が迫っていましたので急いで着付けをされ、化粧を施されました。
気分は晴れておりません。
でも、もう後には引けないところに立っております。
控室の扉をノックされ、大聖堂へと案内されることになりました。
入ってきたのは、白い礼服を来たフィーです。
「……綺麗だ。ああ……、君は本当に女神のようだね」
そんなこと、言わないでください。
「やはり、このドレスにしてよかった」
嫌ですわ。貴方との婚姻式ではありませんのに。
「さあ、行こう。これから起こる未来へ」
わたくしには、地獄へ向かうとしか思えません。
有無を言わさず、フィーはわたくしの手を取り、大聖堂の扉の前に到着しました。
そこには、すでにフランクリン王子とアイシャ様が立っておりました。
「ちょっと!なに、そのドレス!私のより華やかじゃない!!」
「え?エリザベートって、こんなに綺麗だったの?ふふ……、ならいいか」
アイシャ様はご立腹ですわね。仕方ありませんわ。彼女のドレスは光沢の少ないシルクですもの。予算の問題でしょうか?
フランクリン様は、いやらしい目つきでわたくしをなめるように見てきます。締まりのないその顔は……気持ち悪いですわ。
「お2人とも、騒がしいのはどうかと思う。――黙れ」
フィーが言い放ちます。
声は地を這うような低音で、威圧をかけておりますわ。
「フィリクス!なんだと!俺に向かって偉そうだな!でも、お前の元婚約者は俺の嫁になるんだ。ははは!お前のものを奪ってやった!」
「え?何?……もう!フランクリン様!そっち見てないでちゃんと私のエスコートしてよ」
「え?俺が2人をエスコートして入るのか?」
「いいえ。フランクリン様は大切なアイシャ様をエスコートしてください。エリザベート様は半歩下がって俺が連れていきます」
フィーは丁寧に答えます。
「ふふふ。私の方が前ね!いいわ!早く行きましょう」
アイシャ様ははしゃいでいます。わたくしが後ろからついて行くのが、自分が前に立つのが嬉しいのでしょう。
「……」
本当にわかっていないのね、彼女は。
わたくし、何も言いませんわ。
そんなことを考えていますと、大扉が開きました。
一斉に、参列者がこちらを見ております。
貴族たちは噂好きです。
特に女性は扇子を広げ口元を隠し小声で話します。
本当に、2人とフランクリン王子が婚姻を結ぶのか。
誰が、正妃の立ち位置で入場するのか。
2人のドレスが、愛情が、いかほどのものなのか。
「うふふ。私の晴れ舞台、みんなが見ているわ~」
「俺様の凛々しさを令嬢たちが見ている。婚姻しても、みんなの王子だからね」
この2人は、浮かれすぎですわ。
まあ、今だけはぬか喜びを楽しんでいただきましょう。
フィーがわたくしに手を差し出します。
わたくしが手を乗せます。
指先をキュッと掴むフィー。
わたくしは、軽く口角を上げます。
クラヴィーア(ピアノ)の演奏が始まり、フランクリン王子とアイシャ様が歩き始めました。
その半歩後ろからフィーとわたくしが足を進めます。
会場は、騒めきました。
小さいけれど、確かな声々。
それに気が付かないフランクリン王子とアイシャ様。
わたくしは――、
背筋を伸ばし、前を向いて歩いていきます。




