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誠実という名の鎖に繋がれた国母は、微笑みながら毒を飲む  作者: 蒼宙 つむぎ


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48.

 ハイデとエリカをフラウ・ジェシカに預け、屋敷に戻ることにしたわたくし達。

 その前に最近人気の焼き菓子を買って帰ることにいたしました。

 隣国に繋がる街道が整備されたことで交易が盛んになり、少しずつですが砂糖や蜂蜜などが手に入るようになったのです。

 とは言え、焼き菓子は高級品なので庶民にはなかなか口にできるものではありません。


「わたくし達のものと、屋敷で働いてくれているみんなにも買って帰りましょう」


「姉様はやさしいなあ。みんな泣いて喜ぶよ」


「本当に。他家ではそんな主はいませんね」


「あら、ヤスミン。他家の侍女たちとは繋がりがありますの?」


「勿論です。フューゲル侯爵の奥方様の侍女候補の方とは街の流行について情報交換しています」


「あら、フューゲル侯爵夫人の侍女が暇を?」


「いいえ。近く家督をご子息に譲られて領地に帰ると聞いています。なんでも、侯爵様が体調を崩されたと聞いています」


「え……。お茶会の時にはそんなことは何も……」


「あ、数日前の話です。お茶会の後だと思いますよ」


「そんな急に?」


 茶会の時のカトリーン様のお顔には陰りはありませんでした。

 となれば、その後すぐに体調を崩された。

 家督をご子息に譲ろうとするまでに具合が悪くなった……。


「……ヤスミン、もう少し詳しく聞かせて」


 わたくしの胸に不安が広がります。

 この公国全体が、何かに蝕まれているような気がして、落ち着かないのです。



 屋敷に戻ると、教会から司祭様が訪れていると執事が申します。応接室に案内しているとのことですのでルーイスと向かうことにいたしました。


「司祭様、どうかなさりました?」


「エリザベート様、ハイデとエリカの荷物が残っているのを見つけまして、持ってまいりました」


「あら、そうでしたの?では、こちらで預かります」


「あ、いえ。直接渡します。本人たちのものですので」


 視線を少し伏せ、ルーイスに流します。ルーイスも同じくこちらを流し見ています。

「あら、わたくしが荷物を渡さないと、言いたいのでしょうか」


「そ、そんなわけでは……」


「では、預かります」

 クラリスを手招きし、受けとるように促します。


「あ、あの子たちの様子も見たいので……」


「……今日も会っていたのではなくて?」


「……あの、また改めます」

 スヴェンは小ぶりの革袋を手にいそいそと帰ろうとしております。


「あら、そう。では、気を付けてお帰りになって」

 わたくしは、手に持っていました鉄扇を広げ、口元を隠し、含みのある笑みを浮かべて忠告いたしました。

 スヴェンは顔を引きつらせ、走って行かれました。


「あいつ、姉様に何かされると思っていた顔だね」


「失礼な。心配して声を掛けてあげただけですのに」


「お嬢様のさっきの顔、悪役令嬢っぽい顔でしたよ」


「……」


 わたくしの顔は、もともと釣り目です。はっきりとした物言いということもあり、幼少の頃はご令嬢たちが怖がって近寄ってきませんでした。ですから、ご令嬢の友人はいませんでした。

 その頃は落ちこみました。落ち込みすぎて、外出を控えるようになり、そのうち本当に屋敷の敷地からほとんど出なくなりました。


「わたくし、そんなに悪い顔をしているのかしら……」

 小さく心の声が漏れてしまいました。


「姉様は美人なんだ。だからちょっときつく見えちゃうんだよ。気にしないで」

 ルーイスはいつも優しい声を掛けてくれます。いつも側にいてくれます。


「ありがとう、ルーイス。わたくしが美人なら、世の中の女性はみんな絶世の美女で溢れていますわよ」

 本当に、この世の中は可愛らしい方と美しい方ばかりです。わたくしは特徴のない顔ですので羨ましい限りですわ……。




 *******


 スヴェンが帰りましたので、執事と侍女長を呼び買ってきた焼き菓子を渡しました。

「いつも頑張ってくれているみんなに食べてもらってちょうだい」


「お嬢様!こんな高級な菓子を……。ありがとうございます」

 侍女長は少し興奮気味です。小鼻が膨らんでおりますわ。


「ふふふ。実はお願いがあるの。近々、少し屋敷に鼠がまぎれるかもしれないから、気を配って欲しいのよ」


「鼠、ですか。……懲りない奴らですね。今屋敷で働いているものはご心配なく。以前の件で結束が強くなりましたから」


「あら、よかったわ。これからも屋敷をお願いするわね」


「かしこまりました。お任せください」

 執事も背筋を伸ばし、恭しく礼をとっています。



 この屋敷では、わたくしのことを悪く言う人はもういません。

 いつも顔を合わせると笑顔を向けてくれます。

 屋敷内は安全な場所になった。

 でも、お茶を飲むのは、……まだ怖い。


「クラリス、ハーブティを淹れてもらえる?」


「はい、すぐに」


 庭に作られたハーブガーデン。

 庭師が手をかけて、目で見ても癒される場所にしてくれました。


 カップに注ぐたびにミントの香りが部屋いっぱいに広がる。

 わたくしは今日も、ハーブティを口にする。


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