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誠実という名の鎖に繋がれた国母は、微笑みながら毒を飲む  作者: 蒼宙 つむぎ


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46.

 簡単にサンドイッチで昼餉を済ませ、ルーイスと養護院へ向かいました。

 クラリスとヤスミン、ミヒャエルがついてきます。

 サンドイッチの味は認識できたものの、ぼんやりとした感情の揺れにとどまりました。

 わたくしの心は、まだまだこれからということです。


 養護院に到着し、すぐに側にいた司祭様に声を掛けました。

「オーエンツォ家のエリザベートとルーイスです。先日お願いいたしました女の子2人を引き取りに参りました」


「エリザベート様とルーイス様。わざわざお越しくださりありがとうございます。すぐに2人を呼んできます」

 司祭様は先日の方ではありませんでした。ルーイスに視線を向け、首を振りました。ルーイスは1度だけ、縦に首を振ります。


 程なくして、司祭様が2人を連れてきました。

「エリザベート様、ルーイス様。ハイデとエリカと言います。2人とも、赤子の時に養護院に来ました」


 ハイデとエリカ。どちらも荒れ地に咲く強くてきれいな花の名前です。


「ハイデとエリカ、本日からよろしくね」

 ルーイスが明るく声を掛けます。


「「は、はい。よろしくお願いいたします」」

 2人はか細い声をハモらせ、感情が顔に出ておりません。

 面白い子達ですわ。


「クラリス、2人をお願いしますわ。わたくしとルーイスは教会へ向かいます。ヤスミン、ミヒャエル。ついてきて」

 わたくしは2人には声を掛けず、教会へ向かうことにいたしました。



 先ほどの司祭様に教会へ案内をしていただき、事務局へと向かいます。

 無事に引き取った旨伝えることと、サインをするためです。


「ルーイス様、こちらにサインをお願いいたします」

 身元引受人にルーイスがサインをいたします。

 わたくしはその書類を横から眺めました。


「以前に案内してくださった司祭様はどちらに?ご縁を結んでいただいたお礼をお伝えしたいのですが」


「スヴェンですか?あれ?今日は帳簿の担当なのに、いませんね」


「あら、どこに行かれたのかしら。せっかくなので少し探してまいりますわ」


「エリザベート様、わざわざ行かれなくともこちらでお待ちくだされば……」


「いいえ。せっかくなので教会の中を散策させてくださいな」


「そうですか。では誰かを付けましょう」


「それも結構ですわ。護衛がおりますので」

 ちらりとミヒャエルに視線を流します。


「護衛の方がご一緒なら安心ですね」

 司祭様は笑みを浮かべ、送り出してくれました。



「ミヒャエル。急いで探しますわよ」

 声を掛けた彼は無言で頷きます。


 いつもいるはずのところにいない、どこに行ったのか誰も知らない。

 怪しい行動としか思えません。

 誰と会っているのか、もしかするとその人のことを目視できるかもしれませんわ。


 少しかかとの高いヒールを履いていますが、指先に力を入れて跳ねるように駆けていますので、風を切る小さな音のみが静寂に潜みます。

 ミヒャエルも足音を一切立てません。

 呼吸も音を抑え、細く長く吸って吐き出します。


 教会の裏出口にほど近い茂みから、人の声がいたします。

 男性の声です。


 茂みから一番近い大きな柱の陰にさっと身を隠し、両手で口を抑え、呼吸を整えます。

 出来るだけ音は出さない。

 空気の揺れをおこさない。

 景色に溶け込むイメージで……、気配を景色に溶け込ませていきます――。

 そよそよと吹く風に、木々の葉がこすれ合い、カサカサと音を立てます。

 風の流れに逆らうことなく、空気の揺れに身を任せて……。


 わたくしとミヒャエルが気配を消しているので、茂みにいる2人には悟られていません。

 じっくりと会話を拝聴できます。



「ちゃんと噂を流せているのかしら?」


「勿論です。ぬかりありません」


「本当かしら?」


「本当です。きちんと、人を下げずむ冷酷な令嬢だと印象付けています」


「噂として?」


「口伝えもしていますし、こちらに来られた際にはフィリクス様と並んでおられた令嬢と婚約したものと匂わせています。誰かが噂しているのも耳にしていた様子でした」


「ふふふ……。あの子、フィリクスのことを簡単に諦められていないでしょうから、大きく崩れたのでしょうね。どんな顔をしていたのかしら。見たかったわ」



「「……」」

 パメーラの声ですわ。

 あの女が、司祭と繋がっていたのですね。



「パメーラ様、本当に俺を子爵の当主にしてくれるんですよね」


「しっ!名前を呼ぶんじゃないわよ!子爵の当主になれるかは、これからの働き次第よ」


「……何をすれば、よいのです?」


「そうね……。養護院から引き取っていく2人を使って、あの家の人間を殺しなさい」


「え?!あの2人を使う?殺させるって……」


「どうせ孤児でしょう?犯罪を犯してもその2人が処刑されるだけじゃない。誰も困らないわ」


「……ですが――」


「言うことが聞けないのかしら?残念ね……。子爵の身分は、諦めなさい」


「う……。わかり、ました――」


 あの女、教護院の子供を……。



 わたくしはこれ以上この場にいてはばれてしまう恐れがあるので引き返すことにいたしました。ミヒャエルに目配せをいたします。ミヒャエルも小さく首肯し、す……っと風に身を隠してその場から、消えました。



 もと来た道を、先ほどと同じように音を立てずに、先ほどよりも早く駆けていきます。


「ミヒャエル、スヴェンの身元を洗いなさい」


「わかった」


 ミヒャエルはわたくしと一緒に事務局へは戻らず、教会の方角へ駆けていきました。

 わたくしは速度を落とし、深呼吸を2回ほどして背筋を伸ばします。


 そして、何事もなかったかのように

 笑顔で事務局に入りました。


誤字を見つけたので、その一文を修正しました。

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