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誠実という名の鎖に繋がれた国母は、微笑みながら毒を飲む  作者: 蒼宙 つむぎ


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42.

 窓の外が暗闇に包まれ、いつの間にか夕餉がテーブルに置かれています。

 羊肉のシチューと雑穀のパンです。


 スプーンで1掬い。

 乳とチーズの香りがします。

 カルトッフェル(ジャガイモ)とカローテ(にんじん)とツヴィーベル(玉ねぎ)、ディ・ツェレリー(セロリ)が小さく刻まれています。

 羊肉も小さくカットされています。

 どれも、小さい。

 ゆっくりと口に運び、数回咀嚼し飲み込む。

 キャラウェイとマジョラムの香辛料の風味が鼻を突き抜ける。


 雑穀パンを持ち上げると、ずっしりしています。

 外側は固いです。

 中側もパサついています。


 わたくしは、ただひたすら交互に口に入れ、流し込みます。



 生きていくため、食事をとります。

 生きていくため、睡眠をとります。

 生きていくため、生きていくため――。



 わたくしは、フィーと約束したのです。

 どんなことがあっても、生きていくと。

 生きていくために、しっかりと食事をとり眠ると。

 どんなことがあっても、どんなことがあっても――。


 たとえ、側にいられなくなっても。

 たとえ、貴方がわたくしを嫌っていても。

 たとえ、フィーが命を落としても。

 わたくしは、生きていくと約束したのです。

 何度も泣いて、そんな約束したくないと願ったのに……。



 貴方が傍にいないと寂しい。

 貴方に嫌われるのは悲しい。

 貴方の命の灯が消えたら、わたくしの心が壊れてしまう。


 それでも、生きていく。

 約束をさせられたから……。


 自ら命も断てない。

 それを許されていないから――。


 わたくしの心が壊れても、

 息をするだけの人形になっても、

 命が尽きるその日まで、

 生きていく。


 夕餉を食べ終わり、窓辺の椅子に座ります。

 漆黒の闇が広がっています。




 扉が控えめにノックされ、クラリスが入ってきました。

 ワゴンに夕餉の食器を乗せ、熱い湯を桶に入れタオルを浸し絞っています。


「エリザベート様、お着替えと就寝の用意をいたします。お顔を失礼します」


 熱いタオルを広げ、手で何度か叩き、ゆっくりと顔に当てて拭いてきます。

 着ていた服と下着を手早く脱がされ、濯いだタオルで体を拭きあげられます。

 そして、清潔な下着と寝着を着せられ、窓辺の椅子に座らされます。

 もう一度濯いだタオルで髪を丁寧に優しく挟み込んで汚れを拭いていきます。



 寝る準備を整えられ、ろうそくを新しいものに取り換え、ワゴンを廊下に出し、扉の前に立つクラリス。

 彼女の手は、赤くなっています。


 彼女は、何も言わない。

 ただ、側にいます。

 じっと、こちらを見ています。


 窓の外の空は暗闇の中に煌めく星々が点在しています。



 数刻後、クラリスが近づき、トイレに連れていかれます。

 定期的に排泄を促されます。

 そして、そのままベッドへ向かいます。

 横になり目を閉じると、クラリスが小さく「お休みなさいませ」と言って灯りを持って出ていきます。



 明日の朝も、きっと朝日が昇る頃に目が覚めます。

 今も、そのうち眠りに落ちます。



 生きていくために、毎日食べて寝る。

 どんなことがあっても、生きていくために。


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