表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誠実という名の鎖に繋がれた国母は、微笑みながら毒を飲む  作者: 蒼宙 つむぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/12

3.

 カトリーン様との拝謁が終わり、お部屋を出るとパメーラ様に呼びだされてしまいました。

 呼び出された先は、王宮の小さなお部屋です。

 なぜ、このようなところを選ばれたのでしょうか……。


「パメーラ様、エリザベートです」

 扉の前で声を掛けます。


「エリザベートさん、入って」

 イライラされたお声です。

 わたくしは小さく息を吐き、扉を開けて入ります。


「パメーラ様、何か御用でしょうか」

 まっすぐに、視線をそらず見つめました。

 どんな探りを入れてくるでしょうか。


「あなた、カトリーン様と何を話していたの?」

 まさかの直球でした。

 話をはぐらかした方がいいでしょうか。


「フランクリン様との婚約の件でございます」

 あえて、婚約とひとくくりで話してみました。婚約解消したいということは伏せます。


「貴方ごときがフランクリン様と婚約だなんて……。忌々しい。あの高貴な方と婚姻を結ぶ?あり得ないわ」

 何でしょうか。パメーラ様のご子息のフィリクス様との婚約の時も感じたこの違和感。

 わたくしは伯爵家の息女ですので家格が下ですし、見下されたとしてもそれほど気にしておりません。

 ですが、フィリクス様に対しても良い感情をお持ちではないようで、「まあ、お似合いの2人じゃないかしら」とおっしゃっていましたが……。

 王子のフランクリン様に対しては崇拝しているような……、何か違う感情をお持ちなのかしら。


「そう、ですね。わたくしごときが王家へ輿入れなど、許されるはずありませんよね」

 そう、だから婚約したくありませんの。


「あら、よくわかっているじゃない。自分の身の程を知っているところは認めてあげるわ」

 そう言いながら自身の手入れの行き届いた爪を、そしてはめられた指輪を眺めています。


「ありがとう存じます」

 とりあえず、お礼を申し上げておきます。


「本当に、フィリクスと言い下賤な血が交る者同士、纏まっておけばいいものを……」

 独り言、でしょうか。ご自身の子供に対して、いかがなものでしょう。


 チッ


 思わず、舌打ちをしてしまいました。


「ん?何か言いましたか?」

 パメーラ様はご自身の考えに耽っておられたようです。舌打ちとは気がつかれませんでした。


「いいえ。何も。……風の音ではないでしょうか」

 わたくしは顔色も変えず、風のせいにいたしました。平和のためです。



 それにしても、フィリクス様に対しての態度は目に余ります。同じご子息のニール様と扱いが違い過ぎます。

 ニール様はフィリクス様の2歳下です。幼児というわけでもございません。ですからニール様への溺愛に違和感があるのです。


 お2人のお顔も流石兄弟です。よく似ておられます。

 ニール様は左目尻に黒子がございます。パメーラ様にも同じところに。ニール様は母親似なのでしょう。

 フィリクス様にはございませんが、御父上のユーリウス様にも黒子はございませんので父親似ということですわね。ですが、お顔はユーリウス様とはあまり似ておられませんね……。ご子息お2人とも。


「……」

 なぜだか、わたくしの思考がよくない方へと沈んで行ってしまっております。

 こういう時はさっさと帰宅し、好きな本を読み耽りたくなります。


「……パメーラ様、わたくしそろそろ下がらせていただきます」

 丁寧に、でも有無を言わせない距離を置く言葉を発します。


「え?ああ、そうね。オリヴァー様に私も会いに行かなくては……」

 パメーラ様、国王のお名前を気安く口にするなんて、よろしくありませんわ。

 いくら、寵愛を受けておられると言いましても、妃ではありません。

 お2人だけの時だけにしてくださいませ。


 わたくしは遠い目をパメーラ様に向け、退室の礼を取りました。



 帰宅するために車寄せの場所へと急ぎます。

 東屋にいたはずのフランクリン様とアイシャ様が、王宮のロビーで仲睦まじくお話をされております。お邪魔してはいけませんから、できるだけ気配を消し、ヤスミンと若干急ぎ足で突っ切ります。

 ですが、気配を消せなかったようで、声を掛けられてしまいました。


「エリザベート、母上のところへ行っていたのではないのか?なぜ王宮に?」

 フランクリン様はわたくしをなめるように見てきます。

 そのような目で見てこなくでくださいませ。それに話しかける必要、ございませんよね。


「フランクリン様にエリザベートがご挨拶申し上げます。……実は、パメーラ様から声がかかりましたので、向かっておりました」

 事実のみ、端的にお返事いたしました。


「ああ、お美しいパメーラか。……母上もパメーラみたいな華のある人なら良かったものを……」

 華、ですか。一体どのような華なのでしょう。

 見た目は可憐ですが……、匂い立つ香りは夜を思い浮かんでしまいます。


「チュベローズ……」

 先ほどの紅茶のことを思い出し、小さく顔をしかめてしまいました。

 いけませんわ、淑女らしからぬことですわね。


 今日は気疲れすることが多かったので、無表情の仮面が剥がれてしまっています。扇子を広げ、口元を隠しなんとかこの場を引き上げようと考えました。


「エリザベート、そなたは笑みも浮かべることが出来ないのか。少しばかり美人だからと偉そうな奴だな」

 貴方様に笑みを向けるなんて、嫌ですわ。わたくしが少しばかりの美人、ですか。そんなことを言っておりますと、アイシャ様に叱られますわよ。


「申し訳ございません。無愛想なもので。フランクリン王子には私のような者が隣に立つのは……よろしくありませんわね」

 だから、わたくしも婚約破棄をしてくださいませ。


「あ……。少しくらいなら、不愛想でも構わんが……」

 やめてください!何を肯定しようとするのですか!気持ち悪い!

 扇子の陰で、思いっきり顔を歪めてしまいました。


 顔を隠していて、よかったですわ。


「お2人のお時間のお邪魔になりますので、お暇させていただきます」

 そう言って淑女の礼をし、音もたてずにその場を去りました。

 後ろではアイシャ様が何やら喚いておりますわよ。言わんこっちゃない。

 あ、声に出してはおりませんね。

 失礼。



 馬車に乗り込み、ヤスミンが大きな声で喚き始めました。

「信じられません!カトリーン様に華が無いですって!あの王子、目が腐っております!」


「ヤスミン。気持ちはわかりますが、不敬で捕まりますわよ」

 ヤスミンの的を射た言葉に思わず笑みが零れてしまいます。


「まあ、エリザベート様はお美しいので、そこはいいのですが」

 ヤスミン、貴方の目も悪いのではなくて?医者にかかることを薦めますわ。


「……カトリーン様は、カラーやスパティフィラムのような美しさがありますわ。香りも、爽やかなほんのりと甘い香りがイメージですわね」

 あの白い、凛とした佇まいがカトリーン様そのものに見えます。

 そう、いやらしくない清廉なそのお姿こそが、国母としてふさわしい。


「フランクリン王子も何というか……、パメーラ様のようなくどい美しさのお顔ですよね」

「……」


 確かに、パメーラ様とフランクリン様は、どことなく似ておられます。左目尻の黒子も……。



 嫌な考えを抱いてしまい、わたくしは車窓から外を眺めました。

 西の空に雨雲が見えます。


「嵐が、来そうですわ」


 ぽつりと、窓に雨粒が落ちました。

 急いで帰らないといけませんわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ