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誠実という名の鎖に繋がれた国母は、微笑みながら毒を飲む  作者: 蒼宙 つむぎ


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35.

 パメーラさんの処遇を決めた日の午後、今のついにできることをしてしまおうとわたくしはクラリスと教会に向かいました。

 要件としてはいたって普通のことだったので、本日は常勤している司祭を呼びました


「エリザベート様、本日はどのようなご用件で?」

 よく顔を合わせる司祭様が対応してくれることとなりました。この方も上位の方ですのに、申し訳ないわ。


「本日は養護院への寄付をさせていただこうと伺いました」

 養護院は教会が運営をしておりますが、いつも予算が足りないと伺っております。

 最近のオーエンツォ家はルーイスがしっかりと運営管理してくれているので少し余裕が出てまいりました。リヒタイン家からの援助も先月より受け取っておりません。


「それは、ありがとうございます。ですが、婚姻前で物入りなのでは……」

 通常でしたら、公国へ嫁ぐので持参金が莫大に必要となりますが、わたくしは望まれて輿入れしますので持参金はいりません。


「そちらは問題ございません。それより、養護院の見学をしてもよろしいでしょうか?」


「勿論でございます。こちらへ」


 司祭様は笑顔で教会に隣接された養護院へ案内してくれました。

 古い建物ですがきちんと管理されており、薄汚いと言う印象はございません。


 建物の中に入りますと、身寄りのない子供たちが広間で何かをしております。

「子供たちは何をしていますの?」


「今の時間は読み書きの勉強ですね。紙は貴重なので、蝋板と尖筆を使っています」

 確かに蝋板ですと何度でも使えます。わたくしも幼少の頃は使っていましたわ。


「3つのグループにわかれておりますのね」


「はい。取得レベルに分かれています。右側のグループは街で働くための学習をしていますよ」


「それは良いことですわね。もうどちらか働き口は決まっているのかしら?」


「男の子は決まっています。女の子は決まっていない子もいますね」


 なるほど……。

 少し期待してもいいのかしら。


「決まっていない子はどの子かしら?」


「えっと……。確か、薄茶の子達ですね。奥の2人です」


 司祭の指さす方に視線を向けます。

 懸命に教師役の司祭様の話を聞いておりますわ。

 わたくしから見て、悪くないように見えますのに。


「あまり勉学の習得が出来ていないのかしら?」

 疑問を素直にぶつけてみます。


「いえいえ。よくできた子達です。ただ、少し見た目が地味だと言われまして……」


「……」

 見た目で判断することは、よくありますものね。


「算術はできそうですの?」


「勿論できます。記憶力も悪くないですよ」


「あら、とてもいい子達ですわね。オーエンツォ家で前向きに検討させていただいても?」


「勿論です!あ……。ですが、2人とも少し……、感情を出すのが苦手のようでして」


「あら、それが悪いことだと思っていませんわ。屋敷に帰りましたら弟にも話をしておきますわね」


「よ、よろしくお願いします!本当にいい子達なんです」

 司祭様たちは、子どもたちのことを心配しておいででしたのね。

 わたくしとしてもオーエンツォ家に忠誠を誓ってくれる下女が必要です。

 彼女たちが望むなら、訓練も致しますわ。

 そっと、クラリスに目配せをしますと、頷きました。

 彼女も協力してくれそうですわ。



 わたくし達は教会を後にし、次にもう一度王場へと向かいました。

 離宮ではなく、政務室のとある人へと。


 文官に声を掛け、通されたところでは、気難しい顔をされた初老の御仁がおられます。

 わたくしは、クラリスを扉の前で待機してもらいます。

 きっと、何を話しているかは聞こえないでしょう。


「初めまして。わたくし、エリザベート・オーエンツォと申します。貴族名鑑のことを伺いたく訪れました。お時間少しいただけますでしょうか?」


 御仁は眉間に皺を寄せ、面倒くさそうな顔をしております。

「あー。オーエンツォ家の嬢ちゃんだね。何が聞きたい?」


 ふふふ。ちゃんと聞いてくれるのですね。無精ひげを生やしておりますが、悪い人ではなさそうですわ。

「実は、とある家系の出自について知りたいのですが……」


 わたくしは、疑問に思っていたとあるご令嬢のことを知りたく思っておりました。

 教えていただけるかは、少し賭けでしたが――。

 結果としては、知りたかったこともわかりました。

 そして、また新たな疑問が産まれました。


「教えてくださって、ありがとうございます。ですが、わたくしに話してしまってもよろしかったの?」

 聞いておいてこんなことを言うのもどうかと思いますが、結構なことを教えてもらいました。

 御仁が処罰されないか心配になりましたわ。


「ははは!嬢ちゃんに心配されなくても大丈夫だ。俺は、ただの平民だ。それに嬢ちゃんが次の国母になるんだろう。だったら、嬢ちゃんを信じるよ」


「ふふふ。それならよかったですわ。また、いろいろと教えてくださいまし」

 わたくしは、深く考えずにそう伝えました。


「ああ、いつでも来たらいい。カトリーン様と一緒にな」



 カトリーン様も、よくこちらに来られている、のかしら。

 何を、調べておいでなのでしょう。



 疑問は、次々にやって参ります。

 すぐには、全てを解決できないことばかりです。


「ルーイスに、協力してもらわないといけませんわ」

 思わず独り言をつぶやいてしまいました。



 帰りの馬車の中から見上げた空は、

 今にも雨が降り出しそうな曇り空でした。


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