33.
招待いただいた茶会の内、参加することにしたのはやはり高位貴族がほとんどとなる。
わたくしは、今はまだ伯爵令嬢です。
流石にお断りできない方々の茶会には参加しなくてはなりません。
本日参加したのは、フューゲル侯爵家です。
「お招きいただきありがとうございます、フューゲル侯爵夫人」
「エリザベート・オーエンツォ様、ようこそ我が家の茶会へ」
以前の王妃様の茶会にもおられたクラーラ・フューゲル侯爵夫人が笑顔で迎えてくれました。
意外にも歓迎されているようですわ。
「皆様、エリザベート様が来られましたわ。エリザベート様はあちらのお席に是非」
クラーラ様が会場におられる方々に声を掛け、わたくしに席を案内してくれます。
その席は――。
「クラーラ様、わたくしがこのようなお席に着くのは……」
案内されたのは、クラーラ様のお隣です。
「私達、あの茶会から貴方のことが気に入りましたの。今までの鬱屈した気持ちがね、あの時にすっかりと払われましたの」
「ええ。私達、ずっと我慢していたのです。あの女が難癖付けてはいろんなものを奪っていきましたから……」
「本当に、ね……。だから、私達は貴方を支持いたします。そのことをお伝えしたくて、クラーラ様に茶会を開いていただきましたの」
「茶会を開くのは、当たり前です。エリザベート様、フューゲル家の茶会に来てくれて、うれしいですわ」
わたくし、こんなに温かく迎えてもらえるなんて思ってもいませんでした。
今日も値踏みをされるかと身構えていましたからね。
茶会はとても穏やかで、皆様から多くのことを学ばせていただきました。
貴族女性の間で何が流行っているか、観劇の演目のこと、どこの劇場が素晴らしいか……。
知らないことばかりでしたので、楽しくて終始笑っておりました。
「エリザベート様。貴方の笑みはとても素敵ですわね」
「本当に。慎ましくありながら、心から楽しんでくださっておられるのがよくわかります」
「私、エリザベート様の笑みで癒されます」
あら。わたくし、自然に笑っていたのですね。以前は、ぎこちない笑みが気持ち悪いとフランクリン様に言われていましたのに。
「ありがとうございます。ですが、わたくしが一番癒されておりますわ。皆様のお話がとても楽しくて、いくらでもお話していたいですわ」
心からの思いを告げました。
誰かに気を遣うことない、気持ちを――。
茶会も終盤に入った時、招いていない客人が、訪れました。
「あら、大したことないおもてなしなのね」
パメーラさんです。
「パメーラ様、本日の茶会には招待しておりませんが」
クラーラ様が、立ち上がりました。
「あら、招待状を出し忘れたのだと思ってきてあげたのよ。感謝しなさい」
この方、自分の都合のいいようにしか考えられませんのね。
少しイラつきましたが、この茶会の主はクラーラ様です。
出しゃばるわけにはいきません。
我慢します。
「出してもいない招待状が届くわけありませんでしょう。あいにく、席は空いていませんの。お引き取りを」
クラーラ様、声にはりがあり威厳すら感じますわ。
「あら、席なら空いていますわ。ねえ、そこの貴方、もうお帰りになるのでしょう?」
すぐ近くにおられたご令嬢に“帰れ”と言うのですね、この人は。
お隣に座っておられるご令嬢のご母堂様もご令嬢も泣きそうですわ。
気の弱そうな方を狙いましたわね。
「いいえ。今おられる方々はまだ帰りません。貴方がお帰りになって」
クラーラ様、しっかりと否定して、母娘を守りましたわね。
「なんですって!侯爵家にたてついたらどうなるかわかっているんでしょうね!」
圧力かけてきましたわね。厄介な人です。
「私も侯爵家です。貴方と貴族位は同じです」
「同じでも、宰相のいる侯爵家の言うことが偉いに決まってるでしょう」
馬鹿な人たちだと言って見下し始めました。
クラーラ様も、こういわれては言い淀んでしまいましたわ。
このままだと、よくありませんわね。
「パメーラさん。何を喚いていますの?招待されていない人が偉そうにされるなんて……。恥ずかしくないのかしら」
わたくしはすっと立ち上がります。
「エリザベート!貴方こそ偉そうに!伯爵令嬢ごときが!」
「ええ。今は伯爵令嬢です。近々、王子妃となりますけどね」
事実を、いいえ、事実だけを述べます。
「だから何だって言うの!まだ今は違うでしょう!」
「ええ。ですが、カトリーン様より書状をいただいておりますの」
「書状?それが何よ」
「ふふ……。わたくしのことを蔑ろにする人は、私の採択で罰することもできますのよ」
わたくしは、後ろに控えていたクラリスに目で合図を送ります。
クラリスはどこに隠していたのか、王妃様から頂いた書状を手渡してくれます。
「こちらに書いていますわ」
書状を開いて見せてあげます。
サインと印が押されています。
「こんなもの!」
パメーラさんはその書状を奪い取り、破り始めました。
「こんなもの、無くなれば意味ないでしょう!」
高らかに叫びながら笑っています。
本当に、馬鹿な人。
「ふふ……。こうなることを見越して何枚もいただいております。……ミヒャエル、この女性を王妃様への不敬で近衛騎士に連れて行ってもらって」
「かしこまりました」
入り口に控えていたミヒャエルが表情を崩さずパメーラさんの腕を掴みます。
「やめなさい!侯爵夫人に平民ごときが触れるなんて、それこそ不敬よ!」
パメーラさん……。貴方は救いようがない馬鹿ですわ。
「パメーラさん、貴方こそミヒャエルに対して不敬ですわ。彼は帝国の第8王子ですわよ」
パメーラさんは、わたくしの言葉に一気に青ざめていきました。
「え……。私、知らなくて。それに、帝国の王子が護衛してるなんて、思わないでしょ」
「ミヒャエルは護衛ではありません。あくまで、“友人”ですわ」
「そんな……」
どうすればいいのかわからなくなってきたのかしら?
言葉が、少なくなってきておりますわよ。
――パメーラさん。
その後、本当に彼女は近衛騎士に連れて行ってもらいました。
侯爵夫人だから許されるなんて、
そんなこ、はわたくしが許しませんわ。




