32.
カトリーン様と大司祭にお会いした翌日、カトリーン様から贈り物が届きました。
細長い箱が2つ。
軽い方を開けてみます。
「これは、扇子?わたくしのものより重いですけど……」
「それは、鉄扇です」
クラリスは“当たり前”のことのように話します。
「え?鉄でできた扇子?」
「はい。出来ましたら本日よりこちらをお持ちください」
「いつも?」
「はい。常に、です」
常に……、ね。
筋肉痛になりそうですわ。
はたして、ちゃんと広げれるのかしら……。
物は試しと思い、広げようとしますが引っかかりを感じ、思うように動きません。
普通のものは簡単にずらせばいいだけですのに。
「お嬢様、こちらは少しコツがいるのです」
クラリスは「お借りします」と言って鉄扇を持ち、簡単に広げます。
「あら、簡単そうに見えますわ」
「はい。ずらすのではなく、捻るのです」
そう言って、広げたものを閉じてわたくしに戻してくれます。
そしてもう1度、今度は捻ってみました。
先ほどはびくともしなかったのが嘘のように簡単に開きます。
この仕掛けを、じっと見つめます。
納得ですわ。
これはいわゆる1つの武器なのです。
簡単に開くのも危険があります。
かといって、開かないと扇子とは言えません。
広げた様をじっくりと拝見します。
1枚ずつ、繊細な透かしがされております。
この透かしがあるから、ここまで軽くできたのでしょう。
しかし、そうなると強度が心配ですわ。
「これはとてもきれいなのだけど……、すぐに壊れないかしら」
「強さはしっかりあります。特殊な鋼鉄ですので。王妃様も同じものをお持ちです」
カトリーン様がお持ちなのであれば、疑う必要はございませんわ。
「本日よりこちらを持ち歩きます」
クラリスは嬉しそうに笑みを浮かべ、首肯しました。
次に、重めな箱を開けます。
こちらは、短刀でした。
柄は太過ぎず、しっかりと握りしめても指が邪魔になりません。
柄頭には小さな窪みがあります。不思議です。
鞘も繊細な装飾がされております。
ですが、こちらの短刀には違和感がございます。
何に引っかかりを感じるのかしら……。
自然に首を傾げてしまいます。
「お嬢様、こちらも鉄扇と同様に特殊な鋼鉄で作られております。刀幅が狭いのはこの刀身がとても強いからです」
そうですわ!刀幅がとても狭いのです。
こんなに繊細なものでわが身を守れるのかと不安になったのですわ。
ですが、こちらももしかして――。
「クラリス、こちらもカトリーン様と同じものかしら」
「左様でございます。柄頭の窪みには、婚姻式の際に祈りを捧げて完成となるものです」
祈りを捧げて完成?
どのように完成されるのかしら……。
「クラリス。わたくし、今初めて婚姻式が楽しみになりましたわ」
知らないこと、わからないことを知るには、婚姻式が必要なのですもの。
「それは、ようございました」
また、クラリスは嬉しそうな顔をしています。
「……」
わたくし、クラリスのこの笑顔をどこかで見たことが、ありますわ――。
いつだったのかしら。
どこで見たのかしら。
じっと彼女を見つめてしまいます。
「お嬢様?どうかなさいましたでしょうか?」
「いいえ。なんでもないの。なんでもないけれども、わたくし貴方の笑顔を、どこかで見た気がするの」
思ったことを、口にしました。
クラリスは、大きく目を開いています。
驚いたような顔ですわ。
「お嬢、様……」
あら、今度は手を口に当てて、今にも泣きそうな顔になりましたわ。
「クラリス、なぜ泣きそうな顔をしているの?わたくしの言葉で、嫌な思いをしたのかしら……」
「いいえ!そんなことはございません。ただ、お嬢様の側でお世話できることが、――うれしいのです」
嬉しいのね。
でも、それなら笑って欲しいわ。
だって、私も泣きそうになってしまいますもの――。




