31.
翌日、わたくしはカトリーン様と大司祭様へ挨拶に伺いました。
大司祭様は幼少の頃よりかわいがってくださった好々爺です。
「大司祭様、この度は立会のお役目を引き受けてくださると伺っております。ありがとうございます」
わたくしは、感謝の言葉を述べます。
「エリザベート嬢、これくらいしか儂にはできんからな。……エリザベート嬢、王家の婚姻の宣誓はの、少し特殊なんじゃよ」
「特殊、なんですの?」
「ふむ、少し説明をするかの。実は、この公国は王家の血のみ特殊なんじゃ。少量の血を婚姻契約書に付けての、魔法契約をする。王家以外の血は魔法での締結はできんのだよ」
「王家のみ……。それは、誰が見てもわかるものなのですか?」
「ああ、誰もがわかる。だからの、それを見届けるのが儂なんじゃ」
大司祭様は、特別なお役目を背負っておられるということかしら……。
「エリザベート、大司祭様も王家の血が入っているのよ」
カトリーン様は穏やかに話します。
「それから、王家の血を受け継いでいるかも洗礼式でわかるんじゃ。儂が洗礼をするんじゃよ」
「洗礼式もされるのですのね。わたくし、心強いですわ」
カトリーン様と視線を合わせ、お互いに頷きます。
「2人とも、安心しなさい。儂が導く」
よかった。間違いはここで食い止められる。
「よろしくお願いいたしますわ」
わたくしは、今一度丁寧に礼を述べました。
堅苦しい話は早々に切り上げ、3人で大聖堂を話をしながら歩き、聖母像の前に着きました。
いつ見ても慈愛に満ちた目をこちらに注いでくださっています。
「エリザベート、例のものを捧げましょう」
わたくしはお言葉の通り、大事なものを奉納いたします。
「あら、可愛らしいものにしたのね」
「はい。……これはフィリクス様と一緒に作ったのです」
「……そう。フィリクスと」
「そうか……。うん、きっといい具合になるだろう」
「そうでしょうか。こちらを使うなんて、どうかしていますわよね」
少し、胸が痛くなり、苦笑いをしてしまいました。
「エリザベート……。きっと、聖母様が見てくださっています」
カトリーン様は、わたくしをそっと抱きしめてくれました。
「儂も祈っておる。きっと、正される」
大聖堂は歴史ある建物です。
数百年前に建てられたと聞いています。
何度も修復し、大事に受け継がれてきました。
この神聖なこの場所で、わたくしは来月婚姻式をあげます。
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「カトリーン!」
司祭様と話した後、帰城すると、オリヴァーが扉を乱暴に開け、怒り顔でこちらに向かってきました。
「なんですか、騒々しい」
名前も呼んで欲しくないわ。
「パメーラを解任したと聞いたぞ!」
あら、やっと気が付いたのね。
「ええ、それがどうかしましたか?」
「なぜだ!俺が任命したのだぞ」
「仕事をしないものは必要ないと、少し前に多くの方から声をあげられましてね。宰相にも了承いただいています。貴方は……、ふふ……。貴方ももう少し仕事していただかないと、ねえ」
「なんだと!公国王だぞ!お前が偉そうにできる相手ではないのだぞ!」
はあ……。まだわかっていないのね。
「この公国での人事権は私が持っています。今まで温情で側使え侍女として置いていたのです。ですが、何もせず偉そうなだけでは示しがつきません。エリザベートを迎えるのですから、正さなくてはなりません」
「なんだと!いつだれが決めた!」
「前公国王のレオポルト様から、書状をいただいています。説明は何度もしています」
「クソ!俺を馬鹿にして」
ええ、馬鹿ですものね。
何度も諭しました。
何度も説明しました。
ですが、自分の都合の悪いことは聞き入れませんし、覚えられないのでしょう。
「もう、いいですか。私も忙しいのです。出ていってください。会議に遅れます」
私はたまたま会って話をしていた近衛騎士団長に目配せをします。
“連れていけ”――と。
大きな図体したオリヴァーが喚きながら王宮から出されます。
まるで子供みたいです。
「それでは行きましょうか、ユーリウス宰相」
急いでいかないと、大事な会議に遅れてしまうわ。
「ええ。参りましょう、王妃様」
私の斜め後ろにユーリウスが。
そして、その後ろにフィリクスがついてきます。
この公国の戦略会議の場へ、私は何年も通っています。
オリヴァーは、来ていません。
これまでも、これからも――。




