29.
公国名を間違っていましたので修正しました
「皆様、どうかなさいましたか?」
わたくしは、侍従と護衛騎士に声を掛けます。
「エリザベート様、その……。アイシャ様が到着されたのですが、ご招待されていない方もお連れでして……」
侍従がおろおろとしながら軽く説明いたします。
「ご招待されていない方を?」
少しわざとらしく、あり得ないと言わんばかりの言葉を掛けます。
「え~。少しぐらいいいじゃない。けち臭いこと言わないで通してよ」
アイシャ様……。いいえ、アイシャさんはそんなことを口走っております。
「アイシャさん、何を勝手なことをおっしゃっているのかしら?この茶会は、王妃様主催ですのよ。勝手なことはお控えになって」
少し苛ついてしまったので、“様”ではなく“さん”で呼んでしまいました。
「エリザベートさん!王妃様も少しならいいって言ってくれると思うの。いろんな人と仲良くした方がいいでしょう。私、優しいから、みんなとも仲良くなれるのよ」
馬鹿ですか?いえ、馬鹿ですね、この女は。
王妃様なら許してくれると思う?
自分で優しいと言う?
みんなと仲良くなれるってどうして思えるの?
しかも、わたくしのことも“さん”で呼びましたわね……。
――あり得ませんわ。
「アイシャさん、自分勝手な解釈はおやめください。多くの方と仲良くすることはいいことですが、その言葉は時と場合をきちんと考えて行動してこそ活かされることです。
そして、皆様と仲良くできるのであれば、この茶会で仲の良い方を作ればよいのです」
ここまで言えば、普通は反省するのですが……。
「え~。いきなり知らない人と仲良くできないかもしれないから学園の友達連れてきたのに。今日はいいじゃない。ただの、お茶を飲んで話をするだけでしょ」
思わず、舌打ちをしてしまいそうになりました。
わたくし、この方とは仲良くできませんわ……。
「いいえ、それはできません。まず、この茶会ではわたくしと貴方を紹介する場です。“ただの”茶会ではございません。知らない方ばかりだから心細いと言うのであれば、これまでに貴族の茶会に参加すればよかったのです。それに、そのくらいで怖いなどと言っていては、公国王子の妃になどなれませんわよ」
とてもいらだっておりますが、言葉を丁寧に、できるだけやんわりと伝えました。
言っている内容は少しきつめですが。
「紹介の場だったら、余計いろんな方がいた方がいいじゃない。貴族の茶会にはいったことあるんだけど……、みんなに無視されるから行かなくなったのよ。みんな意地悪なんだから。あ、王子様の妃には勿論なるわよ。だってお腹に赤ちゃんがいるんだし。そうだ!エリザベートさん、私たちの邪魔しないでよ!お妃さまは私だけで十分よ。今からでも辞退して」
はあ……。
この女が、側妃、ですか……。
わたくし、扇子を持つ手が怒りで震えてしまいますわ……。
「アイシャさん、貴方の頭は空っぽですか?もう一度言います。この茶会は、王妃様主催です。勝手な行動はおやめなさい。そして、貴族の茶会でのけ者にされたのは、貴方が貴族としての行動ができないから敬遠されたのです。今まで、いったい何を学ばれたのですか?
そして、貴方はフランクリン様のお子を身ごもっている可能性があるから、仕方なく側妃として迎え入れてあげるのです。国母となるには、好きだと言う気持ちだけではなれません。公国の民を、この公国を守っていく覚悟が必要なのです。
そもそも、貴方たちの貞操感は王族にはふさわしくございませんわ」
「そんな言い方しなくてもいいじゃない!貴族の作法とか難しくてよくわかんないし。
公国のためとか、民のためとか、そんなの臣下が何とかすればいいだけでしょ!私、そんな責任を背負えないわよ!王妃様になったら好き勝手出来るからと思っただけだもん!」
「――好き勝手するため、ですか?」
「そうよ!宝石とかきれいなドレスとか、好きなだけ買えると思ったのよ!国を支えるとか、そんなつもり最初からないから!」
あきれて、物も言えなくなりますわね……。
わたくし、完全に感情を顔にのせられませんわ。
「エリザベート、ありがとう。アイシャさん、貴方は本来側妃にはできません。身ごもっているかもしれないと言う話なので、特別に、急いで婚儀をあげるのです。たった数か月で、婚儀をあげなくてはならないなんて、前代未聞なのです。そんな貴方の我儘を、なぜ聞かないといけないの?もういいから、帰りなさい」
カトリーン様は、はっきりと告げました。
「王妃様まで、意地悪だわ。私の何が悪いのよ」
全部ですわ。貴族として、最低限のマナーすらできていない人が側妃にもなって欲しくありません。
ですから、きちんと線引きしますと伝えなければなりません。
わたくしは、一歩アイシャさんに近寄り、はっきりとした口調で話しました。
「アイシャさん、貴族のマナーは最低限学んでください。そうでなければ、貴方は平民と同等。そうなれば、側妃にすらなれません」
「え?子供がいるのに?なんでなれないの?」
「このリヒシュ公国は、貴族国家です。それが根幹にあります。であれば、貴族としてきちんと振る舞えなければ意味がないのです。
他の人の邪魔になります。すぐに、帰りなさい!」
わたくしは言い終わった後、「カーン!」とヒールを強く踏み鳴らしました。
護衛騎士がすぐに近寄り、アイシャさんや取り巻きさん達の腕を掴んで持ち上げ、丁寧に馬車寄せに向かいました。
騒がしい人たちが嵐のようにやってきて、一気に去っていきました。
残されたわたくしたちは、静寂に包まれました。
暫くして、あり得ない人が声をあげます。
「とんでもない茶会になりましたわね。会の主催者がもっとしっかりとしていたら……」
パメーラさんです。
「あら、パメーラさん。貴方がしっかりと仕事をしていたら、こんなことにはなっていませんわ。貴方は、王妃付き侍女のお仕事、いったい何をなされたのです?」
仕事もしていないのに、カトリーン様を貶める言葉を吐くなんて!
わたくしは、この人がカトリーン様付きの侍女であることが許せません。
「な、何をえらそうに!目上には敬いなさい!私はきちんと仕事をしています!」
「何をなさったのでしょう?この茶会も、王妃様自ら取り仕切っておりましたわ。わたくしはずっと傍でお手伝いさせていただきました。――あなたは一度も顔を出さず、どこかへしけこんでおりましたわよね」
あら、わたくし言葉が乱暴になってきましたわ。
そろそろ元に戻さなくては。
「し、しけこむだなんて」
パメーラさん、わたくしは知っていますのよ。
扉の前に立っている下働きの若い子たちを小部屋に連れ込んでいちゃついていることを――。
わたくし、扇子でその下男たちを指してあげました。
皆さん、びくついていますわ。
そんなに怖いなら、最初からこの女について行かなければいいのよ。
「ねえ、パメーラさん。貴方もあまり図に乗ったことしないでくださる?まともに仕事できないのでしたら、ご辞退くださいませ」
わたくしは、扇子をパシン!とテーブルに打ち付けました。
パメーラさんは何も言えず、悔しそうにこちらを見ながら退室いたしました。
はあ……。まともに会話できない人とお話しするのは、疲れましたわ。
小さく嘆息をつき、目を閉じましたら、椅子が引かれる音がそこかしこから聞こえます。
目を開けますと、ご列席の方々が腰を軽く折り、礼を取ってくださっています。
完全に目を瞑っているわけではないようなので、完全にわたくしを認めているわけではございません。
ですが、視線は下を向いておられるようですので、“悪くない”と言うことのようです。
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「エリザベート!あの小娘!私に恥をかかせたこと、後悔させてやる」
王妃付き侍女として、みんなから敬われてきたのに、ちょっと仕事してなかっただけで偉そうに言われてしまったわ。
フィリクスの嫁として嫁いで来たら、こき使ってやろうと思っていたのに、まさか正妃に指名されるなんて!
私がなりたくてなれなかったその地位に!
前の毒を盛った時に、怖がって出てこなければいいものを。
今は屋敷の駒を全部追いやられたから、機会を見て何とかしなくては――。




