28.
アイシャ様の登場で入り口付近が騒がしくなり、和やかな雰囲気が崩れてしまいました。
「アイシャ様がお連れになっている方、どなたでしょう。貴族のご令嬢ならわかりそうですが……私は存じ上げません」
ヴェラ様が扇子で口元を隠し、カトリーン様とわたくしに話しかけます。
「私も知りません。勝手に連れてくるなんて……」
カトリーン様はこめかみに手を当て、困惑しています。
すると、わたくしの右隣にお座りの令嬢から声がかかりました。
「エリザベート様、あの方はアイシャ様の学園時代のご友人です。商会のご令嬢です。貴族籍はございません。他の方も同じく」
親切にどのような方なのかを教えてくださりました。ありがたいことですわ。
「ご丁寧にありがとうございます。わたくし、エリザベート・オーエンツォですわ。よろしくお願いいたします」
「ご挨拶、ありがとうございます。私はシャルロッテ・バロニン・フォン・カッシュです」
バロニン・フォン……男爵令嬢ですわね。
「失礼いたしました。改めまして、エリザベート・グレーフィン・フォン・オーエンツォです」
「ご丁寧にありがとうございます。入り口の方のこともございますので、略さずに挨拶をさせていただいただけですので、お気になさらないでくださいませ。私は男爵ですし」
小柄で控えめなお声ですが、しっかりと貴族作法を習っておられる方です。視線はこちらを向いていますが、若干下を向いております。わたくしが挨拶をすると視線を上げましたので高度な貴族作法もご存じですわ。
「シャルロッテ様とお呼びしてよろしいでしょうか?わたくしのことはエリザベートとお呼びくださいませ」
この方とは今後も仲良くしたいと思いましたので、お名前呼びをさせていただきたく声を掛けました。
シャルロッテ様は驚かれ、視線が左右に大きく振れておられます。小さなお口もハクハクとしておいでで、まるで小動物のようですわ。
「私ごときがお名前呼びをするなど……」
「よいのですわ。わたくし、貴方と仲良くなりたいのですわ」
「!!……よろしくお願いいたします、エリザベート様」
「よろしくお願いいたしますわ。シャルロッテ様」
はあ……。胸が熱くなります。
わたくし、生まれて初めて女性のお友達が出来ました……。
それはさておき、入り口の騒ぎをどういたしましょう。
この茶会は王妃様が主催です。
騒ぎをおさめたいところですが、まずはそのきっかけになることが必要です。
本来なら、王妃様付き侍女であるパメーラ様がなさることですが……。
ニヤついているだけで動こうともしません。
「……本当に、使えない侍女ですこと」
小さな声で、つぶやきました。
カトリーン様には聞こえたようで、扇子で隠して笑っておられます。
仕方ございませんわね……。
「王妃様、少し席を離れさせていただきます。すぐに戻って参りますわ」
わたくしは、お側を離れることを告げました。
「ええ。待っているわね」
カトリーン様は期待を乗せた笑みで送り出してくれました。
ご期待には、応えないといけませんわ。
わたくしはできるだけ気配を消して立ち上がり、テーブルから離れて立ちました。
すうっと息を吸いながら背筋を伸ばし、お腹に力を入れ、扇子を両手で持ちます。
視線はまっすぐに、顎は少し引き気味で。
そして、息を吐いた後、存在感をしっかりと出しつつ、ゆっくりとアイシャ様たちの方へと歩きだします。
アイシャ様の方に向かれていたご婦人やご令嬢が、わたくしに視線を向けなおします。
多くの方は、波乱を期待されているのかもしれません。
パメーラさんは、下品にニヤける顔を扇子で隠そうとしていますが、隠れておりません。
ふふふ……。
そんなに期待なさられては、
“何か”をしなくてはなりませんわね。




