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誠実という名の鎖に繋がれた国母は、微笑みながら毒を飲む  作者: 蒼宙 つむぎ


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27.

 表向き和やかな時間が流れておりました。

 カトリーン様の左隣の席にはひっきりなしにどなたかが挨拶に来られ、その都度彼女たちを王妃様から紹介されました。


「エリザベート、こちらは公国の中でも大半の流通を取り仕切っているツェルナー伯爵の夫人のヴェラよ。ヴェラ、こちらが王子妃になるエリザベートよ」


「ヴェラ様、エリザベート・オーエンツォでございます。よろしくお願いいたします」


「エリザベート様、こちらこそよろしくお願いいたします。オーエンツォ家といえば、お父様は、確か地質学者……でしたわね」


 ヴェラ様はわたくしを推し量っておられます。


「はい。いつもどこかの土地を調べております」

 ですから、わたくしも事実を語ります。

 “いつもどこかへ行ってはなかなか帰ってこない”と――。


「ふふ。そのようですわね。……実は先日、新しい道路を作るために地盤が緩くないか調べていただきました。かなりご無理を言ってしまったので謝礼をその場でお渡ししようとしましたら、“エリザベートとルーイスに仕事を任せているのでそちらに言って欲しい”と言われましたの。ですから、ルーイス様にお手紙をお送りさせていただいておりますのよ」


 あら、お父様。きちんとお仕事されておりましたのね。


「お言葉、ありがとうございます。ツェルナー伯爵のお役に立つことが出来まして、嬉しく思います」


「こちらこそ、長年ご協力くださったおかげで、公国の交通網がようやく整ってまいりました。……ご家族には、寂しい思いをさせていたと思います。公国のためとはいえ、エリザベート様とルーイス様には申し訳ないことをしていると思っておりました」


 ヴェラ様が、手を膝の上で整えて頭を下げてこられます。

 わたくしは、鼻の奥が、ほんの少しツンとしました。


 ルーイスと家令達がいたので、それなりに楽しく過ごしておりました。

 ですが、寂しくないとは言えませんでした。

 せめて、誕生日は、一緒にお祝いをしたかったのです。


 それでも、ヴェラ様からお父様のことを伺えてよかったと思っております。

 お父さまは、公国のために頑張ってきてくれていたと知ることが出来ました。


「エリザベート、私からもお礼と謝罪を。貴方たちの父のテオドールがいたから、公国の交通が整備されたのです。ですが、貴方たち姉弟に寂しい思いをさせてしまいました。ごめんなさい」


 カトリーン様、そのお言葉をいただけたので、わたくし達、姉弟の寂しさが報われたような気がします。

 ですが、幼少の頃はとても寂しくて、癇癪を起したものです……。


 そう言えば、フィーがいつも宥めてくれておりましたわ。

 泣きわめくわたくしをギュッと抱きしめて、背中を撫で、耳元で優しくつぶやいてくれていました。


『リズ、僕がいるから。だから、落ち着こうね。

 怒りの炎は、身を滅ぼしてしまう。

 どんなことがあっても、どんなことを言われても、

 怒りで我を忘れないようにしてね』


 わたくしは、いつの間にか癇癪を起さなくなり、物事を落ち着いてみることが出来るようになりました。


「王妃様、ヴェラ様……。わたくしは、両親が忙しくて寂しいときもございました。けれど、1人ではなかったので、乗り越えられました。もう昔のことですし、父が公国の役に立つことが出来て嬉しく思います。わたくしも、公国のために尽くしてまいります。わたくしに、ご助力いただけますと幸いですわ」


 わたくしは、真っすぐに前を見つめて気持ちを伝えました。

 カトリーン様とヴェラ様は微笑んで「勿論」と言ってくれました。

 周りに居られた方々も、わたくしたちの話を聞いていたようで、頷いてくれています。

 婚姻の義の布告後、初めての茶会としては及第点ではないでしょうか。



 少しホッとしておりましたら、入り口で騒がしくなっております。

 どうされたのかと視線をやると、アイシャ様とその取り巻き達が見えます。


 アイシャ様がお召のドレスは、カトリーン様と色が被っております。

 事前に、薄紫は不可とお伝えしておりますのに……。


 カトリーン様のご様子を伺いますと、眉間に皺が寄っております。

 手に持っている扇子が、ミシミシと音を立てております。


 この茶会は、穏やかに終わることは、

 なさそうですわ。


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