26.
王城のサロンへとカトリーン様と一緒に入りますと、一斉に視線が集まってきました。
わたくしという人間を興味本位で見る目。
カトリーン様との仲を推し量る目。
フランクリン王子との政略結婚によって、国母となりえるのかを見定める目。
どの目も、好意的ではありません。
「大丈夫?」
カトリーン様が心配そうです。
「問題ございません。予想の範疇ですわ」
柔らかい笑みを浮かべ、答えます。
そして、王妃様が歩みを進め、わたくしが後をついて行きます。
先に談笑していた女性たちは、急ぎ立ち上がり、頭を深く挨拶をいたします。
「至高なる国母のカトリーン様にご挨拶申し上げます」
――カトリーン王妃様にだけ。
ええ。勿論わかっております。
わたくしはまだ、フランクリン王子とは婚儀を上げておりません。
たかだか、伯爵令嬢でございます。
今は、気にいたしません。
「皆さん、ようこそお越しくださいました。顔を上げて頂戴」
カトリーン様がこの場の主であることを示す一言でございます。
皆さんはゆっくりと顔を上げ、尊敬と笑顔を向けます。
――カトリーン王妃様にだけ。
「皆さん、お揃いかしら?」
カトリーン様の側付きの侍女の肩書を持っているはずなのに、ちゃっかりと茶会に出席している女性の中に紛れているパメーラ様に声を掛けます。
いえ、ドレスが派手過ぎて、浮いておられるので紛れられておりませんわ。
「まだ、揃っていません」
顎をしゃくり上げ、棘のある言い方をしますのね。
「……。道が混んでいるのかもしれません。先に始めましょう」
カトリーン様は、会場内の方々のお顔を瞬時に確認し、どなたが来ていないのかが分かったようです。待つ必要がないとの判断をいたしました。
カトリーン様が、上座に腰を下ろします。
そして、隣に誰を座らせるか、お言葉を発します。
「エリザベート、私の右隣に」
笑顔で手招いてくれました。
「はい。喜んで」
わたくしも、笑顔で側に侍ります。
女性たちは、騒めきました。
では、左隣は?
アイシャ嬢を侍らすのかしら?
そんな声がちらほらと聞こえてきます。
ですが――。
「誰か、こちらのカトラリーは、片付けて頂戴」
そう言って、扇子で左側を指しました。
“カトリーン様は、エリザベート嬢のみ側に置かれた”
これが、王妃様のご意向なのだと、一瞬にして理解されたようです。
次の瞬間、一斉にわたくしに向き直り、頭を垂れました。
カトリーン王妃様が認めた人として、向き合うと言う意思表示でした。
ですが、本当に国母になる器であるとは思われておりませんわね。
頭を垂れながら、目はわたくしを見ております。
「エリザベート、よく見ておきなさい。しっかりと言葉を交わしなさい。そして、貴方が見極めなさい」
カトリーン様は、扇子で口元を隠しながらわたくしに話しかけます。
「はい。しっかりと、見極めます」
わたくしも、扇子で口元を隠して答えます。
「堅苦しいのはここまでです。楽しみましょう」
カトリーン様の声で、茶会が始まりました。
パメーラさん、残念な方ですわ……。
王妃の側使え侍女の仕事も放棄し、悪目立ちしている装いをして何食わぬ顔で談笑ですか。
そして、わたくしを睨みつけてくるなんて……、若作りしているお顔の化粧が剥げましてよ。
ふふ……っとこみ上げる笑いが漏れてしまいました。
「エリザベート、笑い過ぎよ」
「申し訳ございません。ですが、ご令嬢のように振る舞われているのを咎めなくてよろしいのですか?」
「咎めても、ね。昔はいろいろと注意はしました。でもね、彼女の所作が荒すぎて、仕事をさせると恥ずかしいのよ」
カトリーン様も、ふふふと笑っております。
本当に、仕方ありませんわね……。
わたくしのするべき仕事が、早速見つかりましたわ。




