25.
身支度を終え、食堂に向かうとルーイスが待ってくれていました。
「おはよう、ルーイス」
「おはようございます、姉さま」
大きめのテーブルには、2人分のカトラリーが並んでいるだけ。
ルーイスの向かいに腰かけると、下女たちが朝食を並べ始めます。
新鮮なサラダに焼き立てのパン、野菜のスープ、ふわふわのオムレツとヤギのミルクが目の前にあります。
「姉さま、今日は何なさるんですか?」
「今日も勉強よ。貴方は?」
「僕も鍛錬だよ」
今日も、昨日と変わらない。
しっかりと、周りを確認する。
鼠の下女1人は手を動かさず、目を大きく見開き視線が左右に動き回り忙しそうです。
調理場の下働きは、なぜか扉の向こうからこちらをちらちらと見てまいります。
残血の鼠の下女1人が窓の外からこちらを覗いておりますわ。
「……」
仕事もせずに、何しているのかしら。
普通にお給金を出していますからね。
役立たずは、この屋敷には必要ありません。
「姉さま、仕事をしない鼠はいらないですよね?」
「ええ、そうね。でも、彼らは頑張っているつもりなのでは?」
「いやあ……。いらないでしょ。紹介状に名を書いている人に送り返しましょう」
「そうね……。クラリスとダーニエルのお給金の支払いがありますからね」
わたくしは、侍女長を呼び出し、鼠3匹の返却を命じました。
その後、1刻もしないうちに全ての鼠が屋敷から出ていきました。
「エリザベートお嬢様、輿入れまではこちらの屋敷は安全になりましたね。では、次の段階へ進めましょう」
「な、何をすると、言うのかしら?」
「次の段階、です」
「……まだ、いいのではなくて?」
「いいえ。お嬢様は命を狙われた際、御自分の身を守れませんよね?」
「それは……、クラリスやダーニエルがいますし、ミヒャエルもいます。そのうちヤスミンも帰ってきますから、安全でしょう?」
「甘いです。王妃様は短剣をきちんと使いこなせます」
「……はい、わかりました」
思わず、ため息をついてしまいます。
足音を消して歩く練習の時のクラリスが、また戻ってくるのですから……。
「お嬢様、本日からは屋敷の庭で走り込みをいたします。領地経営のことも、ルーイス様とご一緒に学びましょう。そして、薬草のことも、実際に触れると早く身につきます。それから……」
クラリスの口から、とめどなく予定が述べられてまいります。
その予定、全部こなそうと致しましたら寝る時間がないのではないかしら。
クラリスの過酷な教育は約1か月にも及び、耐え抜いたわたくしの体は引き締まりました。
背筋もきれいに伸び、淑女の佇まいを長時間維持できるようになりました。
そして、大聖堂での婚姻の宣誓を執り行うまで残り1か月の今日、公国中にその日程と内容が布告されることとなりました。
“次期公国王となるフランクリン・リヒシュタッド王子と正妃エリザベート・オーエンツォの婚姻
――並びに、側妃アイシャ・フォーヴァスとの婚姻を合同で行う“
異例の合同結婚式。
布告から、たったの1か月。
前代未聞過ぎて、頭が痛くなります。
「王妃様、本当にこの日程でよろしいのでしょうか?」
わたくしは、たまらず隣に折られるカトリーン様に問いかけます。
「ええ、いいのです。アイシャのお腹が目立つと困ります」
カトリーン様の声はとても静かで、何かを抑えているかのようにも見えます。
わたくしも、眉を下げて苦笑してしまいました。
わたくしたちは、並んで大きな扉の前に立っています。
気持ちを落ち着かせるために、細く長い息を吐きました。
「エリザベート、大丈夫ですよ」
カトリーン様は、今日も優しい。
「はい。……では、参りましょう。女の戦いの場へ」
カトリーン様がわたくしに頷きます。
わたくしもカトリーン様に頷きます。
そして、ゆっくりと茶会の会場へと向かいます。




