22.
わたくしは、黙ってカトリーン様のお話を伺いました。
いいえ、正しくは、――何も言えませんでした。
フランクリン王子は、オリヴァー公国王とカトリーン様のご子息ではなく、
オリヴァー公国王とパメーラ様のご子息。
それでは、フィリクス様は?
フィリクス様は……、先代公国王とカトリーン様のご子息でした。
どうして?
先代公国王とカトリーン様が?
そして、どうしてフィリクス様がリヒタイン家の子息に?
フランクリン王子、いえ、フランクリン様がなぜ公国の王子なのでしょう?
「ふふふ。エリザベートは思ったことがすぐに顔に出ますのね?」
「!!!」
王妃様、そんな筈はございませんわ!
いつもすました顔をしておりますもの。
「あはは!エリザベートは本当にかわいいわ」
カトリーン王妃が、わたくしの行動で笑ってくださっている。
少し、笑われるのは恥ずかしいのですが、笑顔になってくださっているから、いいですわ。
「エリザベート、フィリクスとフランクリンは、生後間もないときに、取り換えられてしまったの。あの女が、乳母を脅してね……」
「取り換え子?乳母……。サシャさんが?」
王城に伺った際は、いつも笑顔で優しく迎えてくださっていますのに……。
「ええ、パメーラは自分の子を王子に、次期公国王にしたかったのね。サシャは、あの女に脅されてね……。今も、抗えずにいるわ……」
フィリクス様とフランクリン様は18歳です。まさか、18年ずっと?
「……」
「サシャはね、家族を食べさせるために自身の花を売っていたことがあったのよ……。王宮で働くために隠しているわ。最初はそのことで脅され、そこからは取り換え子をしたことで脅されて……。家族もいるから逃げることもできなくてね」
「ご家族は、どちらに?」
「パメーラの嫁ぎ先、リヒタイン家で、働いているわ」
ああ……。人質に、されているのですね。
「ですが、カトリーン様はお怒りになったのでは」
「そうね……。最初は怒りの気持ちが強かったわ。そして、もう家族として一緒に過ごしたフランクリンに対しても、情がわいたし、どうしたらいいのか、考えが付かなくてね。
……サシャが花を売ることになったのも、公国の情勢が荒れていたのが原因。だから、私にも責任がある。だから、怒りはサシャに対してはもうないのよ……」
カトリーン様は、ひどく悲しい顔をされております。
わたくし、何も言葉が出ませんでした。
どんな言葉も、安っぽくなってしまいますもの。
「私はね、パメーラが憎い。オリヴァーを体で落とし、私にその場面を見せつけたのよ。婚姻のあった日の夜にね」
「それは……、初夜、にですか」
「ええ。オリヴァーに媚薬を飲ませてね。おかげで、オリヴァーは色欲が強くなってしまって、男も女も……。私は先代公国王に相談して、子種をいただいたのよ。その時、先代王妃はご逝去されていたけれども、罪悪感は強かったわ……」
「そう、ですわよね……。カトリーン様と先代公国王様は仲がよろしかった、ですわね……」
「ええ。私たちは、お互いを心の支えにしていたの。そのうち、本当に愛し合うようになったのよ」
王妃様、先代公国王様がご逝去されたとき、お倒れになられたと聞いていましたけど、そうだったのですね……。
「先代公国王――レオポルト様もね、あの女が毒を盛ったのよ。自分が、王妃に、国母になれなかったのが許せなかったのでしょうね。でも、毒を盛った証拠がなくて、罪に問えませんでした。……だから、ね。絶対に、あの女を許せないの」
「カトリーン様……」
貴方様は、愛する人を、2人も奪われたのですね。
これまで、どれほどの悲しみを抱えてこられたのでしょう。
それなのに、いつも優しい笑みを浮かべ、わたくしたち公国民のためにご尽力くださって。
それにしても、オリヴァー王は、クソですわね。
媚薬を盛られたとはいえ、こんなに素敵な妃を迎えたというのに、したたかなパメーラ様を選ぶなんて、救いようのない馬鹿ですわ。
いろいろと考えておりましたが、ふと肝心なことを確かめておりませんでした。
「カトリーン様、その……。このことは、フィリクス様は……」
ご存じ、なのかしら。
「ええ、……あの子も知っています。」
フィーは、知っているのですね。どんなにお辛かったでしょう。
「私たちは、この公国を守ろうと考えています。……フランクリンもね、私が忙しくしている間にあの女が甘やかしてしまって、考え方が浅い子になってしまったし。オリヴァーもそこかしこに子種をばらまこうとするし……」
「それは……、よろしくありませんわ」
「ええ、だから、オリヴァーの子種を無くしてやりましたのよ」
カトリーン様。その満面の笑みは、怖いですわ。
どのようにして、無くされたのかは、怖くて聞けませんわ。
まあ、お気持ちは、わかりますけれども。
それにいたしましても、パメーラ様は救いようのない方ですわね。
「カトリーン様。わたくし、次はどうしたらよろしいでしょう?」
ふふふ――。
わたくし、
王妃様のお力に、
ぜひなりたいですわ。




