21.
わたくしは今、王宮の下女の服を着て王妃様の前に立っております。
その王妃様もまた、下女の服を召しております。
「カトリーン様、なぜこのような服を?」
不思議に思い、聞いてしまいました。
「ふふふ。この下女の服、とても動きやすいのよ。締め付けがないでしょう。お気に入りの服なのよ」
「……」
確かに動きやすいです。
そして、この締め付けの無さ……、癖になりそうですわ。
「それは、わかりました。ですが、それだけではございませんよね?」
カトリーン様は、微笑みました。
「貴方には、この国の秘密を見せようと、思っているのです。以前、隠し通路のことを伝えましたね」
王妃教育の初日に伺いましたわ。
「本日は、王妃にのみ伝えられている隠し通路を教えます」
「王妃にのみ、ですか?」
「そうです。国を正しく導くため……。なのに、私は正せなかった。遅くなりましたが、これから正していくのです」
「それは、大変そうですわ……。わたくしがご一緒してもいいのでしょうか?」
「ええ……。貴方も一緒に、正していくのを手伝って欲しい、のです」
カトリーン様は、複雑そうな顔をしております。歯切れの悪い物言いも、気になります。
「わたくしで、できることでしたら……」
「ありがとう。今から向かうところでは、嫌なものを目にするでしょう。でも、決して、声をあげてはいけませんよ」
カトリーン様の顔から、笑顔が消え、立てた人差し指を口に当てました。
秘密、ということですわね。
「かしこまりました」
わたくしは、下女服のスカートを摘まみ、丁寧にカーテシーをいたしました。
カトリーン様と秘密の入り口から入って行った隠れ通路は、とても狭く暗く、緑にほのかに光る夜光石の明かりを使って進んで行きます。
――足音を完全に消して。
わたくしが必死になって習得したことは、このために必要だった、ということなのかしら。
何度も曲がりくねった道を進んで行きます。
階段も上りました。
とても長い道のりを、ひたすら声を出さず、足音を立てず、できるだけ気配を殺して進みました。
半刻ほど経ったでしょうか。
カトリーン様が立ち止まり、振り返ってわたくしを見ます。
どうされたのでしょう。
何か、不都合なことがありましたでしょうか。
カトリーン様は、わたくしの側により、耳元でささやきます。
「この先から、とある部屋を覗くことが出来ます。もう1度言います。嫌なものを見せてしまいますが、決して声を出さないように」
念押しをされました。
わたくしは、頷きます。
数十歩、さらに進んだところで再び立ち止まり、夜光石をポケットに仕舞いました。
わたくしも習い、ポケットに石を仕舞います。
カトリーン様は暗闇の中、わたくしの手を取り、引き寄せ、灯りが漏れている穴へと誘導します。
なんでしょうか。
この穴の先から、誰かの苦しそうな声が聞こえます。
どなたか、怪我をされたのでしょうか?
そんなことを思っていましたのに、
わたくしが穴を覗いて見えたのは、
苦しんでいる人では、――ありませんでした。
わたくしの見つめる先には、
公国王のオリヴァー陛下と、
フィリクス様の母のパメーラ様の、
睦合っている場面でした。
「!!!」
わたくしは驚き、声を出しそうになりましたが、とっさに両手で口を抑え、後退しました。
なんですの!あれは!
公国王とフィーの母が、男女の関係に?
そう思った次の瞬間、強い吐き気を催しました。
「う゛う゛う゛……」
どういたしましょう!小さな呻きを上げてしまいました!
あの2人に聞こえてしまったら……。
わたくしは、血の気が引くのを感じました。
あれほどカトリーン様が警告してくれましたのに。
落ち込むわたくしに、カトリーン様はそっと背中を撫でてくれ、耳元で話してくれます。
「大丈夫です。今のあの2人には聞こえていません」
確かに、あれだけ大きな嬌声を上げていれば聞こえませんわね。
ほんの少しだけ、罪悪感が無くなりましたわ。
わたくしたちは、その後すぐにその場所から立ち去りました。
帰り道は、思ったより入り口にたどり着き、クラリスに急いで着替えを手伝っていただきました。
「……」
わたくし、カトリーン様になんと申し上げたらいいでしょうか。
残念です?
確かに、公国王があのようなことをあの人と……。
残念なのですが、その一言で済ませられることでもございません。
そうですわね。
いうなれば……。
反吐が、出る!
クソくらえ!
ですわ――。
ですが、それ以外にもいろんな疑問が、浮上してまいります。
疑問だけではなく……、疑いですわね。
「エリザベート、何を考え込んでいるの?うろうろと難しい顔して歩いているけど」
カトリーン様から声を掛けられるまで、自分が動き回っているとは気が付かなく、少し恥ずかしくなりました。
「すみません。落ち着きがなくて」
恥ずかしさのあまり、少し上ずった声になってしまいました。さらに恥ずかしいですわ。
「いいのよ。……あの光景を見たら、戸惑うのもわかるわ」
悲しそうな顔をされておられます。
「それでね、今日はあなたに……、証人になってもらおうと思ったの。不貞の、ね」
なるほど、そう言うことですのね。
「勿論でございます」
異論は、ございませんわ。
その返事を聞いた王妃は、話を続けます。
「それから、フランクリンと、フィリクスの……、出生の秘密も話します」
カトリーン様は、わたくしに何を話そうと言うのでしょう。
秘密、とは?
わたくしが、それを聞いても良いのでしょうか――。




