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誠実という名の鎖に繋がれた国母は、微笑みながら毒を飲む  作者: 蒼宙 つむぎ


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20.

 屋敷に戻りましたら、ルーイスが泣いて駆け寄って参りました。


「姉さま!助けてください!」

 あらあら、涙と鼻水で顔が……。


「ダーニエルは、悪魔です!」

 あらあら、悪魔だなんて……。それだけ仕事に厳しいということですわね。


「僕は武の才が無いのです!なのに、剣術を教え込まれているのですよ!見てください!手にできた豆がつぶれてしまいました」

 そう言ってルーイスが手のひらを開いて見せてくれました。


 確かに、つぶれていますわね。

 無言でダーニエルを見ますと、困った顔をしています。


「……。ダーニエル、ルーイスは大きな剣を振り回すのは難しいのでは?3か月で剣士にはなれませんわよ」

 これまで、領主になることしか考えていなかったこの子に、剣術がそこまで必要だとは思えませんし。


「エリザベート様、ルーイス様にはご自分の身を守れるようになっていただきたいのです……」

 護身術ということですわね。でもね、人には向き不向きがありますのよ。


「でしたら、長剣ではなく短剣での戦い方を教えてあげてくださいな。ルーイスは筋肉が付いていません。すぐには、無理でしょう?」

 中性的なルーイスは、筋肉が付くのを嫌っております。背もそこまで高くなるとは……、お父様を見ていましても難しいとしか思えませんし。


「ああ、確かに短剣の方が良さそうですね。では、今から短剣での戦い方を教えます。行きましょう!」

 ルーイスはさらに大粒の涙を流しながら「筋肉はつけたくないんだ」と叫び、ダーニエルに連れていかれました。


「少し筋肉がついていた方が女性に好かれますのに……」

 フィーみたいに均整の取れた体つきの方が、この国では女性から好かれております。


「でも、自分の趣味趣向は人にとやかく言われたくもありませんものね」

 フィーが昔言っておりました。人の好みは様々なのだと。それを否定されると、本人も家族も悲しくなるから理解してあげよう――、と。


「ルーイス様は……、きっと特別なのでしょう」

 クラリスは、遠い目をして言います。

 その言い方、少し気になります。

 ですが、今はそれどころではありません。

 なぜなら――。



「お嬢様、音を立てずに歩くことを意識しておられますか?それでは、まるで南国の大きな鼻の動物みたいです。私には“ドシドシ”という音が聞こえています」

 ――クラリスはスパルタでした。


 屋敷に戻ってから夕食までしっかりと指導したから終わったと思いましたのに、今まさに夜中ですのにまだ練習をしているのですわ!


「クラリス、もう寝る時間ですわ。続きは明日でよろしいのでは?」

 明日も王妃様の下で歴史や貴族の繋がりなどを学ばなくてはなりません。居眠りはできませんからね。


「お嬢様、移動中に寝ていただけば問題ありません。後半刻、頑張りましょう」

 後半刻……。初日から頑張りすぎですわ。

 ですが、忙しいくらいがちょうどいいかもしれませんわね。

 嫌なことを考える時間がありませんもの。



 こんなことを思っていたわたくしが間違っておりました。

 クラリスはきっと、悪魔なのです。


 1刻を過ぎても、寝かせてもらえませんでしたわ!



 このような魔界での修行を1か月こなし、わたくしは完璧に足音を消して歩けるようになりました。

 気配は……、完全に消すことはまだできておりませんが。



 わたくしは、この修行がなぜ必要だったのか、この時は理解できませんでした。

 この身のこなしこそ、わたくしの身を助けることになるとは、

 思いもしなかったのです――。


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