17.
朝日の眩しさに意識が浮上し、わたくしは目を覚ましました。
体は運動をした後のような怠さがあります。
ですが、思ったより身動きが取れそうな気がいたします。
わたくしはゆっくりと起き上がり、両手を握ったり開いたりを繰り返しました。
しびれもありません。
「不思議ですわ。もっと体が動かないと思っていましたのに……」
誰がかいる気配もないのでぽつりとそんなことを零してしまいました。
「そう言えば、昨晩フィーがいたような気がしましたのに……」
部屋の中には、やはり誰もいません。
あれは夢だったのでしょうか……。
寝起きで思考がふわふわしているからなのか、ぼんやりと窓を見ました。
カーテンが開いており、よく見ると鍵が外れています。
「もしかして、……窓から?」
それはありませんね。この部屋は3階にありますから。
自分の都合のいいように考えようとしていることに、少しおかしくて「ふふふ」と笑みがこぼれました。
その瞬間、小さくノックをしたヤスミンが入ってきました。
「おはよう、ヤスミン。いいお天気ね」
やんわりと声を掛けました。
「……え?……エリザベートお嬢様?……え?!目を覚ましたんですか?!」
あらあら、とても驚いていますわね。そんなに目を見開いたら、お目目がこぼれ落ちてしまいますわよ。あ、ヤスミンはお目目が小さかったから大丈夫ですわね。
「ええ。先ほど目が覚めましたの。昨晩、熱が出たようなの。体を拭きたいわ」
汗をかいたようで、肌が気持ち悪いです。本当なら蒸気部屋で汗をしっかりかいて、冷水を浴びたいところですが、今のわたくしはそこまでの体力はあるように思えません。
「あ、本当ですね。髪の毛が顔に張り付いています。髪も香油で洗い流しましょう。それくらいならこの部屋でできますから」
「ありがとう。助かるわ」
その後、ヤスミンにしっかりと世話をやいてもらい、普通に見えるくらいになりました。
身だしなみは大切ですわね。
気持ちがしゃんとします。
「お嬢様。実は昨日、王宮からシュミット兄妹がこちらに参りました。お嬢様が倒れた後すぐのことです。クラリス様がお持ちになった解毒薬を服用して事なきを得たのですよ」
ヤスミンは、昨日のあの後のことを話し始めました。
「あら、あの2人がこちらに?どうしたのかしら……?」
1人なら“お使い“だと思うのですが、2人そろってと言うのはなぜでしょうか。
「クラリス様が言うには、お嬢様のお世話をするために来たと申していました。王妃様からのお手紙もあるとのことなので、こちらに来てもらいますね」
王妃様が……。そう言うことですのね。
「ええ、この部屋に来てもらって」
わたくしは、今はまだこの部屋から出ない方がいいでしょう。
まずは、状況をきちんと把握しなくてはなりません。
クラリスとダーニエル兄妹がヤスミンと一緒に訪れました。
「エリザベート様、お加減いかがでしょうか?体は動きますか?」
クラリスは部屋に入るなり、簡単な礼を取った後、駆け寄ってきました。
「ありがとう。貴方たちが解毒薬を持ってきてくれて助かりました。……本当に」
今考えると、とても怖い状況だったのだと、今更ですがそう思いました。
少しでも遅ければ、今こんな風に起き上がることが出来たでしょうか……。
いいえ。きっと、無理ですわね。
「間に合って、よかったです。王妃様が手配していただきましたので、すぐにこちらに来させていただいたのです。……本当に、貴方がご無事で、よかった」
クラリスとダーニエルは、なぜだか泣きそうな顔をしています。
わたくしとはそんなに接点はありませんのに、ね。
「王妃様には……。いえ、今のわたくしは何も言えませんわ」
何かを言ったところで、何も変わりませんものね。
「ところで、王妃様からお手紙を届けに来てくださったのよね。拝読していいかしら?」
王妃様が何をお考えなのか、少しでもわかればいいのですけどもね。
「はい。こちらです」
クラリスは簡易ドレスのポケットから折りたたまれた手紙を取り出し、渡してくれました。
手紙には、先日の要求をすべては飲むことはできないと書いてあります。
1.エリザベート・オーエンツォの家門であるオーエンツォ伯爵家、並びにその傘下や分家に危害を与え、エリザベート・オーエンツォを脅迫しない。
2.フィリクス・リヒタインの家門であるリヒタイン侯爵家、並びにその傘下や分家に危害を与え、フィリクス・リヒタイン及びエリザベート・オーエンツォを脅迫しない。
3.エリザベート・オーエンツォが王家に輿入れした際は、衣食住の安全を厳守する。
こちらの3つは厳守してくださるようです。
4.エリザベート・オーエンツォが王家に輿入れした際は、議会への発言を許可する。
こちらは参加できるように取り計らうが、反発を抑えることはできないとのことです。
5.エリザベート・オーエンツォに閨を強要しない。
6.3年で子を成さなければ離縁する。
7.フランクリン王子は側妃を迎えず、他の女性と子を成さない。
こちらは、残念ながら了承できないのだそうです。
やはり、無理でしたわ。
しかし、半分は飲んでいただきましたので、良しといたします。
最初から、1~3までしか無理だと思っていたので、議会に参加できるのはなによりです。
離縁や閨のことは飲むことが出来ない王家。だったら、それ以外なら多少は聞いてもらえるかもしれない。一緒にお願いをすれば、――ですけどね。
「エリザベート様、こちらは手紙にも書けないことなので、口頭でお伝えいたします。……その、アイシャ様が、懐妊した、とのことです」
「あら、先に子を成したのですね……。では、わたくしは側妃になるのですか?」
「いいえ。エリザベート様は正妃です。それだけは、絶対に変わることはございません」
「そう……。フランクリン様は納得されますでしょうか」
「それは、私では何とも言えません」
すみませんと謝られてしまい、意地悪なことを言ってしまったかしら。
「それはそうね。変なことを言って悪かったわね」
クラリスは「いいえ」とだけ答え、わたくしをじっと見つめています。
「エリザベート様。王妃様より貴方様の護衛に着くようにと言われております。私たちの主は、本日よりエリザベート様となります」
クラリスとダーニエルは深く頭を垂れています。
この瞬間、わたくしの輿入れが確実なものとなってしまいました。




