12.
「ヤスミン、貴方はどう思いますの?今の状況を貴方の目線で感じたことを教えて」
「はい。正直に申しますと、1/3が買収されているかと。侍女長と執事さんも違和感を持っているみたいですね。ですが、奥様が……ほら、頼りない方なので相談しても意味ないと思っているのではないかと」
「そう……。ありがとう。お母さまは……、そうね。相談できませんわね。ミヒャエルは?」
「……俺は、下働きの奴らの数人がそわそわしていると感じています。料理人の何人かは、駄目ですね。料理長も信用できません」
「ミヒャエル……。貴方、しっかりとお話ができるのね。見直したわ!それに、貴方の観察眼も大したものね」
「……」
あら、もうだんまりだわ。ちょっとからかい過ぎたかしら。
それにしても、料理人は困りましたわ……。食事に毒が盛られるかもしれないもの。どうしましょうか……。
わたくしは、使用人のリストに書かれた名前を一人ずつ指でなぞっていきます。
今日顔を見たのは、この中の半数。
そのうちの半数から甘ったるい香りがいたしました。
その中の1人、ルーイス付きの侍女でしたわ。
「まさか、ね」
とても感じの良い子だと思っておりましたので、残念でならないですわ。この子のことはルーイスが帰ってきてからにいたしましょう。
男性の料理長に関しては、おそらく女性に絆されたのでしょうね……。いっそのこと、女性の料理人を料理長にしてしまいましょうか。そうなると、家政の采配はわたくしがしばらくすることをお母さまに了承していただかないといけませんわ。
「ヤスミン、お母様にお話があると伝えてもらえるかしら」
「かしこまりました。すぐに行ってまいります」
「ミヒャエルは、お父様を呼んできてちょうだい」
「はい」
2人は退室の礼を取り、すぐにそれぞれの任務を遂行いたしました。
応接室ではなく、わたくしの自室にお父様とお母様が来てくれました。
「エリザベート、どうかしたのかい?急ぎの要件があると聞いたのだが」
「あら、あなたも?私も大事な話があると聞いたのだけど……」
ほわほわした顔つきの両親は屋敷内で何が起こっているのか気が付いていないのでしょうか。
「フランクリン様の元へ嫁ぐとなりますと、人の上に立つ立場になりますでしょう。その練習として、家政を取り仕切ることをさせていただきたいのです」
「あら!それもそうね。勿論いいわよ」
「ありがとうございます、お母様。……お父様、領地の執務をわたくしとルーイスにさせてくださいな。領地はいわゆる小さな国のようなものです。動きを把握することで国母になった時に役立ちます」
「そうだな。ルーイスもしっかりしているし、執事もいるから何とかなるだろうな」
「ありがとうございます。ルーイスと共に尽力いたしますわ」
わたくしが満面の笑みで感謝を述べると、両親も安心した顔をしております。ようやく、フランクリン様と婚約する気になったと、喜んでいるのでしょう。確かに、わたくしは嫁ぐ覚悟をいたしましたが……。
ひとまず、わたくしがこの屋敷の実権を握ることが出来ましたから、後は篩いにかける算段をいたしましょう。
「ヤスミン、お茶を入れてもらえるかしら?今日はこちらのお茶にしてちょうだい」
わたくしは少し大きめの瓶をそっとテーブルに置きました。
「こちらは、もしかして……」
あら、そんな顔しないで。
「ええ、あの方からいただいたお茶ですわ。久しぶりに飲みたくなって、隠し持っていたものを出して来ましたのよ」
ヤスミンも触らない、わたくしの秘密の箱に仕舞っておりましたからね。
一度温めたティーポットにブレンドした茶葉を入れ、熱い湯を注ぎ、蓋をしてキルトで作られたカバーでくるんでしっかりと蒸らします。
今日は華奢なティーカップではなく、大きめのしっかりとしたカップに注いでもらいました。
カップを持ち上げ、ふうっと息を吹きかけました。
クローブとドライオレンジの香りが辺りに広がります。
ちょっとスパイシーで、でも爽やかな香り。
「フィーの香りですわね……」
ふふっと笑みがこぼれ、つぶやいてしまいましたが、ヤスミンは何も言いません。
「ありがとう、ヤスミン」
感謝を述べると、少し泣きそうな顔をされてしまいましたわ。




